経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費増税、いつなら可能か

2016年05月15日 | 経済
 昨日の日経は、「首相、消費増税先送り、サミット後に表明」と抜き、いよいよ、本決まりとなった。消費増税の予定どおりの実施は、経済的な自殺行為に等しく、当然の判断である。ここで大事なのは、では、いつ、どのような形で行うかだ。前回、「1年半も延ばせば良かろう」と適当に方針を決め、景気配慮条項を削ったために、またしても、財政当局は不明をさらした。この無能ぶりを忘れてはなるまい。

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 1-3月期GDPは5/18に公表されるが、民間最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃)は、消費総合指数を基に前期比+0.4としても、足元で245兆円程と考えられ、消費増税直後の2014年4-6月期を下回る水準である。もし、予定どおりの実施となれば、消費は、8%増税時の結果からして、増税額と同等以上の低下となるため、東日本大震災の発生時に近いレべルまで落ち込んだだろう。

 それは、完全な底割れ水準であり、デフレ・スパイラルの勃発すら懸念され、あまりに危険過ぎて、予定どおりの実施は、とても無理だった。現状が小康にあるのは、消費増税で低下したとは言え、今回の景気回復の出発点である2012年当時の水準に踏みとどまり、かつ、外需や企業収益に恵まれているからである。幸運な巡り合わせに感謝しこそすれ、慢心は禁物である。

 下図で分かるように、足元は二番底にあり、未だ底入れすら言い難い状況である。二番底は1997年増税の際にも見られており、増税ショックからのリバウンド後の減退として、消費増税には付きものと解釈すべきだろう。1997年増税時は、3年目にして、ようやく消費が上向いたので、3年目の今年は、なんとか持ち直してほしいところだが、増税による消費水準の落差は前回より遥かに大きく、予断を許さない。

 もし、消費増税がなければ、消費は、下図の緑線のトレンドで推移したと考えられ、現実との差は15.8兆円にもなる。消費を裏打ちする所得に換算すれば21.5兆円であり、所得増に伴い6.7兆円の国民負担が得られていたはずだ。つまり、消費増税で1.4兆円多く得るのと引き換えに、これほどの機会損失を被ったわけである。財政しか視野になく、経済や国民生活を思わないバカバカしさに、いい加減、気づくべきだろう。

(図)



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 それでは、10%増税は、いつなら可能なのか。今回の増税の傷が癒えてからにしたいというのは、常識的な見方だろう。その場合、長期的なトレンド、具体的には前期比+0.21で伸びて行ったとすると、増税前水準を回復するのは、実に、2020年10-12月期となる。つまり、2020年度に基礎的財政収支をゼロにする財政再建目標には間に合わない。裏返せば、目標達成には、以前より大きく低下させた国民生活の水準を忍従させ続ける覚悟がいる。

 これが厳しい現実だが、2021年4月まで消費増税をしないというのでは、政治的にもたないだろう。おそらく、財政当局は、財政再建目標を金科玉条に、2019年4月には増税したいと、ゴリ押しして来るはずだ。2019年4-6月期の消費は252兆円だから、2015年平均の247兆円との差は5兆円しかなく、軽減税率を織り込んだ4.4兆円の消費増税の圧力をかけると底割れする危険がある。

 それゆえ、こんな余裕のない計画では、三度目の見送り論議が避けられないだろう。結局、無理な計画は、絵に描いた餅でしかなく、実現可能性を疑われて信用さえ得られまい。そうすると、残された道は、増税幅を1%に刻むことしかない。つまり、急速な景気回復がなく、トレンドで推移するなら、1%アップにとどめると、予め条件を付すのである。これが次善の策であり、本当に増税したいなら、これ以外にはあるまい。

 実は、2014年11月に、本コラムは、無条件で2017年に上げるという「悪魔の声」に耳を貸すなとし、景気条項を削るのなら1%に刻めと説いた。1%なら、同時に社会保障を充実させるなどの緩和措置によって、増税のショックをカバーすることも可能だ。一度に2%上げるとなると、そのカバーは至難の業で、大型の補正予算でバラマキをせざるを得なくなり、その後始末にも苦しむことになる。

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 たぶん、現実には、経済的なことは顧みられず、選挙の都合で増税の時期が決まり、「今度は絶対の絶対に上げる」と叫ぶだけだろう。反省なく、同じことが繰り返されるのだ。財政再建については、筆者も本当に心配していて、消費増税を見送るなら、将来の金利上昇に備えて、利子配当課税の税率を25%に上げてほしいくらいだ。むろん、直ぐでなく、金利が一定以上になったら作動させる条件付きで構わないから。

 消費増税は、一度に上げる野心を捨て、同時に低所得層の社会保険料の軽減を併せて行う工夫をすれば、無理なく実現できる。低所得層の軽減は、成長に連れて財政負担が減るので、財政再建の効果を損なうわけでもなく、労働供給を高めて成長力を強化し、若者を助けて少子化も緩和させる。日本の財政当局は、どうして、消費増税のゴリ押ししか知らないのか。増税失敗を政治や国民が嫌うせいにしているうちは、病は直らないと思う。


(今日の日経)
 格安航空がアジアで連携。消費増税先送り、延期期間、解散戦略絡む。読書・介護市場の経済学。中原王座・年とともに読みの精度が。

 ※今週の大機小機は、希さん(5/11)とカトーさん(5/15)の競作がおもしろかったね。筆者はと言えば、王座と同様の此の頃だ。
コメント (4)
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