ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(フィクストインカムの専門家)

「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

アメリカ経済 アップデート その5 長期金利の見通し

2017年04月23日 | アメリカアップデート

  さすがの北朝鮮もいまのところおとなしくしていますね。山場は25日ですが、私は特に心配していません。トランプのシリア攻撃やISISへの巨大爆弾攻撃が効いているのでしょう。どうみても予測不能なのは金正恩ではなく、トランプです。トランプがこれに味をしめるとしたら、さらにリスクは高まるので、このへんにしてほしいところです。トランプリスクの顕在化は、金利に下方バイアスをかけると思って間違いありません。

   REAL CLEAR POLITICSという大統領選挙中にも引用した各種世論調査のおまとめサイトによると、シリア攻撃前のトランプの支持率の平均値が一時40%を少し割っていましたが、攻撃後は42%程度に若干回復しています。しかし彼の思惑ほどではなかったようですし、現在でもそれ以上には上がっていません。

 

  では、当たるも八卦の金利の見通しです。

  金利変動の要素は非常に多く、それらをすべて考慮するのは手間暇がかかりすぎますし、それをもってしても当たるものではないので、ここではトランプの政策実現見通し、GDPの長期推移、そしてFRBスタンスの3つを簡単に確認します。

  まずトランプの経済政策ですが、その要は「減税とインフラ投資で経済を活性化させる」です。両者ともに国家財政を悪化させる方向に作用し、金利を上昇させますが、トランプの皮算用はそれにより「経済が活性化すれば、将来の税収にはプラスで跳ね返るハズ」という皮算用です。トランプは最近「2-3週間以内に驚異的な減税策を発表する」と言いました。しかしスパイサー報道官はすでに「数週間後だ」と言いはじめ、財務長官のムミューチンですら8月までの税制改革は難しいと後ろ向きの発言をしています。

   インフラ投資も簡単には予算がおりません。理由は政権与党の共和党が、歴史的にバラマキ財政をきらう政党だからです。従って減税もインフラ投資も、それが簡単に国債増発にはつながらない、というのがトランプ政策に対する私の見方です。アメリカの新聞報道でも減税とインフラ投資は、トランプの目標のせいぜい半分程度が実現できれば上出来という見方が多いので、長期金利を上昇させるまでにはいたらないと予想します。

   次はさまざまな経済指標を総合したGDPの動きです。アメリカ経済は数字を見れば絶好調です。トランプが言うように失業者があふれているわけではなく、失業率は4.7%と最低水準にあり、インフレもFRBが利上げを何度かできる2%程度になっています。

   アメリカの景気拡大は金融危機からの回復後すでに8年目になりますが、その間にGDPがどれだけ成長したかを見てみます。ちなみに日本の数字も示し比較します。09年から16年までのアメリカの名目GDPの成長は29%、実質GDPの成長も15%を超え、日本はそれぞれわずか7―8%台です。

   名目成長をばかにしてはいけません。消費税収入などは、名目GDPに税率を掛けたものに近似しますので、とても重要です。

 

GDP     アメリカ 10億ドル      日本 兆円

     名目   実質         名目  実質  

09年  14,419  14,419      471    490

16年  18,562    16,656                  505    532

  伸率   29%   15.5%                7.2%   8.6% 

   日本との比較のため為替変動はありますが、1ドルを16年末の120円としてラフに比較しますと、アメリカの名目GDPは16年2,227兆円で、日本の505兆円の4.4倍です。アメリカは09年から16年までの7年間でGDPを約500兆円、つまり日本のGDP総額に匹敵するほど拡大させたのです。その間の日本は、わずか26兆円しか増やせませんでした。なさけないほど小さな数字です。実質成長率もアメリカは日本の約2倍も成長しています。それでも長期金利は低い状況を脱してはいません。

 

   トランプは「アメリカは雇用を海外に奪われているので、それを取り戻す」と言っていますが、失業者はあまりいません(笑)。私に言わせれば「アメリカは鉄鋼などに代表される重厚長大産業をあきらめ、ITなど生産性の高いハイテク分野にシフトしたので、雇用拡大に成功し、めざましい成長を遂げた」となります。

