世界変動展望

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バルサルタンの論文不正はどんな犯罪になるのか?

2013-05-22 01:31:16 | 社会

今回のバルサルタンの論文不正は刑事事件に発展する可能性がある。どんな犯罪になるのだろうか?あくまで私の見解だが、国公立系職員(国公立大学・国立研究所の研究員、日本学術振興会特別研究員など)の論文や口頭発表資料の捏造や改ざんは虚偽有印公文書作成罪及び同行使罪(刑法156条、同158条1項)になる。以前に考察した(その1その2)。科捜研の職員がデータ流用してこれらの罪に問われたことがある。国公立系研究機関職員はみなし公務員で刑法上は科捜研の職員と同じ立場だ。

ただ、今回はそれだけに留まらない。京都府立医大のM元教授らはノバルティスファーマ社と癒着してノ社に有利な結果に改ざんして発表したのなら、加重収賄罪(刑法197条の3 1項、2項)になる[1]。1年以上20年以下の懲役だからかなり重い罪。加重収賄罪というのは公務員が賄賂を受け取って不正行為をした時に成立する罪。Mらがノ社から受けた厚遇が実質的に賄賂に相当し、それによってノ社に有利になるようにデータを改ざんして論文を発表したらこれに該当する。前に述べた虚偽有印公文書作成罪・同行使罪(1年以上10年以下の懲役)と加重収賄罪は手段と目的の関係なので牽連犯(刑法54条1項後段)になる。最終的に処断刑は加重収賄罪の法定刑と同じ1年以上20年以下の懲役となる。

臨床研究に関与していたノ社社員が不正を行った場合は会社の株主等に損害を与える行為になるので背任罪(刑法247条)が成立するだろう(公訴時効は大丈夫か?背任罪の公訴時効は5年)。ノ社社員がMらとぐるになって改ざんを実行していたら、虚偽有印公文書作成罪・同行使罪、加重収賄罪の共同正犯(刑法60条)となる[3]。

経営者も関与し組織ぐるみで癒着し不正行為をさせたなら、経営者は特別背任罪(会社法960条)及び贈賄罪(刑法198条)になる。唆して論文改ざんさせたなら加重収賄罪教唆(刑法197条の3 1項、2項、刑法61条)にもなる。特別背任罪と贈賄罪は観念的競合(刑法54条1項前段)なので特別背任罪の法定刑である「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」となる[2]。加重収賄罪教唆が成立すれば処断刑は1年以上20年以下の懲役となる。

研究者と企業がぐるになって患者から薬代を詐取したのなら非常に重い詐欺罪にもなる。

私は今まで研究機関の研究者の論文捏造・改ざんで刑事事件化された例を見たことがない。それはおそらく研究機関側が刑事罰を与えるまでもないと考えているとか、専門家でない捜査機関や裁判所が学術的内容を十分理解できないといった理由があるのだろう。

論文不正の問題は学術的な判断が必要なのは捏造・改ざんの有無だから、それを研究機関が正式に認定したら残りは法的判断だから捜査機関や裁判所は動けるはずだ。研究機関は「犯人は十分制裁を受けたから刑事罰を与えるまでもない」と勝手に判断して刑事告発しないかもしれないが、刑事訴訟法第239条1項により誰でも告発(被害者など告訴権者以外の第三者が犯罪の訴追を求めること)でき、告発があれば、犯罪捜査規範第63条1項により警察は告発を受理する義務があり、告発を受理したら、刑事訴訟法第189条2項により警察は捜査義務が発生し捜査しなければならず、刑事訴訟法第242条により捜査後速やかに証拠書類等を送検する義務がある

検察官が不起訴(起訴猶予含む)にしても、検察審査会法第2条2項、同第30条により告発者は不起訴処分への不服申し立てができ、検察審査会で認められれば強制起訴できる

今回は重大事件であるから、学術的調査で不正が認定された後に特捜などの捜査機関が加重収賄などの癒着の側面を徹底的に調査して真相を究明した方が再発防止のためによいだろう。これまでの研究機関の調査をみると都合が悪ければ隠蔽する、不当に甘く処分する等という対処が珍しくない。バルサルタン事件でもこういう態度を繰り返すと同じ事件が再発する。世界中の人の健康や生命に甚大な被害が出るおそれもある。二度とこのような事件を繰り返してはならない。

なお、学問の自由(憲法23条)や大学の自治(学問の自由の制度的保障)の要請から行政機関(警察など)は学術上の問題や研究機関の自治に介入できないと主張する人がいるが、研究機関といえど治外法権の場ではなく学術上の問題でも論文の捏造や改ざんが犯罪であれば捜査や裁判の対象となるし、正式な令状があれば研究機関内に立ち入って強制捜査することも可能である。

参考
[1]刑法第百九十七条の三  公務員が前二条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、一年以上の有期懲役に処する。

2  公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、前項と同様とする。

[2]会社法第九百六十条  次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一  発起人
二  設立時取締役又は設立時監査役
三  取締役、会計参与、監査役又は執行役
四  民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
五  第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
六  支配人
七  事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
八  検査役
[3]刑法60条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

なおノ社社員は公務員ではなく虚偽公文書作成罪・同行使罪、加重収賄罪を行う身分を持たないが、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。 」(刑法65条1項)により、上記の罪の共同正犯となる。通説や最高裁判例(昭和40年3月30日)では共同正犯も刑法65条1項の「共犯」に含まれると解している。

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