対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

オイラーの公式、起承転結。16

2020-04-30 | オイラーの公式
(はじめに)

10年ほど前(2009年)、わたしのもとに「Eulerの公式の導出いろいろ」というタイトルの論文(2008.2.2稿)が送られてきた。わたしはホームページに「オイラーの公式と複合論」(2005年)を公表していた。それに対する参考文献として送付されたものである。そこには次のような7つの導出方法がまとめられていた。

1. Taylor展開を用いた導出
2. 微分方程式を用いた導出ーその1
3. 微分方程式を用いた導出ーその2
4. de Moivreの公式を用いた導出
5. 新関の導出
6. Eulerの導出
7. Eulerの発見法的な導出

知っていたのは、1と7だけだった。わたしの論考は基本的に7. Eulerの発見法的な導出と同じもので、「無限解析」(『オイラーの無限解析』)に依拠した志賀浩二の『無限のなかの数学』を参考にしたものである。わたしは『オイラーの無限解析』ではじめて導かれたものと思っていたので、それ以前の導出を示す「グレイゼルの数学史Ⅲ」の記述は意外に思われた。矢野忠先生(と呼ばしてもらう、そのときはまったく知らない人だった。)はグレイゼルが言及している論文と「無限解析」の時間的前後関係を気にされていた。いいかえると、オイラーの公式の発見は6. Eulerの導出が先で、7. Eulerの発見法的な導出は後ではないかということだった。「グレイゼルの数学史Ⅲ」の記述は確かにそれを指示していた。6. Eulerの導出は、先生が「グレイゼルの数学史Ⅲ」の記述にもとづいてオイラーの発見を推論したものである。それは自由調和振動の微分方程式の特殊解が発見の核になっていて、「無限解析」(『オイラーの無限解析』)とはまったく違っていた。これについて意見を求められていたのである。
 
いまにして思えば、そのときは、6. Eulerの導出をよく理解できていなかった。『オイラーの無限解析』の導出だけに固執していた。5年ほど前に「オイラーの公式と弁証法」(2016年)をまとめたときも、6. Eulerの導出についてはまったく考慮していない。

ところが、今年(2020年)になって、「数学・物理通信」(10巻2号、2020.3.31)に「微分方程式と三角関数」(矢野忠)が載り、興味をもった。オイラーの公式が喚起されて、「Eulerの公式の導出いろいろ」が「数学・物理通信」に掲載されているのではないかと思い、探してみた。すると、4巻2号(2014年9月)にあった。改めて読んでみると、6. Eulerの導出の意味がわかるような気がした。オイラーはたしかに異なったアプローチをしている。6. Eulerの導出と7. Eulerの発見法的な導出をつなげば、オイラーの公式の発見の過程に迫れるのではないかと思われた。

オイラーの公式、起承転結。15

2020-04-29 | オイラーの公式
(あとがき)

オイラーが『オイラーの無限解析』(1748年刊行、1745年執筆)に取り掛かる前に、
  cos x=(eix+e-ix)/2
  sin x=(eix-e-ix)/2i

  eix = cos xisin x

どちらもすでにわかっていた。

10年ほど前に矢野忠先生が気にされていた点が、今年今月になってようやくわたしの問題として出てきた。先生はオイラーが公式を最初に発見したのは自由調和振動の微分方程式の特殊解によってであり、ドモアブルの公式によってではないと想定されていたのである。
あらためて「グライゼルの数学史Ⅲ」の記述を読むと、たしかにそのように思われた。たしかに『オイラーの無限解析』には前史がある。オイラーは最初、自由調和振動の微分方程式の特殊解で公式を発見した。次に、ドモアブルの公式からその発見を見直した。このように2つの契機を想定し繋げば、オイラーの公式の発見の過程を要約できるのではないかと思われた。

1740年から1745年までのオイラーの歩みは「起承転結」で特徴づけられる。

「オイラーの公式、起承転結。」目次

1 はじめに
2 『グライゼルの数学史Ⅲ』より
3 1740年の公式  cos x = (eix+eix)/ 2 
4 1743年の公式  eix = cos x + i sin x
5 (注)オイラーの公式の発見とマクローリン展開
6 1743年の公式の異なった見方
7 1745年「はじまり」の見立て
8 ドモアブルの公式の導出
9 「実」の弧と「消失する弧」(ドモアブルの公式の解釈)
10 方法の検証、余弦と正弦の級数表示
11 「表示式」の読み方の違い
12 整合的把握、洞察と展開の違いとして
13 虚指数量と実の弧の正弦と余弦  cos x=(eix+e-ix)/2、sin x=(eix-e-ix)/2i
14 円から生じる虚指数量  eix = cos xisin x
15 あとがき