  トランプ当選の原動力はラストベルトの白人労働者層の支持を取り付けたことでした。では、この100日間でそれに対する有効な政策を示せたでしょうか。何も示していません。まあ彼らはコアの支持者なので100日であきらめることはないでしょうが、半年・一年経つとそうはいきません。

   鉄鋼業がアメリカに戻ることはありえません。16年の国別粗鋼生産量を以下に示します。粗鋼生産はスケール・メリットが大きい製品です。日本もアメリカも中国の後塵を拝しています。

1.    中国   808百万トン

2.    日本   105

3.    インド   95

4.    アメリカ  79

 

  アメリカがこの差を埋める手立てなどありえませんし、失業者の少ない今、必要もないと思います。今後トランプはアメリカの成長をどこまで邪魔できるでしょうか。ラストベルトに鉄鋼業など持ってこれるはずはないので、邪魔はできません。せいぜいワーキングビザの制限くらいがせきのやまでしょう。現在その大統領令もIT産業から猛反発を食らっています。

   GDPがたとえこれまでのように堅調に伸びても金利上昇は限定的だし、トランプのラストベルト対策などとうてい期待できません。

  では3つ目のFRBのスタンスはどうか。利上げは年内にあと2・3回あるかもしれませんが、必ずしも長期金利がFRBの利上げに連動するとは限りません。重要なのはむしろFRBのバランスシート縮小が年内にあるかないかです。

  現在のFRBは保有国債などが満期を迎えると、その償還資金と同額の債券を買い入れ、バランスシートの大きさは保たれています。つまり金利に対して中立の立場を取っています。しかしFRBの多くのメンバーは、今後年末にかけては償還される債券の補充はせず、自然にバランスシートが縮小するのを容認すべきだという考えを持っています。

  トランプは退任するFRBメンバーの後任に、緩和維持派の新メンバーを迎え入れる決断をしていますので、極端なバランスシートの縮小はないと見ておいた方がよさそうです。

  オバマ嫌いのトランプは以前、オバマと長く良い関係を保っていたイエレン議長を取り換えると宣言していました。しかし最近はイエレンのハト派姿勢を評価し「低金利が好きだ」と言いはじめ、前言を翻しました。もっともまたいつ考えを翻すか、見当がつきませんので、彼の言葉など無視しましょう。

  FRBの利上げを市場は年内に2~3回とみていますが、それでも長期金利は上昇していません。トランプラリーは長期金利にもありましたが、それはすでに半分剥げ落ちています。

   こうして3つの重要な要素を見ていきますと、長期金利の上昇余地は限られていることが見て取れます。

   そして最後に重要なのは「世界のカネ余り」です。日本しかり、欧米もしかり。最近新興国の経済が若干回復し、新興国市場へカネが回り始めています。しかしそれも相当程度アメリカの好調さによるところが大きいので、自力更生とまでは言えません。つまりそれがカネ余り状況を変えるところまでには至らないと思われます。

    まとめますと、

1. トランプの政策はどれをとっても実現性にとぼしく、部分的に実現できても金利上昇の大きな圧力にはならない

2. アメリカのGDPはトランプ以前に十分に成長しているが、その間金利は上昇していなかった。今後は景気のスローダウンに注意する時期にさしかかっているので、その場合金利は抑えられる

3. FRBの利上げはすでに織り込まれていて、バランスシートの縮小が現在の見通しより大幅でない限り金利に大きな上昇圧力はかからない

  そして世界の「カネ余り」に変化はない。

  従って今年中に3%を突破するのは難しいと私はみています。

以上

 

コメント (2)
この記事をはてなブックマークに追加

アメリカ経済 アップデート その4

2017年04月17日 | アメリカアップデート

  これまで述べてきたのは、アメリカ経済は今年中に利上げを繰り返すほど順調に推移している、ということでした。特に雇用が強く、賃金もそこそこ上昇しているので、GDP7割を占める消費が依然として強い。ただ、景気循環論からみると、そろそろ一休みしてもおかしくないほど拡大が長期にわたり続いている、ということでした。

  そしてサブプライム自動車ローンのバブルが崩壊するリスクを騒ぎ立てる人がいるが、実際の規模はさほどでもなく、巨大リスクなどではない。リスクは経済に内在するより、むしろトランプの地政学上のリスクの方が心配だ、とも申し上げました。

