廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

六本木WAVEの想い出

2014年03月22日 | 廃盤レコード店
私がレコード漁りを一生懸命していたのはもう20年以上も前のことで、暇さえあれば都内のどこかのレコード屋に行っていました。
今はレコードを買うために休日に外出するなんてことは全くないのですが、当時は都内にはたくさんの中古屋があって、金はないけど元気だけは
あったので、本当にいろんなところに通っていました。 だから、お店ごとにいろんな想い出があるのですが、その中でも印象深いお店の1つに
六本木WAVEがあります。

当時の六本木WAVEというビルは最先端の映画・本・音楽・ファッションなどの文化の情報発信をしていた、オシャレでハイブロウな処でした。
そのビルの中にジャズとクラシックのレコードやCDが置いてある小さなスペースがありました。 当時はタワーレコードやHMVのようなメガストアが
全盛でしたが、ここはレコードもCDも本当に極々少し並べて置いてある完全セレクトショップで、まるで個人のコレクションを伐り出して売りに出して
いるかのような風情でした。 

ここは何と言っても、当時のDUでは絶対に見ることができなかった欧州ジャズの音盤ばかりが並んでいるのが特徴で、オシャレな雑貨や洋服や
古い映画のポスターなどが間接照明の下で展示されている延長線上に置かれている独特で異質な空間で、そこで数少ない音盤を眺めているだけで
なんだが自分が素晴らしい別の誰かになったかのような錯覚に陥るくらいでした。

ここでは強烈な想い出が2つあって、1つは Thierry Lang を初めて知ったことです。





これは正しくはないかもしれませんが、私の記憶では Thierry Lang を日本に初めて紹介したのはこのお店だったのではないか、という気がします。
DUにも置いていたかもしれませんが、ちょっと憶えていません。 まあ、それだけWAVEでの印象が強烈だったわけです。

ある時、この2枚がフェイスで置かれていて、その後ろに在庫がいつも2~3枚並び、店内では常時これらが流れていました。 当時、こういう
抒情的なピアノの音盤は他にはなかったので、衝撃的でした。 何の予備知識もなかったにも関わらず飛びついて買って、本当によく聴いたものです。
この後少し時間を置いてピエラヌンツィが再発見されて紹介されて、以降、欧州のキレイ系ピアノトリオが大きな潮流の1つとなっていくのですから、
このお店が果たした役割は大きなことだったと思います。 そのエポックメイキングな瞬間を目の前で見ることができたことには感謝しています。


もう1つの想い出は、こういう欧州の廃盤レコードを初めて見たことです。



Rene Urtreger Trio ( 仏 Versailles STDX 8008 )


新品のレコードやCDに混じって、廃盤レコードも常時20枚くらいですが置かれていて、その中にこのレコードもありました。
それはジャケットがシワシワになっていて茶色のシミもついて、まあひどい状態でしたが、それでも確か10万円近い値段がつけられていた
ような記憶があります。 随分昔のことなので正確には憶えていないのですが、それでも当時、そんな値段のレコードは滅多になかったので、
一体これは何なんだ、と驚愕して、私の脳裏に強く焼き付きました。

あれから20年、改めてこのレコードジャケットを眺めながら聴いてみると、当時のいろんな風景が蘇ってきて何だか涙が出そうになります。 

そういう感傷的な想い出があるからという理由だけでこのレコードは手放さずに持っているんですが、実は内容は大したことはありません。
一聴して、なんだ? まるで下手なクロード・ウィリアムソンみたいじゃないか、という感じです。 稀少盤だから褒める人が出てくる、という
パターンの典型です。 音も大してよくありません。 この人は、澤野商会から出ている最近の録音のほうがずっといいです。




Barney Wilen Quintet ( 仏 Guilde du Jazz J-1239 )


これも、そこで初めて見ました。 なぜか値段は全く憶えていませんが、いつも高い値段が付いているので初めから値札を見るのを
諦めたのかもしれません。

これは音が凄いレコードで、スピーカーから音の塊りが飛び出してくる感じです。 よくRCA盤の音が凄いと言われますが、こちらもそういう意味では
負けてないと思います。 このレコードはアルトの Hubert Fol の名演が聴けるし、収録されているスローブルースに素晴らしい名演が残されて
いるので、私はバルネのレコードではこれが一番好きです。


私がレコードの所有枚数なんて少しでいい、と思うようになったのは、間違いなくこの六本木WAVEでの体験が影響しています。
本当に好きなレコードなんてそんなにたくさんあるわけじゃないし、厳選した愛聴盤だけが手元にあって、それらを永く大事に聴ければそれでいい、
と思えるのは、そこにあった知的で親密な雰囲気に強く憧れていたからかもしれません。 少しずつですが、そういう世界に近づいていければ
いいなあ、と思います。



