ほそかわ・かずひこの BLOG

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「北の人権」に中韓は責任果たせ~西岡力氏

2014-04-07 08:57:24 | 国際関係
 本年2月に公表された北朝鮮の人権侵害を非難する国連北朝鮮人権調査委員会の報告書について、朝鮮問題専門家の西岡力氏は「拉致被害者の一日も早い救出に報告書を最大限生かさなければならない」と産経新聞2月20日の記事で訴えた。
 西岡氏は、報告書の拉致に関する内容について、「私たちが韓国、タイ、ルーマニア、レバノン、米国などの被害家族や関係者とともに全世界に訴えてきた内容とほぼ同一である」と高く評価している。
 特に報告書が「国際社会が北朝鮮住民を人道に対する罪から保護する責任がある」と主張していることに、西岡氏は注目している。
 「保護する責任」は国際法上の新しい概念であり、「人道的介入」を推し進めた概念である。「人道的介入」とは、「人道に対する罪」に当たるような人権侵害については、内政不干渉の原則を破ってでも軍事介入できる、という考えである。1990年代に旧ユーゴスラビア紛争で「民族浄化」が行われた際、北大西洋条約機構(NATO)は、「人道的介入」として軍事行動を行った。
 その後、国連の国内避難民担当事務総長代表であるフランシス・デンは、国家主権に関して、「責任ある主権」という概念を提唱した。デンは、国家主権には二つの責任があるとする。一つは、対外的に他国の主権を尊重する責任であり、もう一つは、対内的に国内にいるすべての人の尊厳と基本的権利を尊重する責任である。デンによると、政府は、国内にいる人々を保護する第1次的な責任を負うが、ある国の政府がその責任を果たす意思がないか能力がない場合、または政府自身が犯罪や残虐行為の行為者であった場合には、国際社会が有する第2次的責任が行使されることになると説く。すなわち、国際社会が、その国民を「保護する責任」を果たさねばならないと主張するのである。
 2005年9月の「世界サミット合意文書」は、「各国家は、ジェノサイド、戦争犯罪、民族浄化、人道に対する罪から人々を守る責任がある」として、「保護する責任」という概念を取り入れた。国連安全保障理事会は、2006年4月と2009年11月の決議で「保護する責任」を確認している。
「保護する責任」の概念は、「人間の安全保障」という観点からも注目されるものである。安全保障は、第一義的に「国家の安全保障」を意味し、主に軍事的なものである。これに比 し、「人間の安全保障」は、個々の人間の生活に重点を置き、人間がより安全に暮らせるようにするうえで、社会及び社会的取り決めの果たす役割を重視し、全般的な自由の拡大よりも、人間の生活が「不利益をこうむるリスク」に焦点を絞り、人権全般ではなく「不利益」に特に関心を向けるものである。国連開発計画による1994年版の「人間開発報告書」で、アマルティア・センが打ち出した概念で、今では国連における基本的な考え方になっている。 「保護する責任」は「人間の安全保障」の強化に関して、各国政府の主体性を求め、道義的な責任を確立するものである。ただし、独立主権国家の主権と他国の主権、また国家の主権と人民の人権との関係があり、特に軍事力の行使については、国際社会のしっかりした合意が必要となる。
 西岡氏は、国連北朝鮮人権調査委員会の報告書が、北朝鮮住民を人道に対する罪から「保護する責任」があるとしていることを重視する。報告書は安保理常任理事国として「保護する責任」を担うべき中国の非協力的な姿勢を批判しているが、西岡氏は、中国以上に「保護する責任」を負うべきなのは韓国だと主張する。西岡氏は「韓国は憲法で北朝鮮を含む半島全域を領土とし全住民を国民と定めている。北朝鮮が住民に重大な人権侵害をしていることは取りも直さず、国民に対する重大な人権侵害なのだ」と述べている。この点は、重要な指摘である。朴槿恵(パク・クネ)大統領は、反日的な言動に過熱する一方、自己民族の惨状に対して真剣に取り組もうとしていない。だが、韓国にとっての最大の課題は、南北に分断された北朝鮮でごく基本的な人権さえも侵害されている同胞を救出することでなければならない。中国との協力を強化するのも、反日包囲網を築くためではなく、北朝鮮人民の解放をめざして中国の協力を得るものでなければならない。
 西岡氏はこの記事で「拉致被害者の一日も早い救出に報告書を最大限生かさなければならない」と訴えたが、3月28日の採択された国連人権理事会の対北非難決議は、まずその報告書による成果である。中国は調査委に一貫して批判的だったし、決議に反対した。安保理ではこの問題に対して拒否権を行使する可能性もある。わが国は、中韓に「保護する責任」の履行を求めるために、国連北朝鮮人権調査委員会の報告書及び国連人権理事会の決議を最大限に生かしたいものである。
 以下は、西岡氏の記事。

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●産経新聞 平成26年2月20日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140220/kor14022003360000-n1.htm
【正論】
中韓は「北の人権」へ責任果たせ 東京基督教大学教授・西岡力
2014.2.20 03:35