ミカンの花のつぼみ

2020-04-28 | 庭の草木
この木は表裏をくり返している。昨年は裏だった。数個だけ大きい実がなった。今年は表の年である。すでに葉芽と花芽が数多く出ている。ここまで幼い葉と花は初めて見る気がする。まだ葉芽だけの枝もある。鼻を近づけて嗅いでみるが、匂いはまだまったくない。


オイラーの公式、起承転結。14

2020-04-27 | オイラーの公式
オイラーはドモアブルの公式から
  cos x=(eix+e-ix)/2   (1)
  sin x=(eix-e-ix)/2i   (2)
を導き、
「これらの公式により、虚指数量が実の弧の正弦と余弦に帰着される様式が理解される」と述べた。そして、この後、次のように続けている。
(引用はじめ)
これらの公式により、虚指数量が実の弧の正弦と余弦に帰着される様式が理解される。
すなわち、
  eix = cos xi sin x
および
  e-ix = cos xi sin x
というふうになるのである。
(引用おわり)
eix = cos xi sin x の公式の方も、「虚指数量が実の弧の正弦と余弦に帰着される様式」として考えられている。グライゼルも、(1)(2)について「最終的に定式化され、証明された有名な≪オイラーの公式≫」と述べつつも、eix = cos xi sin x も含めて「どのような形で虚数の指数量が現実のサインとコサインになるか」と捉えている。しかし、ここは区別した方がいいのではないかと思う。

1740年「起」、1743年「承」、1745年「転」は、「虚指数量が実の弧の正弦と余弦に帰着される様式」を軸に展開されてきた。1745年の(1)(2)から導かれた最終的な定式
  eix = cos xi sin x
  e-ix = cos xi sin x
は「虚指数量が実の弧の正弦と余弦に帰着される様式」というよりは、『オイラーの無限解析』8章のタイトルにあるように、「円から生じる超越量」と捉えた方がいいのではないかと思うのである。これがオイラーの公式の「結」である。円から生じる虚指数量を図示して終えることにしよう。

(了)

あとがき(次回)

オイラーの公式、起承転結。13

2020-04-24 | オイラーの公式
ドモアブルの公式
  cos nz=((cos zi sin z)n+(cos zi sin z)n)/2   (1)
  sin nz=((cos zi sin z)n-(cos zi sin z)n)/2i   (2)
に、
nz=x の仮定、すなわち z=x/n を代入すると、
  cos x=((cos x/ni sin x/n)n+(cos x/ni sin x/n)n)/2
  sin x=((cos x/ni sin x/n)n-(cos x/ni sin x/n)n)/2i
となる。
n→∞ のとき、cos x/n=1、 sin x/nx/n だから、
  cos x=limn→((1+ix/n)n+(1-ix/n)n)/2
  sin x=limn→((1+ix/n)n-(1-ix/n)n)/2i
となる。これを次のように表示すると、
  cos x=limn→((1+ix/n)n+(1+(-ix)/n)n)/2    (3)
  sin x=limn→((1+ix/n)n-(1+(-ix)/n)n)/2i    (4)
となり、
右辺の分子 (1+ix/n)n、(1+(-ix)/n)n に指数関数の形が見えてくる。

ex=limn→(1+x/n)n
は実数 x についての定義(eは自然対数の底、ネイピア数)だが、虚数についても成り立つと拡張する。
すなわち、
eix=limn→(1+ix/n)n
とする。
同じように、
e-ix=limn→(1+(-ix)/n)n
である。
(3)(4)は次のようになる。
  cos x=(eix+e-ix)/2   (5)
  sin x=(eix-e-ix)/2i   (6)

