読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『パリ日本館だより』

2010年11月24日 | 評論
小林善彦『パリ日本館だより』(中公新書、1979年)

ずいぶんと古い本なのだが、面白かった。小林大先生、こんな面白い本を書いていらしたとは、ルソーとかヴォルテールの本よりも面白いなんて言ったら、激怒されるだろうか。

1976年といえば、まだ私が大学生の頃で、はじめてフランスに行ったのが、1983年くらいだった。この本ではフランスは経済的に行き詰っているのに、他方で日本製品が大量にフランスに入ってきて、日本バッシングが盛り上がっていたということだ。ときは例のニクソンショックとかオイルショックなどの頃で、それまでの重厚長大がだめになって、日本ではいち早く軽薄短小のための技術革新に力を入れるようになった時代だ。その象徴が、1981年発売のソニーのウォークマン。もちろん普通の家庭には最先端の三種の神器があって、快適な生活が送れていた。そういう日本からフランスに行ってみれば、この本に出てくる学生も言っているように、なんだか遅れた国に来たみたいという印象をもつののあながち間違ってはいないことを私も実感した。

とはいえ私がこの本を面白いと思ったのは、当然のことながら、パリの14区にある国際学園都市の話から始まるが、そこには小林先生が館長をしていた年の数年後に私もひと夏滞在したことがあるので、懐かしかったということもある。カンボジア館は本国の都合により(例の虐殺の時期だったのだろう)閉鎖されていたと書いてあるが、たしかにそうだった。私は友人が住んでいたキューバ館にその人のつてで入れてもらっていた。一番西側にあるので、ポルト・ドルレアンのメトロの駅のほうをよく使っていたし、あの頃は西側にもレストランがあったが、現在はもう本部の建物の地下しか営業していない。その後2000年にもドイツ館を利用した。治安もいいし、住みやすいところだが、20年前に比べるとなんだか寂れていっているようで残念だった。

私がこの本をもっと面白いと思ったのはなんといっても、小林先生のフランス人論である。フランス人のものの考え方がずばり書いてあって、そうそうと思いながら読んだ。パリにはすりがたくさんいて特に日本人はお金を持っていると思われているから狙われる。そして財布を取られたりした人たちを私もよく知っているので、小林先生がこうやって本に書かれるくらいだから、たしかにその通りなんだな、もっとガイドブックなんかで注意を喚起すべきだと思う。

それにしても議論の仕方でフランス人と渡り合う方法というのは傑作だ。フランス語ができない場合とできる場合とで分けて書いてあるところなど、さすがに小林先生はすごいと思わざるをえない。逆に考えれば、私はNonと言われて、すぐに引き下がった経験が何度かあるが、そこからが出発点と考えれて、こちらの事情を話して、一点の隙間でもあれば、可能性を残しておくような努力をすべきだったのだな、そうすれば相手も多少はこちらの熱意を理解してくれたかもしれないなと反省している。いまさら反省しても仕方がないのだけど。

小林先生がこれを書いた時代と大きく変わったところは、日本の文化が多少なりともフランスで認知されてきたということだろう。日本のマンガを読んで日本語を勉強したいと思い、実際に日本語を勉強し始めたフランス人がどんどん増えてきている。もう今までのように、日本人はフランスから一方的に学ぶだけではなくて、フランス人が日本に来て日本を学ぶ時代になったといえる。しかし日本人の側にそういう意識がない。だからいつまでたっても日本人はフランスに行くことしか考えていない。フランス人を日本に来させることをこれからは考えるべきで、その意味では、私たち日本人がフランス語やフランスを勉強するためにパリ大学に留学したように、フランス人が日本語や日本の文化を勉強するために、まったく日本語を知らない段階からでも短期長期に日本の大学で勉強できるようなシステムや体制を作るべきだと思うのだが、どんなものだろうか。

