駒子の備忘録

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『シェルブールの雨傘』

2014年09月07日 | 観劇記/タイトルさ行
 シアタークリエ、2014年9月2日ソワレ(初日)。

 車の整備士として働くギイ(井上芳雄)は伯母のエリーズ(出雲綾とふたり暮らし。恋人のジュヌヴィエーヴ(野々すみ花)との結婚を夢見るが、ジュヌヴィエーヴの母で傘店を経営するエムリー夫人(香寿たつき)は若いふたりの仲を認めようとしない。ある日エムリー夫人の元に税金の督促状が届き…
 脚本・作詞/ジャック・ドゥミ、音楽/ミシェル・ルグラン、演出・振付/謝珠栄、翻訳・訳詞/竜真知子。1964年にカンヌ国際映画祭グランプリを受賞した同名のミュージカル映画の舞台化。2009年初演の再演版。

 初演の感想はこちら。評判が良くて、となみが観たくて、追っかけで捕ったチケットじゃなかったかなあ…今読むとけっこうキャラクターに対する印象が違うんだな、私が変わったのか演出のニュアンスが変わったのか?
 細かいことは忘れていて、今回はスミカを観たくて出かけました。スミカの卒業後の舞台はいくつも観ていて、どれもちゃんとしたリアルな肉体を持った役だったけれど、今回のハンパないフェアリーっぷりはどういうこと!? 細い! 可愛い!! いじらしい!!! はかない!!!!
 小さくて芳雄くんの腕の中にすっぽり納まって、ホントにフランスの田舎町の16歳のお嬢さんで。ママに逆らったり大人ぶったり、でもまだまだヤングなお年頃のザッツ少女。深く渋い演技はいらないかもしれない、そしてこの全編歌のミュージカルには歌唱力がやや怪しいかもしれない。でも今回のスミカは全身でジュヌヴィエーヴだった。やっぱり怖ろしい子!

 そして大人のお伽噺というか、でもリアリティあるラブロマンスというか、この作品の世界観に浸りきりました。
 悪い人はいない。カサール(鈴木綜馬)はお金でジュヌヴィエーヴを買ったのではない。エムリー夫人は安楽のために娘を売ったのではない。マドレーヌ(大和田美帆)は献身でギイの愛を買ったのではない。そういう打算や算段はなくて、ただ純粋な心のままに動いて、そこに戦争があって、狂わされた人生があった…というだけのこと。
 時がたって再会して、でもみんな幸せで、だから何も起きない。ただ雨が雪になっているだけ。せつない、悲しい、でも過去の顛末がなければ今の幸福はなく、現在と未来はそこに立脚している。だからまた別れていき、雪だけが降り積もる…

 おもしろいのはやはりフランスの文化というか社会的な空気で、未婚の母になることとか結婚しないことを日本のように悪いことだとか恥ずかしいことだとか思っていない感じなんですよね。他の男性の子供をお腹に抱えて別の男性に嫁ぐことにもそんなにハードルが感じられない。だからエムリー夫人もそういうことを理由に娘を追い込むようなことはしない。ただ娘の幸福や安定を望んでいるだけ。
 そしてそれはやはり時代柄なのか、ジュヌヴィエーヴには生死もわからないギイの帰りをひとりで待って子供を産み育てる、なんて選択ができなくて、心のよりどころを欲したし、カサールさんの好意や恩義に報いたい気持ちが確かにあったんだよね。だから売られた花嫁、みたいな悲壮感はなく、ただ悲しくせつなく嫁いでいく。でもそこに嘘がないからこそ、ふたりの間にはのちに時間をかけて愛情が育まれたのだろうと思います。
 ギイがフランソワーズに会うことを望まないのも薄情だとは思わない。自分にはフランソワがいるし、だから同じようにフランソワーズはカサールの子供なのです。血がどうとかではない。そんなのはただの感傷です。
 ふたりはほとんどお互いのことを忘れていたでしょうけれど、それでも真に忘れ過去として消化するために、この再会は必要だったのではないでしょうか。我々観客はそこで泣くけれど、彼らはそれを乗り越えて未来に向けて力強く歩き出すのです。
 そんな悲しくも美しい、物語なのでした。古いとは思わない。愛され続けていくといいなあ。

 アンサンブルの美しさ、使い方の妙が素晴らしい舞台でもありました。可愛らしいセットも作品に似合っていました。良き公演となりますように。スミカが芳雄くんファンに愛されますように!(^^;)


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