対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

『光学』と『新天文学』の関係

2018-08-03 | 楕円幻想
以前、『世界の見方の転換3』(山本義隆著)の脚注から、次のような推測をした。2次曲線の「焦点」はギリシアの昔からあったのではなく、17世紀にケプラーによって名付けられた。それは楕円軌道の発見と対の出来事だった。

ケプラーの「焦点」の導入は『光学』(天文学の光学的領域、1604)においてだったが、『新天文学』(1609)では楕円軌道の発見だけで、「焦点」への言及はなかった。楕円の「焦点」と楕円軌道の発見は別々の出来事で、2つの関係についてケプラーは十全な表現をしていなかった。しかし、『光学』と『新天文学』の関係は密接な関係にあった。

『どんな数にも物語がある』(アレックス・ベロス著、水谷淳訳、SBクリエイティブ、2015)に、『光学』と『新天文学』の密接な関係が簡潔に描かれていて、感動してしまった。
(引用はじめ)
「火星との戦い」に挑んでいたケプラーは、息抜きに現代的な光学の分野を切り開いた。著書「天文学の光学的領域」には、楕円、放物線、双曲線という円錐曲線の形をした鏡について論じた章がある。そのなかで、反射した光線によってものが燃える点という意味で、「焦点」という言葉をはじめて使った。ケプラーは火星の研究に戻ったが、いくら円運動を組み合わせてもデータと一致しないことに我慢できず、ついに周転円の理論を捨て去ることにした。しかし、明るい希望を抱いていたかというと、けっしてそんなことはなかった。「円と渦巻きのはびこった不潔な馬小屋を片付けたら、糞の入った手押し車が一台残っただけだった」と後悔している。1年間は、一方の端が平らでもう一方の端が尖った卵形の軌道を試しつづけたが、対称的でもなければ均整も取れていないので気に入っていなかった。しかしあるとき、計算をする上で卵形を近似するために、円錐曲線の光学的研究で慣れ親しんでいた楕円を補助的に使ってみた。するとどうだ、それだけでうまくいったのだ。「何て愚かだったことか!惑星の軌道を表す図形は完全な楕円以外にありえないのだ」。
(引用おわり)