廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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リヴァーサイドの弱点

2015年11月23日 | Jazz LP (Riverside)

Wes Montgomery / The Incredible Jazz Guitar Of Wes Montgomery  ( Riverside RLP 12-320 )


リヴァーサイドは1955年から61年にかけて、ニューヨークにある "Reeves Sound Studios" をメインに使って録音していました。
当時、東海岸でも有数のレコーディングスタジオだったこの会社の主要な仕事は日中に行われるラジオのジングルやコマーシャルの録音で夜間は使われて
おらず、そこに目を付けたオリン・キープニューズは交渉の末、夜間に無制限に使用できる長期契約を安い金額で結ぶことができました。

このレーベルが設立されたのは1952年と遅く、既に市場にはブルーノートやプレスティッジのレコードがたくさん出回っており、そんな中でレーベルを
成長させていくためにはいかに安いコストでレコードを作っていくかが最重要課題でした。 また、先行する2強レーベルと契約していたRVGサウンドと
差別化を図る必要もありました。 当時のジャズ・ミュージシャンは夜型の生活で、日中に行われるブルーノートやプレスティッジのレコーディングは
みんな調子が悪い中で行われていたから、夜のクラブでのライヴが終わった後に彼らをスタジオに呼んで演奏させればもっといいレコードが作れる、と
キープニューズは考えた。 そういうこともあって、このスタジオが使われました。

その際の主任エンジニアはジャック・ヒギンズで、このレーベルの代表作と言われるレコードの多くを録音しています。 ただ、この人の録音にはムラが
あって、アルバム毎にサウンドがバラバラ。 あるものはエコー過剰だったり、あるものはデッドでゴツゴツと硬い音だったり、と統一感がまるでない。

更に悪いことに、このレーベルは60年頃を境にこのスタジオ以外の複数のスタジオや録音技師も多用するようになります。 1人のアーティストに
対して複数のエンジニアが絡むことになるので、聴く側にしてみるとそのアーティストの音楽の印象がちぐはぐなものになってしまう。

例えば、ビル・エヴァンスの場合、"ポートレート" はジャック・ヒギンズだけど、"エクスプロレーションズ" はベル・サウンド・スタジオのビル・ストッダード、
ヴァンガードの2枚のライヴ盤はデイヴ・ジョーンズ、という具合に、連続して録られた4つの傑作群として語られるこれらのアルバムも聴いた際の音場感は
実際はバラバラで、どこか居心地の悪さが残ります。 残念なことに、一番内容が優れている "エクスプロレーションズ" の音質が一番こもっていて、
音圧も低く冴えない感じです。

看板アーティストの1人であるウェス・モンゴメリーの場合もちょうどその時期に録音をしたので、 "ダイナミック" や "インクレディブル" はジャック、
"フル・ハウス" はウォーリー・ハイダール、"ボス・ギター" や "ソー・マッチ" はプラザ・サウンドのレイ・フォウラー、という具合です。 で、一番の謎は
代表作と一般的に言われる "インクレディブル" だけがなぜか音質が著しく劣っている、ということです。 録音年月が一番古いというわけでもないのに
こういうことになっていて、訳が分からない。 それ以外の作品はいい音で鳴るので、こちらもどうにも残念です。

後発のマイナーレーベルだったという運の悪さからサウンド作りの面を犠牲にせざるを得なかったために、常に3番手という扱いに甘んじることになった
のは、キープニューズにとっても作品を残したアーティストにとっても気の毒という他はありません。 これは私だけの見解かもしれませんが、契約した
アーティストの顔ぶれや残された作品の質の高さだけでみれは、リヴァーサイドはプレスティッジよりもずっと優れていると思います。 
ただ、こういうサウンド面で一本筋が通っていない半端さが「線が細い」という印象をどうしても残してしまうのです。 ジャズにとってこれは致命的です。

ただ、ウェスの作品やエヴァンスの作品は、そういう面での弱さに負けない内容の凄さで他のレーベルの作品を圧倒しているのは間違いないし、
きちんとそういう評価を受けていることには救われる気持ちです。 レコード芸術はこういう風にアーティストの力だけでは成立しきれないというところが
やっかいで難しい。


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