経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

財政の中長期試算のごまかし

2014年07月27日 | 経済(主なもの)
 この国の経済財政の運営は、これが基礎になるわけかい。企業の場合、事業計画は、足元の数字を固めた上で、現勢なら目標をいつまでに達成できるか確かめる。これは基本中の基本だろう。足元がいいかげんで、黒字化の時期が不明という計画書を持って来ようものなら、そんな事業部長は無能の烙印を押される。7/25公表の「中長期の経済財政に関する試算」は、これに類するものとしか思えなかった。

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 本コラムは、「中長期試算」について、これまでも、かなり厳しい評価をしてきた。それは、経済財政を運営する上で、極めて基礎的かつ最重要の資料であり、その改善が日本経済の復活に必須と考えるからである。まあ、「愛の鞭」だね。そのせいか、今回は、一点だけ改善がなされている。それは、係数表に(注1)が追加されたことで、「国の一般会計の姿のうち、2013年度は決算に、2014年度は当初予算による」とある。

 昨夏の「中長期試算」では、この部分の税収が前年度より少なくなっていて、いかにも不自然であることを指摘した。前年度の税収上ブレを反映してないことが見えみえだったため、産経論説の田村秀男さんに突っ込まれる次第となった。今夏は、消費税の4.5兆円もの増収があるため、前年度より少ないという無様な形にはならず、素人目には分からないものの、不整合を質されないよう、予め「言い訳」を用意しておいたのだろう。

 しかし、「当初予算で決められたものだから、それをベースにするしかありません」みたいなことを聞かされても、実態として、前年度の国の税収が1.6兆円も上ブレし、ベースが上がっていることは確実なのに、それを反映しない中長期の見通しを示されて、どう判断せよというのか。加えて、地方の税収も、7/13に指摘したとおり、1.1兆円程度の上ブレになっているはずで、実態との乖離は相当にある。

 仕方がないので、ノーチェックの諮問会議になり代わり、2014年度以降について、税収上ブレの2.7兆円分、GDP比で0.54だけシフトさせた黄線を加えた図を作成した。こうすると、3%の消費増税がある2014年度の収支改善よりも2015年度の改善が大きいために生じる「不自然な線の折れ曲がり」も直ることが分かるだろう。そして、ついでに、2025年度までの2年分を、直前のトレンドで伸ばしておいた。さて、そうすると、驚くべきことが分かる。

(図)


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 今回の「中長期試算」が公表された際の各紙の反応は、「2015年度の基礎的財政収支の赤字半減の目標は達成できそうだが、2020年度の赤字ゼロの目標には程遠い」というものだった。むろん、「その達成には更なる消費増税が必要ですよ」という財政当局の思惑に乗せられているわけである。「中長期試算」は、経済財政の戦略を考える資料ではなく、増税の目論見を正当化する単なる宣伝材料にされている。

 ところが、実態に即した図が示すのは、基礎的財政収支の赤字ゼロは、何もしなくても、2025年度には達成できるという予測である。それなら、どうして2020年度に固執し、増税による成長の失速という危険を犯して、更なる消費増税を敢行しなければならないのか。おそらく、誰も、5年早める必要性を見つけられないだろう。

 そもそも、基礎的財政収支の赤字は、リーマン・ショック前の2007年度には、GDP比で-1.0%程しかなかった。つまり、特別の改革をせずとも、経済を回復させるだけで、そこまでは戻せるということだ。あとは、毎年1兆円の社会保障費の自然増に合わせ、景気を壊さぬよう、2年に1%の緩やかなペースで消費税を上げて行けば良いだけだった。

 それを、根拠不明の「2015年度に赤字半減」という急進的な目標を立て、一気の消費増税を余儀なくし、成長を危険にさらす一方、代わりに成長を高めると称して、管政権の法人減税で1.2兆円もの税収の穴を開け、安倍政権の2年分の企業減税で0.9兆円も落とし、財政再建の道を複雑なものにした。収支改善カーブの緩急を成長に適合させるよう考えるという、まともな中長期の展望を持たず、消費税を上げることばかり考えるからこうなる。

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 残念ながら、目下の消費増税後の実質賃金の落ち込みぶりでは、とても今年度の政府見通しの1.2%成長は難しく、アベノミクスによる「経済再生ケース」は成らないだろう。本コラムが提言していたように、1%、2%、2%の緩い刻みで消費税を上げていれば、何ということはなかった。それで2025年度に赤字ゼロへ到達することが変わるわけでもない。むしろ、急進的な消費増税こそが成長を失速させ、財政再建のメドを失わせる。

 それもこれも、足元を最新の数字で正し、その延長線上で、いつ頃、目標に至るかを考えるという、計画作りのイロハを怠ってきたからである。まっとうな事業計画も作れないのに、「とにかく早い黒字化を」とわめき、売れ行き低下も考えず「値上げすればいい」とうそぶく、そんな事業部長に、日本は、大事な経済財政の運営を委ねている。その程度の物言いには乗せられないくらいの見識は、身に付けておきたいものである。


(昨日の日経)
 カジノ20年度までに3か所。人手不足が業績圧迫。木材大国への道。エルニーニョどこに。中長期試算の成長率2%に民間は「強すぎる想定」。消費税10%判断12月上旬。事業税の上乗せ撤廃で地方に衝撃。英経済「リーマン前」超す。

※成長のためなら何でもやるのかね。※だから設備投資がなされる。※内閣府の「消費税率引上げ後の消費動向等について」の7月平均は今週になっても6月を下回ったまま。エルさんは消費不振の犯人にされなくて良かったね。

(今日の日経)
 ミャンマー小売自由化。増税後の地方景気・6月下旬から失速「まずいんじゃないか」。中国式民活は台湾に習わず。読書・ローマ帝国の崩壊、納得の老後、日本の雇用と中高年。

※サイフが寂しいことに後で気づいて、消費は冷え始める。ラグを知らずに、天気のせいにしてはいかんよ。増えたボーナスは駆け込みの払いに消えたのかな。
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