経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

7-9月期GDP2次・雇用者報酬の20年

2017年12月10日 | 経済
 金曜に公表のGDP2次速報は、設備投資が大きく上方修正され、年率で2.5%成長に達するというポジティブ・サプライズであった。日経によれば、金融業の投資の多さが要因だったようであり、追加的需要が一服する中では、出来過ぎの感はあるものの、まずは結構なことである。また、世間的には見過ごされがちだが、消費が停滞する中でも、雇用者報酬は着実に伸びている。消費の潜在力が増しているということで、今後の加速を期待したい。

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 「日本企業はカネばかり溜め込んで投資しない」と言われる中、設備投資の前期比は、実質年率+4.3%となり、前期の+4.9%に続いての高い伸びとなった。カネの溜め込みは、そのとおりでも、国内への設備投資は、それなりに始まったと言えよう。水準で見ても、実質GDPに占める設備投資の比率は、リーマンショック前のピーク時に迫るところまできた。ただし、当時と違うのは、研究開発への投資が多いことだ。これは、研究開発をカウントしなかった旧基準のGDP比の水準との比較で読み取ることができる。

 長期的に眺めると、「1997年のハシモトデフレから、企業の行動が変化した」とする向きもあるが、現在のように外需に恵まれると、設備投資はなされている。要するに、経営思想より需要ということだ。かつてとの比較で足りないのは、むしろ、公的な投資である。もちろん、いまさら公共事業の時代ではないから、GDP上で投資にカウントされずとも、人的な投資を伸ばし、少子化を緩和して、人間そのものを増やす「投資」が求められる。

 7-9月期の設備投資は、上方修正によって順調に伸びた形へと変わった。それでも、輸出・住宅・公共の追加的需要に一服が見られるので、今後に多少の懸念もある。それだけ、追加的需要は有力で、企業収益の高さで大丈夫と思うのは早計だ。設備投資と企業収益との連関は、需要逼迫下では収益性も高まるからに過ぎない。上り坂の際、設備投資は、追加的需要に遅れる場合があり、鉱工業生産の資本財(除く輸送機械)の見通しの強さは安心材料だが、10-12月期に伸び悩みが出るおそれはある。

(図1)



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 もう一つの7-9月期GDPの特徴は、前期での+1.1の急伸の反動もあるとは言え、家計消費(除く帰属家賃)が前期比-0.7と減退したことである。その一方、消費を支える雇用者報酬は、前期比+0.7と、4-6月期の+1.0と同様、着実な前進を見せた。雇用者報酬の増大は、女性と年配の動員という「量」で稼いだものではあるが、パイは大きくなり、GDP比率でも底入れしている。物価と生産性の指標となる単位労働コストも、わずかながら直近の最高を更新した。

 アベノミクスの評判の悪さは、「量」で稼いでいることと、下図の緑線と黄線の推移の差で分かるように、円安誘導と消費増税で物価を上げ、実質を下げてしまったことにある。庶民感覚としては、報酬が大きくなったというより、懸命に働いて生活の苦しさを埋め合わせているのが実感だろう。また、名目の長期的な水準は、決して高いものではなく、リーマン前やITバブル時のレベルを超えただけで、ハシモトデフレ前には追い付いていない。つまり、20年前より少ないのである。

 雇用者報酬の着実な増加を踏まえれば、今後の消費は消費性向がカギとなる。7-9月期の減退は消費性向の低下も一因だ。消費性向は、財政や社会保障の将来不安ではなしに、目先の雇用環境に左右されるため、消費動向調査と景気ウォッチャーをチェックすると、11月は前月比+0.8と+2.5であり、10月に続き大きく上昇した。10月は、ウォッチャーのいわば供給側の小売と飲食関係が大きく下がるアンバランスさがあったが、11月は、そちらも強い。10月は、消費性向の戻りが少なく、不発だったのと比べ、11月の消費は、結果が楽しみである。

(図2)



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 過去20年の名目雇用者報酬の推移をたどると、感慨深いものがある。1997年に成長力を失い、ITバブル崩壊で二番底、リーマンショックで三番底をつけ、単位労働コストは、趨勢的に下がり続けた。それで、ようやく迎える更新のチャンスである。この時代、設備投資は、バブル崩壊が一段落した1994年頃から、リーマンショックの2008年まで、追加的需要に従ってきた。そして、リーマンショックが落ち着いた2012年頃から、再び同じ傾向が表れている。

 ほとんど「法則」と化してきたのは、景気が上向いたら緊縮をかける摘芽型財政で、需要と設備投資の間の好循環を妨げてきたからである。ある意味、異常な現象であり、それ以前には当たり前だった、好循環によって設備投資が追加的需要から離れて行くのが本来の姿である。今後、消費性向が戻って消費が強まり、これに呼応して設備投資は盛んになる展開になるのだろうか。20年ぶりに「法則」が変わり得る転換点に立っている。


(今日までの日経)
 デフレ脱却へ薄日。日欧EPA交渉妥結。生産性・人づくり革命 政策決定。配当が最高の12.8兆円。現金「使う力」追い付かず、「稼ぐ力」は10年で33%増。所得増税1000億円確保。補正予算2.9兆円程度。米減税案に成長効果なし・FT。
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