この式は、自由調和振動の微分方程式の特殊解から導かれた1740年の式、
  cos x=(eix+e-ix)/2
それを拡張した1743年の式、
  cos x=(eix+e-ix)/2
  sin x=(eix-e-ix)/2i
をモアブルの公式からとらえ直したものである。これまでは外的関係にあった弧と虚の指数の関係を、「消失する弧」(ドモアブルの公式の右辺)を「虚の指数」に変換することによって、内的に示したものである。
オイラーは(1)(2)から(5)(6)を導いた後、次のように述べている。
「これらの公式により、虚指数量が実の弧の正弦と余弦に帰着される様式が理解される」。




オイラーの公式、起承転結。12

2020-04-23 | オイラーの公式
ドモアブルの公式
  cos nz=((cos zi sin z)n+(cos zi sin z)n)/2
  sin nz=((cos zi sin z)n-(cos zi sin z)n)/2i
について、2つの見方があった。
1「私はある任意の弧の正弦と余弦を用いて、きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧の正弦と余弦を表示した

2「私はある任意の弧の正弦と余弦、きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧の正弦と余弦を用いて表示した
である。
1はオイラーが「緒言」で述べていたもの、2は本文(8章)からわたしが捉えていたものだが、2はオイラーが本文で示している見方といってもよいだろう。1はアブダクションとしての洞察、2はディダクションとしての展開としてみれば、向きは反対だが、整合的に把握できると思う。

オイラーが『オイラーの無限解析』に取り組む前に、すでに任意の弧の余弦と正弦が虚の指数で表示されるという事実(1743年)があった。
  cos x = (eix+eix)/ 2
  sin x = (eix-eix)/ 2i   
オイラーの課題はこれを原理的に説明することである。これを説明するために、オイラーはドモアブルの公式に着目した。そして、さらに、ドモアブルの公式を構成する虚因子と指数の形に着目した。出発点は「任意の弧」である。到達点は「消失する弧」である。オイラーは任意の弧から消失する弧に遡行したのである。この過程では、任意の弧が独立していて、消失する弧は従の関係である。これはドモアブルの公式を左辺から右辺へと見る過程に対応するといえる。「私はある任意の弧の正弦と余弦を用いて、きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧の正弦と余弦を表示した

そして、洞察した「消失する弧」からこんどは逆に「任意の弧」にもどってくる。出発点は消失する弧で、到達点は任意の弧である。この過程では、消失する弧が独立していて、任意の弧は従の関係になる。これはドモアブルの公式を右辺から左辺へと見る過程に対応する。「私はある任意の弧の正弦と余弦、きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧の正弦と余弦を用いて表示した」。

はじめ、弧と虚の指数は外的な関係にあった。遡行し反転することによって、内的関係が明らかになる。余弦と正弦の級数表示ではドモアブルの公式の右辺を展開したため、指数の形は崩れたが、そのままの形で nz=x の仮説を適用すれば、指数関数との関係が明らかになる。任意の弧の余弦と正弦が虚の指数で表示されるという事実が原理的に説明できるようになる。これが「結」になる。


オイラーの公式、起承転結。11

2020-04-22 | オイラーの公式
オイラーの公式は『オイラーの無限解析』(オイラー著、高瀬正仁訳)ではじめて提起されたのではなかった。前史があり、グライゼルの記述にしたがって、1740年、1743年、1745年とたどってきた。自由調和振動の微分方程式の特殊解からドモアブルの公式へと見方は「転」じている。
「転」で、重要な式は
  cos nz=((cos zi sin z)n+(cos zi sin z)n)/2
  sin nz=((cos zi sin z)n-(cos zi sin z)n)/2i
である。

こんどあらためて考察していて、この式の捉え方、この式の読み方がオイラーの位置づけと違っていて、驚いてしまった。ここ3回(8,9,10)ほど、この式の位置づけ、二項展開、級数表示を「本文」(8章)にしたがって見てきたが、この展開をオイラーは「緒言」で次のように述べている。
(引用はじめ)
私(オイラーのこと、引用者注)はある任意の弧の正弦と余弦を用いて、きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧の正弦と余弦を表示した。その表示式からさらに歩みを進めて無限級数へと導かれた。そうして消失する弧は正弦に等しいし、消失する弧の余弦は〔単位円周の〕半径に等しいことに留意して、私は任意の弧と、その正弦と余弦とを、無限級数を用いて表示した。
(引用おわり)