 北朝鮮の人権に関する国連人権理事会の調査委員会が、最終報告書を発表した。調査委は昨年3月に理事会決議で設置され、日本、韓国、英国、米国で公聴会を開いて各国の拉致被害者の家族や脱北者など240人にインタビューするなど精力的に活動してきた。

《全世界の拉致被害者を認定》
 報告書は日本人をはじめとする外国人の拉致はもちろん、▽食糧権の侵害▽政治犯収容所▽拷問と非人間的な待遇▽恣意(しい)的な拘禁処罰▽思想と表現の自由の侵害▽生命権の侵害▽移動の自由の侵害▽組織的な基本的人権の否定と侵害-といった9つの調査分野すべてで、北朝鮮政権が組織的で凄惨(せいさん)な「人道に対する罪」を犯していると断定し、「これほどの人権侵害がまかり通っている国は、現代では類を見ない」と非難した。
 特に拉致問題については、解決ずみとする北朝鮮の主張を明確に退け、横田めぐみさんら8人「死亡」の根拠はなく、北朝鮮が認めた13人以上、少なくとも100人余の日本人が拉致されている可能性があるとする判断を示した。
 さらに、拉致は朝鮮戦争中に始まり、被害国は日本、韓国をはじめアジア、中東、欧州に及び、その命令者は最高権力者だった金日成、金正日だとも明記された。
 私たちが韓国、タイ、ルーマニア、レバノン、米国などの被害家族や関係者とともに全世界に訴えてきた内容とほぼ同一である。北朝鮮の独裁体制による人権侵害、「人道に対する罪」の被害者は、第一に北朝鮮の国民だが、それだけでなく、全世界の人々が拉致によって同じ被害に遭っていることが明確になった点で画期的だ。
 注目すべきは、報告書が、こうした凄(すさ)まじいまでの人権侵害に対しては「国際社会が北朝鮮住民を人道に対する罪から保護する責任がある」と主張している点だ。
 ここでいう「保護する責任」は国際法上の新しい概念である。
 1990年代の旧ユーゴスラビア紛争で吹き荒れた「民族浄化」に対し、北大西洋条約機構(NATO)は「人道的介入」という当時の国際法上の新概念に基づき、軍事行動に出た。「人道に対する罪」に当たるような人権侵害には内政不干渉の原則を破ってでも軍事介入できる、という考えだ。

《「保護する責任」明示は重要》
 「保護する責任(responsibility to protect)」は、それを推し進めたものだ。2005年9月に国連総会首脳会合で「ジェノサイド、戦争犯罪、民族浄化および人道に対する罪から人々を保護する責任を各国が負う」と決議され、国連安全保障理事会も、06年4月と09年11月の決議で確認している。
 今回の報告書は、責任者の処罰を国際刑事裁判所(ICC)に付託し、人権侵害を理由に制裁を実施するよう安保理に求めながらも軍事介入には言及していない。だが、原理的には「保護する責任」という概念の中にその選択肢は含まれている。その概念を報告書がうたった意味は限りなく重い。
 報告書は安保理常任理事国として「保護する責任」を担うべき中国の非協力的な姿勢を批判した。「何度も脱北している人間がいるのを見ても、送還された北朝鮮の住民が拷問に遭うという主張が事実でないのは明らかだ」などと脱北者の強制送還を正当化する回答を含む往復書簡が公開された。
 また、1978年にマカオから孔令●さんと蘇妙珍さんの中国籍女性2人が拉致され、孔さんが大韓機爆破事件実行犯の金賢姫元工作員の中国語教育係だったことも実名入りで示されたものの、中国はそれに回答しなかった。北朝鮮の人権問題は実は中国問題でもあることが改めてはっきりした。

《北人権報告書の最大活用を》
 「保護する責任」を中国以上に負うべきは韓国だ。韓国は憲法で北朝鮮を含む半島全域を領土とし全住民を国民と定めている。北朝鮮が住民に重大な人権侵害をしていることは取りも直さず、国民に対する重大な人権侵害なのだ。
 にもかかわらず、韓国は報告書発表に際し、「北朝鮮人権状況の改善のために国際社会との協力を強化していく」(外務省)、「韓国政府は北朝鮮人権改善のために今後も国際機関や国際社会と継続して協力を拡大していく」(統一省)という通り一遍の反応を政府の低いレベルで出しただけだ。
 韓国政府にとり、北朝鮮住民は「保護する責任」の対象ではないのかと疑わざるを得ない。国会議員、知識人、脱北者らを含む心ある有志は「自由統一フォーラム」を結成し、北朝鮮住民を助けるのは韓国だという姿勢を明確にしている。その主張が韓国内でどれほど拡大していくか注目される。
 日本政府は調査委設置に向け積極的な外交を展開し、調査活動にも全面協力してきた。その成果がこの報告書といえる。ただ、3月の人権理事会で、報告書が求める人権状況監視のための常設機関の設置、拉致を含む北朝鮮人権侵害を根拠にした安保理制裁決議など実現すべき課題は多い。拉致被害者の一日も早い救出に報告書を最大限生かさなければならない。(にしおか つとむ)

 ●=貝貝のしたに言
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