文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:水鏡推理Ⅲ パレイドリア・フェイス

2017-01-10 08:47:56 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
水鏡推理3 パレイドリア・フェイス (講談社文庫)
クリエーター情報なし
講談社

・松岡圭祐

 本書は、文科省の一般職事務官である水鏡瑞希が、総合職の官僚たちを巻き込んで、研究費に関する不正を明らかにするというシリーズの第3弾となる。

 今回瑞希が暴くのは、地震の後で突如現れたという「人面塚」と「地磁気逆転」に関するインチキ。なお、サブタイトルの「パレイドリア・フェイス」とは、色々な模様やパターンなどが人の顔に見えてしまうような心理現象のことである。そう、よくある「ここに霊が写ってますね」というあれである。

 そして、「地磁気逆転」について。こちらは、現在北極がS極、南極がN極になっている地球の磁気が、過去には逆転していた時代があったというものだ。最近の研究では、一番新しい逆転現象は、千葉で見つかった地層から、77万年前だという説が有力になっているようだ。

 ところが、この作品は、新潟、鹿児島そして栃木県の北部で75万年前に地磁気逆転が起きた証拠の地層が見つかったという設定だ。そして栃木の地層の近くには、上空から見ると人の顔に見えるという、人面塚が出現したのである。

 一言断わっておくと、このシリーズは科学技術に関する研究の不正を暴くという内容から、一応科学技術をモチーフにしていることになっているのだが、この部分に関しては結構眉唾なところが多い。自分の専門に近い部分ならよく分かるのだが、かなりむちゃくちゃなことも書かれている。また、作品の中で扱われている不正の手段も、なんともチープなもので、実際にこんなアホなことをするような科学者がいるとも思えない。おそらく、著者は科学技術に関してはそう詳しくはないのではないかと推測する。今回の手品の種明かしも、なんといえばよいのか・・・。

 しかし、それでもこのシリーズを読み続けているということは、別の魅力があるからだとしか言いようがない。瑞希のひたむきさ、一生懸命さが、総合職の官僚までも巻き込んで、大きな敵に立ち向かっていく。そこがとってもいいのだ。要するに「ヒロインの魅力」、この一言に尽きるのだろう。(もっとも最近では、ツッコミどころを探すのも楽しみの一つになっている節も(笑)。なお私は、ツッコミながら読むのも、立派な本の楽しみ方の一つだと思っている。)

 それにしても、某ネット書店のレビューを読んでみると、科学技術的なところへのツッコミがほとんどない。それどころか、その部分を褒めちぎっているようなものも目立つ。これが、この国の科学リテラシーの現状なんだろうなと思うと、少し悲しい気もするのではあるが。

☆☆☆

※初出は、ブログ「風竜胆の書評」です。

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