ここは3つの文から成り立っている。
1. 私はある任意の弧の正弦と余弦を用いて、きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧の正弦と余弦を表示した。
2. その表示式からさらに歩みを進めて無限級数へと導かれた。
3. そうして消失する弧は正弦に等しいし、消失する弧の余弦は〔単位円周の〕半径に等しいことに留意して、私は任意の弧と、その正弦と余弦とを、無限級数を用いて表示した。
2の「表示式」は、オイラーが導いたドモアブルの公式で、
1.は「オイラーの公式、起承転結。8」(オイラーのドモアブルの公式)
2.は「オイラーの公式、起承転結。9」(二項展開による表示)
3.は「オイラーの公式、起承転結。10」(nz=xの仮定による無限級数表示)
に対応するとみてよいだろう。

驚いたのは最初の文である。
ここは15年前も、5年前も、よくわからない箇所だった。こんども、最初はわからなかった。「転」のドモアブルの公式を整理した後、「緒言」を見ると、意味がわかるようになった。オイラーとわたしの捉え方の違いとして分かったのである。最初は、こちらが正しくて、テキストの方が間違っているのではないかと思った。

疑問に思ったのは、次の下線の部分である。
  私はある任意の弧の正弦と余弦を用いて、きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧の正弦と余弦を表示した
わたしは次のように捉えていたのである。
  私はある任意の弧の正弦と余弦、きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧の正弦と余弦を用いて表示した

(つづく)






オイラーの公式、起承転結。10

2020-04-21 | オイラーの公式
オイラーが導いたドモアブルの公式は次のようだった。
  cos nz=((cos zi sin z)n+(cos zi sin z)n)/2
  sin nz=((cos zi sin z)n-(cos zi sin z)n)/2i
nz=x の仮定の有効性を確かめるために、オイラーは余弦と正弦の級数表示を試みた。

オイラーはまず右辺の分子を二項展開して整理している。
cos nz
nC0 (cos z)nnC2(cos z)n-2(sin z)2nC4(cos z)n-4(sin z)4nC6(cos z)n-6(sin z)6+……
= (cos z)n-n(n-1)/2!・(cos z)n-2(sin z)2+n(n-1)(n-2)(n-3)/4!・(cos z)n-4(sin z)4-n(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)(n-5)/6!・(cos z)n-6(sin z)6+……    (1)
sin nz
nC1(cos z)n sin znC3(cos z)n-3(sin z)3nC5(cos z)n-5(sin z)5+……
=n/1・ (cos z)n sin z-n(n-1)(n-2)/3!・(cos z)n-3(sin z)3+n(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)/5!・(cos z)n-5(sin z)5+……    (2)
ここで nz=x とする。x は有限の値(定数)である。z = x/n は、弧 x を n 等分してできる小さな円弧になる。n を大きくしていくと、z は小さくなっていく。このとき、cos z→1、sinz→z=x/n になる。「この究極の状況を調べるため、オイラーは迷うことなく近似式を等号におきかえた」(志賀浩二『無限のなかの数学』)。
  cos z=1
  sin z=z=x/n
(1)と(2)式で、n →∞ とする。このとき左辺は、 cos nz = cos x、sin nz =sin x で一定の値をとる。これに対して、右辺 は無限に続いていく。
nz=x、cos z=1、sin z=z=x/n を代入すると、(1)と(2)はそれぞれ次のようになる。
cos x
= (1)n-n(n-1)/2!・(1)n-2(x/n)2+n(n-1)(n-2)(n-3)/4!・(1)n-4(x/n)4-n(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)(n-5)/6!・(1)n-6(x/n)6+……  
=1-x2/2!+x4/4!-x6/6!+……
sin x
=n/1・ (1)n (x/n)-n(n-1)(n-2)/3!・(1)n-3(x/n)3+n(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)/5!・(1)n-5(x/n)5+……
=x-x3/3!+x5/5!-x7/7!+……
となる。
まとめると、
  cos x=1-x2/2!+x4/4!-x6/6!+……
  sin x=x-x3/3!+x5/5!-x7/7!+……
となる。たしかに余弦と正弦の級数表示が得られる。

