ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

脱中国が加速している

2013-10-31 10:17:06 | 国際関係
 中国経済は、相当危なくなってきている。近年わが国では、リスク分散を目指し、中国と別の国の組み合わせる「チャイナ・プラス・ワン」を確保する企業が増加している。中国から東南アジア諸国連合(ASEAN)に生産拠点などを分散し、直接投資を拡大する動きが加速している。平成21年(2009年)以降、対ASEAN投資が今年の上期を含めて連続して中国を上回っている。この傾向は定着し、拡大しつつある。
 中国は安価な労働力を背景に、平成16年(2004)から実質GDP10%増という経済成長を続けた。だが、製造業の1人当たり賃金はこの5年ほどで倍近くに跳ね上がった。「世界の工場」ともてはやされた時期のような進出メリットはなくなった。成長率は8%以下に減速ししている。これに加えて、昨年7月わが国が尖閣諸島を国有化したことをきっかけに、日中間の緊張が高まっていることがある。中国各地で反日暴動が起こり、日系企業が被害を受けた。中国政府は反日姿勢を強め、尖閣諸島への圧力を強めている。
 その一方、ASEANが日系企業を引き付ける要因は、中間層の拡大等による旺盛な購買力や、豊富な労働力と低い労働賃金等である。経済成長に伴って消費市場が拡大しつつあり、さらなる拡大への期待が膨らんでいる。国の頭文字から「VIP」と言われるベトナム、インドネシア、フィリピンへの動きが目立ち、タイが続き、ミャンマーへの関心も高くなっている。労働賃金は、中国を100とすると、フィリピン77、インドネシア70、ベトナム44、ミャンマー16と差が顕著である。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)の「世界貿易投資報告」によると、今年上期(1~6月)の日本企業の対外直接投資額は、ASEAN向けが前年同期比55.4%増の102億ドル(約9800億円)で過去最高を記録した。対中国向けの2倍超に膨らんだ。片や中国向け直接投資は31.1%減の49億ドルまで落ち込んだ。生産拠点の「脱中国」が鮮明になっている。
 脱中国の動きは、わが国の企業だけではない。産経新聞の山本勲氏は、10月日の記事で、欧米の有力銀行も脱中国の動きを強めていることを伝えている。ゴールドマン・サックスが中国工商銀行株、クレディ・スイス銀行と英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドが中国銀行株を、全て売却した。さらに9月初め、バンク・オブ・アメリカが中国建設銀行の持ち株を全面売却した。中国建設銀行は中国4大国有銀行の一つである。この結果、欧米大手銀行は4大国有銀行からほぼ全面撤退となる。この動きは、20兆元(約320兆円)を超える地方政府債務の貸し手である中国国有銀行が今後経営難に陥ることを見越した動きとみられる。
 現代中国の特徴は、外国資本が撤退するだけでなく、中国人富裕層が資金を海外に移していることである。中国から不法に海外に流出した資金は平成23年(2011)の6千億ドルから24年(2012)には1兆ドルを突破し、今年は1兆5千億ドルに達するとみられている。原因には、不動産バブルが破裂寸前になっていることや国家債務の急増が挙げられる。習近平政権は、迫りくる経済危機に対し、思想・言論統制を強め、対外強硬路線を取っており、これに不安を感じる富裕層は、財産を海外に移転させている。
 山本氏は、「政権の前途を危ぶむ内外資本の一斉流出は、今後の米国の金融緩和縮小と相まって人民元急落や不動産バブルの大崩壊を招く恐れがある」と書いている。
 この点は、私のブログで、シナ系日本人評論家の石平氏や拓殖大学教授の藤村幸義(たかとし)氏の観測を書いてきたことでもある。石氏は「今、中国で大規模な移民ブームが起きている」「1千万人民元(約1億6千万円)以上の資産を持つ中国国民の6割はすでに海外へ移民してしまったり、あるいは移民を検討している。さらに、個人資産1億元以上の富豪企業家では27%が移民済みで、47%が検討中」だと述べている。最大の理由は「財産の安全に対する心配」である。莫大な財産を蓄積してきた富裕層や企業家たちは、究極の「安全対策」として海外移民へと走っているらしい。 また藤村氏は、中国での「投資先はリスク分散のために、国内での不動産投資を減らし、海外に投資先を求める動きが目立っている。海外投資先で最大の比率だったのは香港。また、米国への投資も加速している。海外投資と同時に子息を移民させるケースも多い。なんと資産家の6割が投資移民制度を活用して、すでに移民させたり、近い将来の移民を検討しているという」と書いている。
 日本の企業、欧米の有力銀行、そして中国の富裕層による脱中国は、加速しつつある。いまだ中国に固執する企業家や投資家も少なくないが、よく潮時を見極めるべきだろう。
 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成25年10月5日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131005/chn13100510300000-n1.htm
【山本勲の緯度経度】
「脱中国」強める欧米有力銀、中国富裕層も     
2013.10.5 10:30