  北朝鮮は昨日ミサイル発射に失敗しました。トランプがそれにかこつけて反応するか否か、まだわかりません。政治の専門家や報道は、北朝鮮の金正恩は何をするかわからないと言いますが、彼の行動は大方が予測するのとたいした違いはありません。それよりも突然シリアを爆撃したり、アフガンに巨大爆弾で爆撃したりするトランプの方がよほど予測不能の大統領です。

   シリア爆撃も巨大爆弾投下も、それをもって戦況を変えるようなものでは決してなく、国内で自分の政策がうまくいかないトランプによる自作自演のパフォーマンスであるという見方が欧米では多くなっています。私もどちらかというとその見方をしています。なので予測のつかない出方をするのは金正恩よりトランプだ、ということなのです。実際、今回のミサイル発射も北朝鮮を分析しているアナリストの予想の範囲でした。

   ついでに言うなら、金正恩が何をするかわからない独裁者だという理由は、本気で戦争をすれば負けるに決まっているのに、何故そこまで国際社会に歯向かうのか、その非合理的行動のことを指すのでしょう。私の見立ては以前も申し上げましたが、彼は国内にいても日常的に自分が殺されるか、敵を先に殺すかの瀬戸際にいるため、常に外に敵を作り続けて国民の目を逸らし、国を自分中心にまとめなければならないからだと思っています。でなければスイスのボーディングスクールで国際社会を知ったエリートが、親類縁者まで殺しまくる殺人鬼にはなれないと思うのです。

 

   トランプのアメリカに戻ります。トランプのように突然海外で予想もできない火遊びをするような大統領がいるアメリカ、いったい経済は大丈夫なのでしょうか。すでにこのシリーズの最初に申し上げた通り、経済ファンダメンタルズは揺らいでいないし、今後も崩壊の可能性のあるバブルなどないので、大不況に陥るようなことはないという見方をしました。

    しかしこうしたトランプの気まぐれにより左右される金融市場は別です。相場をされている方は、さぞ大変なことと思います。トランプラリーに振り回され、それが反動を呼び、彼がひとこと「円は安すぎ」と言うだけで反応するような地合いですので。

    ではトランプ相場を見るために16年年初から数字を簡単に見てみましょう。117日は選挙結果寸前、31日は株価のピーク、そして先週末を比較します。

          16年年初  117日   31日  413

S&P500         2,012        2,131        2,396       2,329

米国債10年     2.13         1.83          2.45        2.24

ドル円レート    120.6        104.5         113.7      108.6

  まず株価ですが、16年年初から当選前までゆっくりと6%上昇していましたが、当選後はご存知の通りトランプラリーが始まり、31日までに11月比7%上昇。その後は現在まで3%の下落です。

   一方10年物国債のイールドは当選直前の1.83%が31日までに2.45%まで上昇。それにつられるようにドル円は9円も上昇しました。しかし実はドルのピークは1216日の117.9円で、その後はむしろ穏やかな下落基調です。

トランプラリーの一環として、ドルのラリーはすでに収束、株式のラリーも収束しつつある。それが現状だと私は見ています。

   昨年末私は、大学の同級生で大手金融機関の会長をしている友人と、トランプラリーはいつまで続くかという話をした、と書きました。株式相場については二人とも春頃までで一致し、今のところそのような推移です。しかし為替については友人が「もう115円は下回ることはない」と断言したのに対し、私は予想を出していません。自信がないのと、トランプリスクと口先介入に反応しやすいとみたからです。結果は年末のクラス会の時がドルのピークで、株価はさらに上昇したにもかかわらず、ドルはむしろ低迷しています。

   コメント欄でもシーサイドさんが為替変動の原因についてご自分の考え方を述べられていました。基本的には私も賛成です。4年ほど前に私がシリーズ「円高デフレのトラップにはまり込む日本」で書いた為替変動に関する長期的原因追求と同様だと思います。つまり長期の流れは経常収支に沿い、そこに投資による変動要素が加わる、というものです。

  従ってトランプラリーなどは雑音に近い。もしトランプが本当に貿易制限を実行すると対米黒字の流れが変化する恐れがあるので、それがドル高を一時的に演出したが、すでにトランプの力のなさが露呈したので、巻き戻しが起こっている。それでも短期的には口先介入による変動が加わるので、先を読むのはとても難しいと思います。