このように nz=x の仮定の有効性を確かめた後、オイラーは この仮定をドモアブルの公式 の右辺を展開しないそのままの形に適用した。これが大きな一歩となった。




オイラーの公式、起承転結。9

2020-04-20 | オイラーの公式
オイラーは虚因数cos zi sin z、cos zi sin z を用いて、ドモアブルの公式( n 倍角の公式)を導いた。
  cos nz=((cos zi sin z)n+(cos zi sin z)n)/2
  sin nz=((cos zi sin z)n-(cos zi sin z)n)/2i
これは1743年の式
  cos x = (eix+eix)/ 2
  sin x = (eix-eix)/ 2i    
つまり、「実」の弧の余弦と正弦が虚の指数で表現されることを保存し、説明するという目的によって導かれただろう。

ドモアブルの公式( n 倍角の公式)の左辺の nz は虚因数の z で構成されているが、nz を「実」の弧とみなすことは前提だった。オイラーは nz に「有限の大きさ(x)の弧に留まるという性質」、「有限値 x を保持するという性質」を仮定している。このような仮定のもとに、オイラーは n を無限に大きくしていく。そのとき、z は無限に小さくなっていくが、その極限をオイラーは凝視したのである。nz=x、これが「実」と「虚」をつなぐ環となっている。

図解してみよう。

黒で単位円が描いてある。黒は「実」である。黒の動径が切り取っているのが、弧 nz=x である。これは「実」の弧である。黒の背後に「虚」(赤)がある。赤の動径が切り取っているのが、弧 z である。弧 nz=x の余弦と正弦を、右上がりの赤(cos zi sin z)と右下がりの赤(cos zi sin z)で表示しているのが、オイラーが導いたドモアブルの公式である。
  cos nz=((cos zi sin z)n+(cos zi sin z)n)/2
  sin nz=((cos zi sin z)n-(cos zi sin z)n)/2i
n が大きくなるほど、z は小さくなっていく。そのとき、2つの傾斜のある赤い線は水平軸に近づいていく。オイラーは弧 z を「きわめて小さくて、ほとんど消失するとみてよいほどの弧」「消失する弧」とよんでいる。n→∞のとき、z→0である。このとき、cos z→1、sinz→z=x/n となる。

さて、nz=x の仮定は有効なのだろうか。これを検証する方法があった。それは一般に、マクローリン展開で求められる余弦と正弦の無限級数表示をこの仮定から導くことであった。


オイラーの公式、起承転結。8

2020-04-17 | オイラーの公式
『オイラーの無限解析』の8章「円から生じる超越量」でオイラーの公式が提示される。この章ではじめて虚数単位(i)が出てくるのは、
  cos2 z +sin2 z=1
が因数分解されたときである。
  (cos zi sin z)( cos zi sin z)=1

2つの因子cos zi sin z、 cos zi sin zには指数関数の性質がある。
F(z)= cos zi sin zとおけば、オイラーはF(z)F(y)、F2(z)などを計算し、F(z)は積が和として現れること、いいかえればF(z)に指数関数の性質を確認している。
F(z)F(y)
=(cos z+i sin z)(cos y+i sin y)
=(cos zcos y-sin z sin y)+i(sin z cos y+cos z sin y)
=cos( z+y)+isin( z+y)
=F(z+y)
F2(z)
=(cos z+i sin z)2
=(cos2 z-sin 2z )+i(2sin z cos z)
=(cos 2z+i sin 2z)
=F(2z)
また、同じように、F3(z)=F(3z)である。(これはG(z)=cos zisin zでも同じである。)
そして、これらを一般化している。
  Fn(z)=F(nz)
  Gn(z)=G(nz)
このようにオイラーはドモアブルの公式を導いている。
  (cos zi sin z)n=cos nzi sin nz
  (cos zi sin z)n=cos nzi sin nz
この式をcos nz、sin nzについて解くと、
  cos nz=((cos zi sin z)n+(cos zi sin z)n)/2
  sin nz=((cos zi sin z)n-(cos zi sin z)n)/2i
となる。
この式の形は1740年の式
  cos x = (eix+eix)/ 2
また、それを拡張した1743年の式
  cos x = (eix+eix)/ 2
  sin x = (eix-eix)/ 2i  
と、よく似ている。
  (cos zi sin z)n は eix
  (cos zi sin z)n は e-ix
なるのではないだろうか。