 中国経済の先行きに懸念が強まるなか、欧米有力銀行や中国富裕層らの資金が一斉に“脱中国”の動きを強めている。破裂寸前ともいわれる不動産バブルや国家債務の急増、習近平政権の左傾・対外強硬路線などのリスクが、この流れに拍車をかけている。「大地震を予知した動物さながら」との声も聞かれる。
 先月初め、米銀大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)による中国建設銀行の持ち株の全面売却が明らかになった。20億株で約15億ドル(約1460億円)に上る。
 建設銀行は中国の4大国有銀行の一つ。バンカメは8年前に同行株約10%を30億ドルで取得し、買い増しを続けて一時は120億ドルを投入していた。2011年から持ち株売却を本格化し、今回で完全撤退となる。
 これに先立ち米投資銀行ゴールドマン・サックスが中国工商銀行株を、クレディ・スイス銀行と英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドが中国銀行株を、それぞれ全て売却した。
 今回のバンカメの株売却で、欧米大手行は4大国有銀行からほぼ全面撤退となる。国有銀行は「すでに20兆元(約320兆円)を超えた」(項懐誠・元財政相)地方政府債務の貸し手だけに、今後の経営難を見越した動きとみられる。
 一方で国内資金の流出も昨年来、一段と加速している。共産党中央規律検査委員会が昨年末、関連機関に発した通達によると、中国から不法に海外に流出した資金は11年の6千億ドルから12年には1兆ドルを突破。今年は1兆5千億ドルに達するとみている。
 習政権が腐敗撲滅の号令をかけたことで、腐敗官僚一族らの富裕層が財産の海外移転を加速するとの読みからだ。現に米国やカナダからの報道によると、中国の機関投資家による住宅開発や、富裕層の豪邸購入が各地で大盛況という。
 米ウォールストリート・ジャーナル紙は「中国人の人気投資先がニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコに加え、ヒューストン、ボストンなどへと拡大しつつある」と指摘した。米ラジオ・フリー・アジアは「カナダのバンクーバーで上半期に、200万~400万カナダドル(約1億9千万~3億8千万円)の豪邸が349軒(前年同期比77%増)売れたが、主な買い手は中国の富裕層」と報じている。
 香港最大財閥、長江実業グループ総帥の李嘉誠会長も“脱中国・欧州シフト”の動きを加速している。香港や中国に約300店を有するスーパーや上海、広州のオフィスビルを相次ぎ売却し、資金を欧州諸国のエネルギー、通信などの事業に移転しつつある。
 不動産バブルが頂点に達した中国の資産を売却し、債務危機から回復し始めたコスト安の欧州で事業を拡大しようというわけだ。
 “脱中国”に動く内外資本に共通するのは、盛りを過ぎた中国経済や習近平政権への不安感だ。独裁政権下で経済的な離陸を果たした韓国や台湾は、民主化と法治化を通じて経済の高度化や社会の安定を進めた。
 腐敗や格差矛盾が“沸点”に達した中国に必要なのはこうした政治、経済、社会の一体改革だ。
 しかし習政権は毛沢東時代に回帰するように思想・言論統制を強め、改革には消極的だ。
 政権の前途を危ぶむ内外資本の一斉流出は、今後の米国の金融緩和縮小と相まって人民元急落や不動産バブルの大崩壊を招く恐れがある。来年にかけての中国経済は要注意だ。(北京)

●産経新聞 平成25年9月15日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130915/asi13091500420000-n1.htm
ASEANへの生産拠点分散加速 直接投資、中国上回る
2013.9.15 00:39

 【シンガポール=青木伸行】「チャイナ・プラス・ワン」と呼ばれ、中国から東南アジア諸国連合(ASEAN)に生産拠点などを分散し、直接投資を拡大する動きが加速している。国の頭文字を取り「VIP」と言われるベトナム、インドネシア、フィリピンへの動きが顕著であり、ミャンマーへの関心も高い。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)などによると、今年上期(1~6月)の日本からの直接投資は、対ASEANが1兆200億円、対中国が4900億円。昨年通年は、それぞれ1兆1500億円と1兆700億円だった。2009年以降、対ASEAN投資が今年の上期を含めて連続して中国を上回った。この傾向は定着して、足元で拡大している。
 また、ジェトロの「国・地域別情報」へのアクセス数(12年度)をみると、伸び率は対前年比でミャンマー66%、フィリピン15%、インドネシア13%で、これらへの日系企業の関心がとくに高い。逆に、中国はマイナス8%だ。
 ASEANに進出している日系企業の61・4%が、今後事業を拡大するとしているのに対し、中国進出企業では52・3%で、11年の66・8%から低下した。中国からの「縮小・移転・撤退」は5・8%と、11年の4・4%から増えている。
 この傾向は中国の景気減速や労働賃金の上昇、反日デモ、尖閣諸島問題の影響が要因だ。一方、ASEANでは中間層の拡大などによる旺盛な購買力や、豊富な労働力と低い労働賃金などが、日系企業を引きつけている。中国の賃金を100とした場合、フィリピン77、インドネシア70、ベトナム44、ミャンマー16だ。
 フィリピンでは、ここ1、2年で日系企業の新工場設立が相次ぎ、中国から生産工場の一部を移すケースなどが目立つ。ミャンマーでは縫製、製靴を中心に、ベトナムでは縫製、電機、電子、自動車部品などの分野で、中国から生産の一部が移管されている。
 アナリストは「中国に生産拠点が集中するリスクを軽減するため、ASEANに拠点を開設し中国から生産をシフトする動きは、今後も強まる」と指摘する。
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関連掲示
・拙稿「中国:富裕層6割が海外移民を検討」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/7efd1d7f855e054b99b93123a6a544b8

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