  トランプの言う事など朝令暮改。中国は為替操作国だとあれだけ言い続けていたのに、突然「中国は為替操作国ではない」と言い出す。「ドルは安いほうがいい」と言っていても、突然「ドルは高い方がいい」と言い出すにちがいない(笑)。

  それに付き合わないといけない為替のアナリストは本当にお気の毒様です。でもドルへ投資を考えている方には、トランプリスク=チャンス到来ということがあるので、リスク大歓迎かもしれませんね(笑)。

  では米国債金利はこの先どうなるのか。次回は当たるも八卦の金利予想をしてみます。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

トランプの地政学上のリスク 

2017年04月11日 | トランプのアメリカ

  今回は経済を横に置いておいて、地政学上のリスクに関してです。

  シリアへの攻撃後こんどは北朝鮮を巡り、だいぶきなくささがただよい始めました。トランプ政権は何故それほどまでに事を急ぐのか、政権内部の様子を探ってみたいと思います。以下は一昨日、サイバーサロンというプライベートなサロンに私が投稿した内容に、一部分追加して引用します。

 

  「米中会談は何の成果もなかった」、とは報道されていませんが、それが実態でしょう。共同声明もなければ記者会見すらなく、北朝鮮問題や貿易問題はどう話し合われたのか。当日の欧米メディアはシリア攻撃のニュース一色で、事前にあれほど注目されていた世界の2巨頭による米中会談のニュースはほとんど扱われていませんでした。

   今年の一番のリスクは、独善的トランプの『わが道を行くアメリカ』だ、というのが地政学的リスクの専門家イアン・ブレマー氏の見立てでした。私も全く同感です。

  シリアへの直接攻撃でトランプは就任後100日も経ずして国際的非難の的になっています。シリア軍への攻撃を欧米のメディアがこぞって伝えているポイントは、「しっかりとした調査もせず、国連にも諮らずに攻撃したのは、ブッシュの対フセイン戦争のやり口より筋が悪い」、というものです。ブッシュは少なくとも西側諸国の同意を取り付けています。

   もっとも西側各国でも首脳に限れば化学兵器を使用したとみられるシリアを非難する側に回っていて、トランプの空爆を事後的に支持しています。ところが政治学者やメディアの論調はトランプの勇み足を非難する方が多いのです。

   突然の攻撃の理由は、

 1. 化学兵器で苦しむ赤ちゃんの写真を見たトランプの気まぐれ

2.  北朝鮮への牽制

3.  支持率低下に対する起死回生の一撃

4.  米中会談で成果がなさそうなので、メディアの目をそらすため

   これが私の勝手な見立てです。今後もこうした彼の気まぐれと牽制には十分に注意が必要で、北朝鮮や中国に対する気まぐれは、本気で反撃される可能性を助長することになりかねません。就任以来トランプは大事な政治決断をことごとくしくじっています。ギャラップ社による支持率は40%を下回る歴代最低。それを外敵をつくることでかわそうとする、いかにも彼がやりそうな手口です。

  ちなみに昨日の米メディア、ABCなどによる世論調査の結果は、トランプのシリア攻撃を支持する50%、支持しない41%と報道されました。これはシリア攻撃に限ったことですが、思惑通りです。しかし、もし第2撃があったとしたら、支持する35%、支持しない40%と逆転しています。

   支持率の低迷に加え、トランプ政権内は内部抗争と人手不足で火の車です。

   内部抗争とはあの極右思想の首席戦略官スティーブ・バノンと娘婿のクシュナーの衝突。人手不足とは、各省の政治任用ポストがほとんど埋まっていないということです。

   スティーブ・バノンはナチスを礼賛するオルトライトと呼ばれる一派である危険人物ですが、それが大統領の首席戦略官と言うこれまでにはなかった名前と役割を与えられ、影の大統領とまで呼ばれています。しかも国の安全保障戦略の要であるNSC国家安全保障会議メンバーに入っていました。NSCのメンバーにはこれまで統合参謀本部議長と国家情報長官が当然入っていたのですが、バノンがそれをはずしてしまいました。しかし今回のバノンの解任後、いつものメンバーとして2名は復帰しています。

