ほそかわ・かずひこの BLOG

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拉致は「人道に対する罪」と国連人権委が報告書

2014-04-04 08:44:43 | 国際関係
 2月17日、国連北朝鮮人権調査委員会が、最終報告書を公表した。報告書は日本人を含む外国人拉致等の人権侵害行為を挙げ、北朝鮮が組織的に「人道に対する罪を犯した」と非難した。北朝鮮の人権侵害に関する包括的な国連報告書は初めてのものだった。
 この報告書を受けて、3月28日国連人権理事会は、北朝鮮による国家ぐるみの人権侵害行為は「人道に対する罪」と非難する決議を賛成多数で採択した。決議は日本とEUが提案し、採決には理事国47カ国が採決に参加した。日米欧や韓国など30カ国が賛成し、中国、ロシア、キューバ、パキスタン、ベネズエラ、ベトナムの6カ国が反対、インドやインドネシアなど11カ国が棄権した。北朝鮮代表は決議に対し、「断固として拒否する」と反発している。
 この国連人権委決議につながった国連北朝鮮人権調査委員会の活動及び最終報告書について、概要を記したい。
 調査委は昨年3月の国連人権理事会決議を受けて設置された。東京、ソウル、ロンドン、ワシントンで公聴会を開き、横田めぐみさんの両親を含む拉致被害者家族らから聞き取り調査した。北は、調査委の入国を拒否して調査も行わせなかった。中国は調査委に対し、一貫して批判的だった。決議でも反対した。
 調査委の最終報告書は、外国人拉致について、大要次のように記している。
 「北朝鮮は国家政策として1950年以降、組織的で大規模な外国人拉致に従事してきた。子供を含む20万人以上が他国から北朝鮮に連れ去られ、強制失踪の犠牲者となった恐れがある。国際法で保証された他国の主権や外国人の権利を無視したこのような行動は、他国との共存を希求する国家には異常だ。1960~80年代には韓国や日本、他国から数百人が拉致され、失踪した。北朝鮮は陸海軍、諜報機関を使い拉致を実行し、最高指導者のレベルで承認されていた。被害者の大半は国家の労働力や技能の獲得のため拉致された。諜報やテロリストの活動に利用された被害者もいる。欧州、中東、アジアから拉致された女性は他国の男性との結婚を強いられた。性的搾取を受けた被害者もいる。拉致被害者は北朝鮮を去ることを拒否され、国内での移動の自由も奪われており、全員厳重な監視下に置かれている」     
 さらに報告書は、多数の餓死を出した飢饉が国家統制目的の結果であること、収容者数が8万~12万人に上る政治収容所では拷問や処刑も行われていること、一般国民に恐怖を植え付けている定期的な公開処刑の実施は現在も続き2013年にはその数が跳ね上がったこと等も列挙している。
 報告書は、こうした人権侵害を「人道に対する罪」と糾弾している。「人道に対する罪」は、 国際刑事裁判所(ICC)を設置した「ローマ規程」によると、「文民たる住民に対する広範または組織的な攻撃の一部として、そのような攻撃であると認識しつつ行われる行為」と定義される。殺人や絶滅、奴隷化、拘禁、拷問、強姦、強制失踪等が含まれる。
 次に、報告書の結論の部分を転載する。
 「組織的かつ広範で重大な人権侵害が北朝鮮とその機関や当局者により行われ、今も続いている。多くの事例は人道に対する罪をなしている。これは国家による行き過ぎた行為ではなく、政治体制を構成する本質的要素となっている。侵害行為の重大さと規模、性質は現代世界において比類ない国家の姿を暴いている。
 政治体制の要は、いかなる異議の表出も阻止するため、監視、抑圧、恐怖、処罰を戦略的に用いる巨大な政治・治安組織だ。外国人の強制失踪はその激しさと規模、性質において無二のものだ。加害者は責任を問われず、その行為が国家政策と合致するため、北朝鮮は加害者を裁く義務を履行する意思がない。国連加盟国の北朝鮮が人の良心に衝撃を与える犯罪を含む政策を続けてきた事実は、国際社会の対応が不十分との問題を提起している。
 国際社会は北朝鮮国民を保護する責任を引き受けねばならない。国連は人道に対する罪の最大の責任者に責任を取らせるよう努める必要がある。選択肢には安全保障理事会による国際刑事裁判所(ICC)への付託、または特別法廷設置がある」
 報告書は、こうした結論をもとに、北朝鮮、中国、国連に対し、勧告をしている。
 「北朝鮮は徹底した政治、制度改革に取り組む。政治犯収容所を含む人権侵害の存在を認め、国際的な人道組織、人権監視員に収容所と、そこに生存する被害者への迅速な接触を認める。拉致されてきた全員の家族や出身国に対し、その行方、所在に関する完全な情報を提供する。生存者とその子孫には迅速に出身国への帰還を認める。死亡者に関しては遺骨を返還する」
 「中国は北朝鮮での(逃亡者らに対する)取り扱いが著しく改善するまで強制送還を自制する。北朝鮮から逃亡し、保護を必要とする者には亡命や永続的な保護のための手段を拡大する」
 「国連安全保障理事会は北朝鮮の事態をICCに付託する。国連人権高等弁務官は北朝鮮の人権侵害、特に人道に対する罪の責任追及を支援する体制を築き、調査委の証拠文書を基礎に情報の集積を拡充する。体制は被害者、証言者と継続的に接触できる地域に十分な要員が配置された『現場ベース』のものとすべきだ」
 最も注目されるのは、北朝鮮が国家として組織的に人権侵害をしていることについて、報告書が「最高指導者が承認していた」として、金日成・金正日が認識していたと指摘していることである。
 調査委は本年1月、金正恩に書簡を送り、国際刑事法における指揮官・上官責任の原則を伝えたという。軍の指揮官と文民の幹部は、事実上の監督下の人物が犯した人道に対する罪に関し、防止・抑止しなかった刑事責任を問われうるとし、金正恩には、国家安全保衛部や人民保安部、朝鮮人民軍、朝鮮労働党が究極的には最高指導者の事実上の監督下で行動し、「人道に対する罪」を犯していると意識させ、さらなる犯罪の防止・抑止のため、必要かつ合理的なあらゆる手段を講じるよう促したと報告書に記している。
 国連人権理事会は、このような報告書を受けて、北朝鮮による国家ぐるみの人権侵害行為は「人道に対する罪」と非難する決議を採択したものである。報告書が理事会に提出された際には、拉致被害者家族会代表の飯塚繁雄さんが出席し、被害者の帰国と北の人権状況改善へ「一層の努力をお願いする」と述べた。
 決議は、拉致被害者らの帰国、全政治犯収容所の廃止と政治犯の釈放等、北朝鮮で今も続く深刻な人権侵害行為の即時停止を要求し、犯罪に関与した人物の責任を追及するよう明記した。人権状況を今後も把握するため「実態の監視と記録を強化する組織」の創設を盛り込んだ。また、国連安保理に対し「適切な国際刑事司法機関」への付託の検討を勧告した。
 画期的な内容である。国際社会で多数の国々が、北朝鮮による日本人拉致を含む違法行為を人権侵害行為と認めるようになり、国連人権理事会が上記のような具体的な内容を決議したのである。今後、わが国はこの決議の実行を強く求めていくことが必要である。積極的に国際世論を喚起することが北への圧力の強化となるだろう。

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