駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『唐版 滝の白糸』

2013年11月24日 | 観劇記/タイトルか行
 シアターコクーン、2013年10月8日ソワレ(初日)、10日マチネ、15日ソワレ、19日マチネ、29日マチネ(千秋楽)。
 シアターBRAVA!11月12日ソワレ(初日)、16日マチネ(大楽)。

 音のない町、その一角にある人気のない長屋。よるべなき少年アリダ(窪田正孝)が歩いている。そのあとを怪しげな銀メガネをかけた男(平幹二朗)がついていく。いぶかしむアリダに銀メガネが語ったのは浅からぬ因縁。十年前、男は幼いアリダを誘拐しようとして逮捕・投獄されたという。懐かしむには歪みの大きなふたりの記憶だった。その上今日はアリダの兄の一周忌でもあった。兄は同棲していた女・お甲(大空祐飛)と心中を図り、自分だけ死んでしまった。生き残ったお甲は兄との間にできた子を産み、今はミルク代にも事欠く始末でアリダに連絡してきたのだった…
 作/唐十郎、演出/蜷川幸雄。1975年初演、泉鏡花『義血侠血』を下敷きにした演劇スペクタクル四演目。全一幕。

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 三演目(富司純子、藤原竜也、西岡徳馬)の映像を知人にお借りして見たのですが、赤いチャイナの富司純子のお甲の年増感が素晴らしく、藤原達也のアリダは妙にリアルな青年になりかけの少年で、西岡徳馬の銀メガネがまたやさぐれた中年男の嫌ったらしさ爆発で、膿んで爛れて猥雑さに満ちた芝居で仰天しました。
 これはお金の物語に私には見えました。でも私がコクーンで観たのは、確かに愛の物語だったように思えたのです。
 窪田くんのアリダは第一声からまったくもってリアルではなかった。普通人はあんなふうな話方しない、とすぐさま感じられました。だからこれは虚構のお話なんだな、と思えた。
 続く台詞や会話がすべて詩的で超現実的なので、その印象は間違っていなかったのだなとすぐさま補完されます。普通人はこんなことは話さない。平さんの銀メガネは渋く枯れ錆びれた味わいに溢れ、ニヒルな詩情を漂わせていました。
 ここはゴーストタウンの袋小路だとされているけれど、むしろ異次元の、異空間のどこかで、そこに漂っている人々の話なのだな、と思えました。運送屋(井手らっきょ、つまみ枝豆)はそこに迷い込んできてしまった現実の人々なのかもしれない。羊水屋((鳥山昌克)はもはやこの世界に取り込まれてしまった人なのかも…とか。
 だからそこに現われた大空さんのお甲さんが、清潔で生真面目で誠実でちょっとだけお茶目に見えたのも、この世界には似合いに見えました。
 彼女はまだ若く、男を失い子供を産んで母となってもなおどこか少女のようで、所帯くささはまったくなく、確かにお金に困ってはいるらしいけれど落ちぶれたところや下卑たところがみじんもなく、おもねったりへつらったりするというよりはあくまで常識的な人づきあいとその正当な対価を要求しているような、潔さや清々しさ、凛々しさに溢れていました。菖蒲は決してひまわりのような花ではないかもしれないけれど、彼女はおひさまに向かってまっすぐに咲く花のようでした。
 それが間違っているとか似つかわしくないとかは、もちろん贔屓目かもしれないけれど、私には思えませんでした。
 浮世離れした異空間で浮世離れした人々が詩的な台詞を紡ぎさらに詩的な時空を作り、そして最後に飛翔して消え去る話…だと思ったからです。
 こういう『滝の白糸』もありなのだろう、今回はこういうものにしたかったのだろう、そしてそれはそれでしっくりはまっていたと私は思う。
 私は、何かとても美しいものを観させてもらっている気になれました。だからリピートも楽しかった。この世界が好きでした。

 でも大阪公演では、まず銀メガネに湿度が出てイヤったらしくなっていて驚き、そうするとアリダにも湿り気が出てきて、そしてお甲はとても生っぽく、体温を持った女になっていました。
 客席からは笑いもこぼれていたし、また別の演目を観ているようでした。あの変化、化けっぷりは舞台の魔法だったなあ。
 どっちが正しいとかではないと思うし、もしかしたらベタッとしてものに仕上げた方が本来の戯曲の持ち味を生かしたことになるのかもしれないけれど、私は好みとしては東京公演の方が好きでした。でもこちらもおもしろいと思いました。
 こういうのは作為的なのかなあ、たまたまなのかなあ。本当に不思議です。

 窪田くんが喉をつぶすこともなく、大空さんも引き抜きが失敗した回もあったりしつつも大過なく過ごせ、いいカンパニーだったようで何よりでした。
 唐ファン、演劇ファンからの評判はどうだったのか測りかねますが、大空ファンとしては大満足、上々の宝塚歌劇団卒業後第一作だったと思っています。いい舞台女優さんになってくれると嬉しいなあ、と心底思います。

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