ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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救国の秘策がある24~丹羽春喜氏

2011-02-02 11:29:41 | 経済
●誤謬に満ちた風説の数々(続き)

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10.デフレ・ギャップはあまり生じていない(だから、ケインズ政策は不要だ)。
 誤りである理由: わが国で、1970年代以降、デフレ・ギャップが発生し、巨大に累増して現在にいたっていることは、本書冒頭の口絵グラフが実証的に示している通りである。
(註 「本書」とは『政府貨幣特権を発動せよ。』。「口絵グラフ」は本稿第4回「『救国の秘策』が可能な条件」の図表と説明を参照のこと)
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20101224

11.グローバルな開放経済時代ではケインズ的政策は無効だ。
12.産業空洞化は正常な国際分業によるものだ(だから、諦め、歓迎すべきだ)。
 誤りである理由(上記2風説): 人類文明のグローバリゼーションの中心的なメカニズムは、自由貿易を通じて国際分業の利益を各国の国民が享受しうるという仕組みである。そのためには、為替レートが適切でなければならないが、現行の「変動為替相場制度」(フロート制)のもとにおいては、政府がケインズ的政策の実施を怠って総需要を低迷させると、為替レートが適切ではなくなり(円高の亢進)、正常な国際分業が不可能になる。わが国の産業空洞化はそのようにして発生した。すなわち、「変動為替相場制度」に基づくグローバリゼーションの時代においてこそ、ケインズ的政策の十分な実施ということが不可欠な要件なのである。

13.高コスト構造の是正がまず必要で、ケインズ的政策などは有害無益だ。
 誤りである理由: わが国の産業の高コスト(対外比価での)を是正するためには、なによりも、まず、為替レートの面での「円高」をたださねばならない。その円高の是正のためには、ケインズ的内需拡大政策の実施が不可欠である。

14.ケインズ的政策は将来世代に大きな負担を負わせるから、やってはならぬ。
 誤りである理由: 国債発行がケインズ的財政政策の財源であったとしても、その国債の利息や元本償還金を支払うのも受け取るのも、ともに将来世代であるから、将来世代の全体としては、負担にはならない。むしろ、本書冒頭の口絵グラフが示しているように、ケインズ的政策が不十分であったがために、過去二十数年に6000兆円もの実質潜在GDPが失われてしまったことの後遺症こそが、将来世代にも大きな負担である。
(註 「口絵グラフ」は10と同じ)

15.経済の成熟で潜在成長率が下がったから低成長や停滞はやむをえない。
16.構造改革をまずやらなければ、ケインズ的総需要拡大政策も無効果だ。
17.供給サイド政策でいくべきだ(だからケインズ的政策をやるべきではない)。
 誤りである理由(上記3風説): 潜在成長率とは、完全雇用・完全操業状態での潜在GDP可能上限という意味の「天井」の勾配のことである。現在、実質GDPの実際値の水準は「天井」よりも40%以上も低いところに位置しているから(口絵デフレ・ギャップ図参照)、この「天井」の勾配(潜在成長率)が経済社会の成熟によってフラットになってきたからといっても、そのことは現実の実質GDPの成長に対する制約にはならない。
 供給サイド構造改革とは、この「天井」の勾配を上向きにすることであるが、そういったことをしなくても、現在、生産能力の余裕が十分に有り、需給のミス・マッチも生じていないから、ケインズ的政策によって総需要さえ増やされれば、わが国の経済は、たちどころに、成長をはじめうるのである。
(註 「口絵グラフ」は10と同じ)

18.今はサービス産業.知識産業の時代だから、ケインズ政策は役に立たない。
19.産業間の波及効果が小さくなったから、ケインズ的政策は無効になった。
 誤りである理由(上記2風説): 産業間の売り上げ額の波及効果の大きさを産業連関表によって算定したのがレオンチェフ乗数であり、所得の波及効果の大きさを示すのがケインズ乗数である。原料などをあまり使用しないサービス産業・知識産業のウェートが大きくなってきている最近の経済では、レオンチェフ乗数値がやや低下傾向をたどっているが、そうだからといって、ケインズ乗数値までが小さくならねばならないといった論理的必然性は全くない。

20.リストラ、規制緩和、行革でいくべきで、ケインズ的政策は無用だ。
 誤りである理由: これらの施策では、総需要は減るばかりである。総需要が増えないかぎり、経済が回復することは、ありえない。

21.行革で財源をうかして減税をやれば景気は回復する(ケインズ政策は無用)。
 誤りである理由: 「財政支出乗数」に比べると、理論上、「減税乗数」はかなり小さい。したがって、行革で財政支出を削った額に等しい額の減税を行なったとしても、ネットの効果としては、不況がいっそう深刻化することになる。

22.財政再建のためには、緊縮財政によるどんな激しい不況もがまんすべきだ。
 誤りである理由: 緊縮財政によって不況が激化すると、政府の財政収入はいっそう大幅に減少し(累進課税制度の効果)、政府財政の破綻状況は、かえって深刻化する。結局、大幅な増税がなされねばならなくなり、不況は、ますます激甚なものとなる。しかも、それほどまでにも大きな犠牲を国民に払わせたとしても、現在、わが国の政府債務は彪大であるから、政府財政の再建は達成されえないであろう。
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 次回に続く。

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