最近、また別の人が館長の任期を終えて、館長だよりのようなものを出版したらしい。どんな風に書かれているのか読んでみたいものだ。


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欧文OCRソフト

2010年11月21日 | 日々の雑感
欧文OCRソフト

毎日のように欧文のテキストを読んでいると、いつも面倒だなと思うのが、英文ではなくて、フランス語のようにアクセント記号などがいっぱいついている言語をスキャナーで読み取ることだ。ずっと以前まだWindows98の頃は、PrestoOCRという多言語OCRソフトがあって、これを使って読み取っていたのだが、もう現在は販売していないため、たまにヨドバシとかに寄ったときに、コーナーを見ているのだが、なんだかなというソフトしかない。しかも1万円前後もして高い。それでずっと手動で入力していた。これがけっこう疲れる。目も疲れる、肩もこる。それで今日たまりかねて、インターネットで調べてみたら、フリーのOCRソフトが見つかった。

日本語の場合はキャノンのスキャナーに付録でついていたE-Typisteの付録版のようなやつを使っているのだが、まぁそんなに変換効率がいいわけではないけど、いちいち手で入力することを考えたらいいか程度で使っている。

それに比べても欧文の場合は日本語のような漢字、カタカナ、ひらかなといろいろある言語に比べれば、少しばかりアクセント記号がついているだけの話なのでずいぶんと変換効率もいい。それにじつにシンプルで、スキャンしたら、横向きになっていれば縦に直し、変換した場所を選択し、OCRというタブをクリックするだけ。そうそう、デフォルトでは英語しか変換できないので、英語以外の言語セットはグーグルのあるサイトで入手しておく。

このサイトには日本語のセットもあったので、インストールしてみたが、残念ながら、日本語は変換してくれない。

これでちょっとは肩こりから解放されるかな。

このFreeOCRを紹介しているサイトはこちら。

上の画像は、古いバージョンのもので、最新のものはもっと洗練されている。


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『エデン』

2010年11月12日 | 作家カ行
近藤史恵『エデン』(新潮社、2010年)



『サクリファイス』のツール・ド・フランス編という位置づけのようだが、あいも変わらず自己犠牲というのか、俺の仕事はアシストという頭に凝り固まったチカの仕事ぶりに、あの華のツールがなんだかみすぼらしいものにしか見えない、そんな小説だった。

私はこのチカという主人公に、2009年のツールにスキル・シマノのチームで出場した別府をだぶらせてしまった。もちろん別府という選手のことは私はあまり知らないのだが、なんだかもうひとつ自己主張をしない、おとなしい日本人という、ヨーロッパ人がもっている日本人のイメージを地で行くような感じの選手に見ている。あくまでもこれは私の勝手な想像なので、もちろん実際の別府選手は違うだろう。

でも今年のツールにもでた新城幸也なんかをイメージさせる主人公だったらもっとツールの雰囲気も違った風に読めただろうにと思う。私はこちらのほうには南国沖縄の出身ということもあるが、高卒から本格的にロードパイクをはじめて、数年でツールに参戦できるようになったというからすごい。フランス語もまったく喋れなかったが、いまではテレビのインタビューなどにも上手に対応している。なんせ今年はジロとツールと二つのグラン・ツールを完走したのだから、たいしたものだ。アシストだけではなく、逃げ切りで上位入賞も果たしている。

なんかこれも勝手なイメージなのだが、明るくて、すぐにみんなから仲良くしてもらえる、そういう感じをもっている。どうせなら新城をイメージした主人公にしていたら、明るい作品になっただろうに、なんだかな。

主題も例によって仲間の信頼に応えるのか、裏切って自分のツーリストとしての立場を来年度につなげていけるような成績を上げるのかの葛藤というやつで、他にないのかなと思う。

どうでもいいことだが、今年はせっかく録画できる準備をしていたのに、J-Sportsで全部放送したのは3週間のうちのたった一日だけであとはダイジェストだったのは残念だ。まぁ録画しても5時間6時間の長丁場、見なかったかもしれないけどね。

『サクリファイス』も面白かった。

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