goo blog サービス終了のお知らせ 

ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

トッドの移民論と日本103

2011-11-14 08:41:55 | 国際関係
●外国の事例~アジアの場合

 アジアは、ヨーロッパとは、大きく事情が異なる。それにもかかわらず、わが国には、日本があたかもヨーロッパにでも位置し、周辺にヨーロッパ諸国のような国々が存在するかのような意識になっているのか、永住外国人に参政権を与えるべきだという意見が、横行している。
 私は、ヨーロッパとアジアには、大きく6つの違いがあると思う。
 (1)文化・歴史の違い、(2)文明の違い、(3)思想と体制の違い、(4)民族分断国家の存在、(5)経済発展段階の違い、(6)安全保障体制の違いの6つである。

(1) 文化・歴史の違い
 ヨーロッパは、キリスト教という共通の宗教を持つ。カトリックとプロテスタントに分かれてはいるが、イエス=キリストを信仰し、聖書を聖典とする点では共通する。ローマ帝国滅亡後、ギリシャ=ローマ文明を継承したという文化的・歴史的な一体感も持っている。ヨーロッパの統合運動は、こうした文化要素の共通性をもとに進められてきた。
 これに比べ、アジアでは、ヨーロッパのような宗教・文化・歴史の共通性がない。地域統合のもとになる土台がないのである。

(2) 文明の違い
 ヨーロッパに存在するのは一つの文明、つまりヨーロッパ文明である。アメリカにも広がったことを踏まえて言えば、西洋文明である。
 アジアについて、ハンチントンは、『文明の衝突』で次のようにいう。「アジアは文明の坩堝だ。東アジアだけで6つの文明に属する社会がある。日本文明、シナ文明、東方正教会文明、仏教文明、イスラム文明、西洋文明で、南アジアを含めるとヒンドゥー文明が加わる」と。ハンチントンは、アジアには合計7の文明が存在し、文明間の複雑な関係が存在するととらえる。単一文明のヨーロッパとアジアは、対照的である。
 ヨーロッパ諸国は、単一文明の中で地域統合を進めている。アジアでこれを模倣するのは、いくつもの文明を統合するという世界の文明史にかつてない課題となる。

(3) 思想と体制の違い
 ヨーロッパは、すべての国が自由民主主義を政治思想の基本としている。だがアジアには、共産主義・全体主義を国家の基本思想としている国々が存在する。
 ヨーロッパでは、東欧諸国が共産主義を捨て、民主化された。ベルリンの壁の撤去、ソ連・東欧の共産主義政権の崩壊によって、冷戦は終焉した。その後に地域統合が大きく前進した。
 しかし、アジア、特に東アジアでは、冷戦は終焉していない。マルクス=レーニン主義の影響を受けた社会主義・人民民主主義を、広義の共産主義というならば、中国・北朝鮮は共産主義の国家である。高度の統制のもと、政治的自由が極度に制限されている。東南アジアにも、ベトナムというれっきとした社会主義共和国がある。社会主義の影響を受けたミャンマーのような軍部専制国家もある。
 中国・ベトナムは市場経済を取り入れているが、自由民主主義との思想・体制の違いは大きい。

(4) 民族分断国家の存在
 ヨーロッパでは、東西ドイツが統合され、異なるイデオロギーで民族が分断されていた国家が一つになった。統一ドイツは、フランスとともに、EU創設の軸となっている。これに比し、アジアでは、朝鮮民族は、第2次大戦後、正確に言えば朝鮮戦争後、二つの国家、二つの体制に分断されたまま、統一されていない。韓国と北朝鮮は、38度線で対峙しており、国連軍が駐留している。冷戦期の東西ドイツに似た民族分断国家である。
 中国と台湾は、蒋介石が大陸から台湾に逃げ込んだのだから、民族分断国家とはいえない。しかし、中国と台湾は、政権の正統性を争っている。統一か独立かの緊張関係にある。中国が台湾を武力統一する可能性がある。ヨーロッパには、こうした武力によって統一を企図している国は存在しない。
 こうしたアジアの状況は、ヨーロッパとは大きく違う。

(5) 経済発展段階の差が大きい
 ヨーロッパの場合は、諸国の経済的な差がアジアに比べて小さいから、統合を進めやすい。それに比べ、アジアは、経済の発展段階の差が大きい。特に北朝鮮は世界最貧国のレベルである。中国と同じくソ連の共産主義から派生した国家であり、そのうえ、アジア的専制国家のような指導者の世襲制が敷かれている。独裁者の領導により、人権無視は甚だしく、近年の餓死者は約300万人とも伝えられる。さらに、日本人・韓国人等の拉致、偽ドルの製造、麻薬の製造・密輸等の国家犯罪を行っている。アジアの発展途上国にしても、GDPの額が低く、また国内の貧富の差が大きい。

(6) 安全保障の違い
 ヨーロッパには、NATOが存在し、地域集団安全保障体制が確立している。しかし、アジアには、アジア全域に広がる地域集団安全保障体制は存在しない。アメリカは日本、韓国、オーストラリア等と個々の安全保障条約を結んでおり、汎アジア的な体制を組んでいない。わが国にとっては、安全保障条約を結んでいるのは、非アジアのアメリカのみである。
 これと関連して、アジアには領土問題が多数存在する。東シナ海の海底油田、尖閣諸島と大陸棚資源、南シナ海の海底油田、竹島、北方領土等である。それぞれ各国の利害が鋭く対立しており、ヨーロッパの事情とは大きく異なる。こうしたなか、中国は核大国である上に、猛烈な軍拡を続け、アジアの脅威になっている。

 以上ヨーロッパとアジアの違いを6点挙げたが、彼我の事情は大きく異なるのである。こうした違いを無視して、ヨーロッパにおける外国人参政権付与を、あたかも人類が普遍的に行うべきものでもるかのように、アジアでも行うべきと考えるのは、軽率である。
 アジアで外国人に参政権を認めている国は、ただ一国、韓国のみである。韓国は外国人に地方参政権を認めてはいるが、前提となる永住権取得に関して厳しい条件をつけている。韓国以外に、アジアで外国人に参政権を認めている国はない。わが国が位置している東北アジアにおいても、中国、北朝鮮、台湾は、外国人に参政権を認めていない。中国、北朝鮮は、外国人どころか、自国民に自由な参政権が与えられていない。中国は建国以来、一度も国民党票による選挙を行っていない。北朝鮮は、形式的には選挙があるが、実態は金王朝とも呼ばれる世襲制専制国家である。こうした国々を周辺に持つのが、わが国である。わが国で外国人に参政権付与を唱える動きは、国際環境も周辺諸国の事情も理解しない倒錯か、あえて無視して進めようとする妄動か、日本を滅ぼそうとする策略である。

 次回に続く。

■追記

 上記の掲示文を含む拙稿の全体を次のページに掲載しています。

「トッドの移民論と日本の移民問題」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。