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6 コメント

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Unknown (松葉蘭)
2015-02-04 18:34:51
 WAVE、今は無きでよかったでしょうか。
 90年代には札幌にもWAVEがあって、私もお世話になっていました。
 六本木店については’95年夏にようやく訪問できましたが、既に当時は文中にある様な店舗形態はとっていなかったと記憶します。
 当時のスイングジャーナル誌掲載のWAVE広告「Hard to find」は中々に強烈で、ビンテージマイン広告にもありましたが、見たことも聴いたことも無い欧州盤がズラズラと並んでいたのを今も覚えています。切り抜いて取り置けば、過去を振り返り見るに興味深い資料となったことでしょう。ジャズ批評誌等々で健筆をふるっておられた滝口ヒデユキ(ジョウジ)氏の采配だったのでしょうか?
Unknown (ルネ)
2015-02-04 20:40:29
無くなってからもう随分時間が経ってしまいましたね。 でも、不思議と記憶は生々しく残っているものです。
私はスイングジャーナル誌は立ち読みで新譜レビューを斜め読みするくらいでまじめに接していませんでしたので、巻末の広告を見たことがないんです。
若気の至りで、本当に読むべきところのないつまらない雑誌だ、と思っていました。 WAVEのことは人づてに教えてもらったんだと思います。
当時の私には到底手の届かない値段のレコードばかりでしたが、そういうものを生で見るということでも十分たくさんのことを学んだと思います。 買って持つことだけがすべてじゃない、とあの時に学んだのかもしれませんね。
Unknown (松葉蘭)
2015-02-12 09:15:44
 Thierry Langをはじめ、エンリコ・ピエラヌンツィ、ラーシュ・ヤンソン等々が、欧州のキレイ系ピアノトリオ流行の潮流を(日本に?)産み出し、その時代を牽引したと記憶します。
 私もそれに乗せられて随分と散財しました。この頃は、書籍情報よりも”ぷーれん”と自称される方がお書きの「愚堕落月報」を参考にしていました。
 Thierry Lang"Private Garden"は、①と⑧そして表題曲の⑥が好ましく、聴く者のその時代を切り取ってくれる力ある佳曲、好演に思います。
 Barney Wilen QuintetのGuilde du Jazz盤の素晴らしいスローブルースとは”BLUE HUBERT”でしょうか? テナーとアルトがフロントのQuintetは意外に多くはなく、私も夏の一時期よく聴いたCDです。
Unknown (ルネ)
2015-02-14 22:39:02
そうです、そうです、Blue Hubert です。アルトとテナーは確かに珍しいですね。 Hubert Fol はなかなかいいアルトですが、アルバムが残せなかったのが残念ですね。
愚堕落月報って、知りませんでした。そういう自分だけのお気に入りがあるといいですね。
ティエリー・ラングのこの2枚は本当にいいと思います。でも、これ以外はどれもあまりピンときません。先日の新作も、どうも何か足りない感じがして私にはダメだした。
懐かしの六本木WAVE (ふくすけ)
2023-12-05 16:59:28
先日、Last Chance Recordには返信をいただき、ありがとうございました。
廃盤レコード店のタグを見ていたら、六本木WAVEのこともありましたので、
懐かしく拝見しました。当時、姉の勤務先が近くにありましたので、2~3回、
訪問したことがあります。WAVE独自で復刻されたフーベルマンのベートーヴェン
Vn協奏曲を購入したと思います。通常は通信販売で購入していましたが、
その時は、結構ひんぱんに東京へ行っていましたので、ついでに寄って
直接購入いたしました。

> ここはレコードもCDも本当に極々少し並べて置いてある完全セレクトショップで、
> まるで個人のコレクションを伐り出して売りに出しているかのような風情でした。

> ここは何と言っても、当時のDUでは絶対に見ることができなかった欧州ジャズの
> 音盤ばかりが並んでいるのが特徴で、オシャレな雑貨や洋服や
> 古い映画のポスターなどが間接照明の下で展示されている延長線上に置かれている
> 独特で異質な空間で、そこで数少ない音盤を眺めているだけで
> なんだが自分が素晴らしい別の誰かになったかのような錯覚に陥るくらいでした。

ラストチャンスレコードの際も記載しましたが、当時も私はクラシックレコードを
中心に蒐集しておりました。それでも、実際に訪問したことのある六本木WAVEについて、

> 独特で異質な空間で、そこで数少ない音盤を眺めているだけで
> なんだが自分が素晴らしい別の誰かになったかのような錯覚

と記載されているのがよくわかります。私も、田舎者の自分にはそぐわないけれど、
あこがれの空間でした。
これからもブログを楽しみにしております。
Unknown (ルネ)
2023-12-05 20:52:44
フーベルマンと言えば、ムザ盤のクロイツェルしか知りません。ベートーヴェンのコンチェルトと言えばセル&ウィーンフィルがありますが、
その音源なのでしょうか。
WAVEは独自の見識で音楽産業に関わっていたようで、今思い出しても尖ったお店でした。
最近はそういう1歩先を行くような人たちはすっかりいなくなりましたね。寂しい限りです。

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