未来化する社会 世界72億人のパラダイムシフトが始まった (ハーパーコリンズ・ノンフィクション) | |
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ハーパーコリンズ・ジャパン |
・アレック・ロス、(訳)依田光江
本書は、インターネットとグローバル化により、世界を変えていく産業について書かれたものだ。著者は、ヒラリー・クリントンが国務長官時代に、イノベーション担当上級顧問を務めた人物である。
ここで取り上げられている産業は、次の5つ。①ロボティクス、②ライフサイエンス、③通貨のコード化、④サイバーセキュリティ、⑤ビッグデータ。これらの産業は、私たちの生活を大きく変えていくことは間違いない。現在においてもその兆しは見えている。
しかし、それは必ずしも明るい面だけではないのだ。光あるところには影が存在する。本書はそんな産業の現状と今後どのように進んでいくのかを光だけでなく影の側面も含めて私たちに示している。
例えばロボティクスについてだ。かっては人間しかできないと思われていたことが次第にロボットに委ねられはじめている。ロボティクスの発達により、人間はもっと生産的なことに向かえるものの、その反面人間から多くの職を葬ってしまうという。ロボットのもたらす変化に対して、人間は必ずしも対応できるわけではないのだ。
ライフサイエンス分野については、正常な細胞とガン細胞のゲノムシーケンスを比較することにより、どこに原因があるか突き止められるという。その一方では人が遺伝以外の原因に目を向けなくなるおそれもあると警告している。
通貨のコード化というのは、例えばビットコインだ。これは、管理機構が信用を保障するという従来の秩序をひっくり返して、アルゴリズムと暗号を駆使した新しい金融システムをつくるということだが、影の部分としてはマウントゴックス事件を上げれば十分だろう。
サイバーセキュリティについては、既にこの話題を聞かない日はないくらいだ。戦争においても、既に直接的な戦闘ではなく、コード戦争の時代に入っている。サイバー攻撃は敵を大混乱に陥れられるのだ。更に何でもネットに繋がるIoTの時代が近づいているため、この分野はますます重要になるだろう。本書には、いずれ、トースターボットネットのようなものが出現するかもしれないと、ユーモラスなのだか、不気味なのだかよく分からないようなことが書かれている。
最後にビッグデータだ。データ収集量の増加と、コンピュータ能力の増大により、データの山の中から、有用な情報を掘り出せるようになった。金融や農業など、様々な分野への応用が期待されている。しかし、プライバシーの問題あったり、誤った相関が出てくることがあったりとこれもバラ色の未来だけではない。
これらの産業は、全てコンピュータ技術の発達があってのことだ。大きな特徴は、物理的な場所の制約を受けなくなるということだろう。本書は、そのような可能性についても書かれているが、果たしてこれからは、東京周辺への一極集中を緩和する方向へ世の中が進んで行くのか。
もうひとつ本書で主張されているのは、女性と若者が活躍できる世界の重要性である。もうおじんが大きな顔をしているような時代ではない。これからは、これまでとは違った感性で、イノベーションを進めていかなくてはならないのだ。
コンピュータ技術の発達とグローバリズム化に伴う光と影。本書は、そんな近未来を予想させる一冊である。
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※本記事は、「風竜胆の書評」に掲載したものです。