ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

日本復活へのケインズ再考13

2011-03-02 08:48:32 | 経済
●ケインズの思想(3) ナショナリズムを発展させる

 ケインズの思想の第三は、ナショナリズムである。
 ケインズにはナショナリズムの思想がある。イギリスの自由主義は個人主義的だが、ケインズはこれに修正を加え、個人の自由に一定の制限をかけて、国民全体の繁栄と道徳的向上をめざした。これは修正自由主義であるとともに、ナショナリズムの思想でもある。
 本稿は、通説に従い、経済学を古典派及び新古典派経済学、マルクス経済学、ケインズ経済学に大別している。この分け方とナショナリズムとの関係をここで述べたい。参考になるのは、中野剛志氏の所論である。中野氏は『国力論~経済ナショナリズムの系譜』(以文社)において、経済自由主義、マルクス主義、経済ナショナリズムという分類をしている。そして従来見逃されてきた経済ナショナリズムの系譜こそ、実は西欧思想の正統だったのだ、と主張する。中野氏によると、経済ナショナリズムは、18世紀イギリスのヒュームに始まる。ヒュームはアダム・スミスの親友だった。ヒュームの影響を受けたハミルトンがアメリカ、次いでリストがドイツで経済ナショナリズムを実践し、ヘーゲルが哲学的に深め、マーシャルがこれらを継承した。そして、中野氏はこの系譜を受け継いだ者の一人がケインズだとする。
 本稿の分け方で言えば、経済自由主義は古典派及び新古典派経済学、マルクス主義はマルクス経済学に対応する。経済ナショナリズムは既存の呼び名がないので、仮にナショナリズム的経済学と呼ぶ。すると、ケインズはヒューム以来のナショナリズム的経済学を発展させて、ケインズ経済学を樹立したことになる。ケインズは師のマーシャルも新古典派経済学者だとして、その部分的均衡理論の限界を打破した。しかし、マーシャルが自由主義というよりむしろナショナリズムの経済学者だったとすれば、ケインズは師を通じてナショナリズム的経済学を継承し発展させたという見方ができる。
 自由主義的経済学は、合理的かつアトム的な個人をモデルとする。そのモデルでは国民国家(ネイション)を具体的かつ現実的にとらえられない。だから経済学の理論だけを学んでいると、西欧の歴史における国家の役割を見失う。実際の経済の歴史は、国家と国家の関係の中で進んできた。また各国の資本主義は国家の存在なしには全体像をつかめない。イギリスは17世紀市民革命を経て近代的な国民国家を形成し、資本主義を発達させた。フランスはフランス革命を経て国民国家を樹立して、イギリスを追った。アメリカはイギリスから独立し、独自の国民国家を発展させた。ドイツは大陸で英仏に大きく遅れながらも国家を統一し、英仏に対抗した。
 資本主義の発達史は、単に個人と個人が作用する市場経済の歴史ではなく、国家と国家が競い合う国際社会の歴史でもある。この過程で、ナショナリズム的経済学は重要な影響を与えてきた。実際、イギリスにおけるヒューム、アメリカにおけるハミルトン、ドイツにおけるリストは、各国の国家経済・国民経済の発展に貢献した。このように考える時、ケインズはヒューム、ハミルトン、リスト、ヘーゲル、マーシャルと続く経済ナショナリズムの系譜に立ち、ナショナリズム的経済学を独自の理論で発展させたということができる。(註1)
 資本の論理と国家の論理は異なる。経済には、一定の自律的な法則がある。しかし、資本主義は経済原理論だけではとらえられない。経済外的な政府の政策や介入があり、支配と統治をめぐる国家間の力学があるからである。それゆえ、富と権力の関係は政治・経済の両面から総合的に考察しなければならない。また、この関係を把握するには、単なる理論的考察ではなく、具体的な人物や有力な家族、集団を要素として見ていかないと抽象論に終わる。イギリスで言えば、セシル・ローズ、ロスチャイルド家、王立国際問題研究所(RIIA)を抜きにして、マーシャルやケインズの時代の政治経済は語れない。(註2)

 次回に続く。

註1
・国民国家については、拙稿「西洋発の文明と人類の歴史」第4章をご参照下さい。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion09e.htm
 第4章「市民革命・国民国家・合理主義」
註2
・イギリスの例については、拙稿「現代の眺望と人類の課題」第9章をご参照下さい。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion09f.htm
 第9章「現代世界の支配構造」の(2)大英帝国永続の夢、(3)王立国際問題研究所

最新の画像もっと見る

コメントを投稿