廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

叶わぬ願い

2020年05月10日 | Jazz LP (Milestone)

Lee Konitz / Duets  ( 米 Milestone MSP 9030 )


このアルバムを語る時は概ね自然と肩に力が入ってしまい、なんだか敷居の高い高尚な作品のような印象になってしまうけれど、実際のところは
そういう感じはまったくない。コニッツの音楽は本質的に "軽い" 音楽で、そこがいいのだ。通して聴くと疲れてしまうというようなことはなく、
アルトをメインにしているせいか、全体的に心地よい軽快さ、爽やかさがある。あの "Motion" もどこか浮遊して彷徨っているようなところがあって、
重苦しいところはない。それはまるで本人の人柄のように、音楽の中からどうしようもなくにじみ出ている。

難解さなんてどこにもない。メロディーから離れてインプロヴィゼーションを取る時点で既に自由を手に入れた、ということがコニッツのアルバムを
聴いているとよくわかる。コニッツの演奏が始まると、音楽の風景は一変する。その一瞬で変わる場面転換が快感だ。

"Alone Together における変奏曲" でも、自由な演奏をしながらも常に主題を挟むことでこの演奏がスタンダードであることを忘れさせないから、
聴き手は安心して演奏に身を任せることができる。演奏者の自己満足ではなく、聴き手をちゃんと意識した作りをしている。

リッチー・カミューカとのデュオではカミューカがリズム感に優れた演奏をするので、コニッツも安心して歌うようなアドリブラインをとる。
こうして比較すると、コニッツがアドリブをとる時にいつも見せる少しうわずったような語り口がよくわかる。そうそう、これがコニッツの
歌い方なんだよなあ、と今となってはしみじみと聴き入ってしまう。

レイ・ナンスとのデュオは、民族音楽臭の抜けたバルトークの音楽のようで面白い。レイ・ナンスはジャズでは普通やらないピチカートも多用して、
クラシック音楽の雰囲気が行ったり来たりする。なかなかやるじゃん、という感じで、御大もすごく頑張っている。コニッツのコンセプトに
深く共感した演奏で、それに応える力があるのが素晴らしい。エリントンのレコードだけ聴いていてはわからないこの人に実像の一歩近づける。

このアルバムの唯一の残念なところは、各演奏が短いところ。どの演奏ももっとしっかりと聴きたいのに、スペースの都合であっと言う間に
終わってしまうのがとにかく物足りない。これだけ充実した内容なのだから、最低でも2枚組にして欲しかった。優れた演奏にはいつもこういう
「おあずけ感」が残るものだが、このアルバムには特にそう感じる。パート2をやって欲しかったけど、叶わぬ願いとなってしまったな。


コメント
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