   内部抗争によりその役をはずされたバノンですが、もともと彼の思想的背景を危険視する共和党議員重鎮の反対意見を無視して、トランプが選挙参謀だった彼に政権で重要な役割を与えました。ところがろくに働きもしないうちに先週NSCからはずされています。直接の働きかけは、首席安全保障補佐官のマクマスターの要請と言われています。しかし、トランプお気に入りの人物を解任させられるほど力を持っているのは、政権内でトランプの信認の最もあつい、娘婿のクシュナー以外ありません。

   ホワイトハウス内の部屋の順序も、大統領執務室の隣にクシュナー上級顧問、その隣が首席戦略官バノン、それからその他大勢、といっても重要なポストである首席補佐官や報道官などの部屋が続いています。日本で言えば首相の隣に官房長官がいるはずなのに、その間に娘婿と極右人物が割って入るという異常な序列を形成しています。そのバノンがNSCからはずされましたが、首席戦略官には就いたままです。しかし力を失ったのは確かで、すると単なる上級顧問でしかないクシュナーの独壇場になる恐れがあります。

   クシュナーは敬虔なユダヤ教徒で、かのキッシンジャーから様々なアドバイスを受けていると言われています。

  以上が内部抗争に関する内容ですが、一方さらに深刻なのが政権内の人手不足です。アメリカ政府の主要ポストは政治任用と呼ばれ、大統領が交代するたびに数千人が動くと言われます。その中でも重要なポストが空席のままだというのです。4月8日の日経新聞を引用します。

 「国防省の政治任用の主要な幹部約50人のうち、マティス国防長官以外ほとんどが空席。そのため格下の職員が切り盛りしている。外交を仕切る国務省はもっと大変だ。大半の政治任用ポストが空席なうえ、トランプが予算の約3割減を決め、士気が下がっている」

   空席を埋められないのは、官僚候補たちがまともなインテリだからで、まともなインテリはトランプに投票は投票していないし、政権入りしません。彼らは、今ここでトランプの片棒を担ごうものなら、一生報われないと思っているので、決して政権入りなどしないでしょう。

   就任早々威勢よくイスラム系諸国からの入国禁止令を発したものの裁判所から阻止され、次にはオバマケア代替案を議会から拒否されました。そうしたトランプの様子を見てある友人が、「アメリカは3権分立が機能している」と言っていましたが、まさにその通りだと思います。大統領令だけで実行できることは限られていますので、アメリカはトランプの独裁にならない。それがトランプリスクを限定的なものにしていると私はみています。

  トランプが自分の支持率向上のために北朝鮮と事を構えたりしないよう、祈りたいと思います。

コメント (11)
この記事をはてなブックマークに追加

アメリカ経済 アップデート その3

2017年04月07日 | アメリカアップデート

  予測のできない大統領トランプが、先ほど遂に本領を発揮しましたね。

  「オレは本気を出すと恐いんだぞ」ということを、習近平の前で示しました。

  しかし私には支持率低迷に直面する起死回生の一撃のようにも見えます。

  アメリカのメディアは「今回の一撃は用意周到に準備されていた。それはロシアへの事前通告や、トランプが習近平に会いに行くための大統領専用機内での発言に表れていた」と解説しています。もちろん最近のニュースにあった、あの極右の大統領戦略補佐官、スティーブ・バノンをNSC、国家安全保障会議のメンバーから外したことなども含まれています。

  彼は機内で記者団に対して得意満面で「近々シリアで何かあるぞ」と予言していました。かわいいトランプちゃんは、黙っていられないのです。

  彼は以前、シリアやアサド大統領に対して言っていた「シリアなんて関心ない」という前言を、いとも簡単に翻しました。ロシアとプーチンに対しても同様で、「プーチンは賢い。いい関係を築けるだろう」という前言も、すでに180度翻しています。もちろん北朝鮮の金正恩に対しても同じ。

  私はトランプが世界の独裁者に対して発するラブコールに対し、「英雄並び立たず。きっとすぐ喧嘩が始まる」と申し上げていましたが、全くそのとおりで、サイコパス人間はしょせん敵ばかりを作るが得意なのでしょう。

  アベチャン、要注意ですよ!

  では今回の一撃が世界の金融市場にどの程度の影響を及ぼすか。私の勝手な見立ては、

「たいしたことはない」です。

  理由は、すでにロイターはアメリカ軍の高官が、「今回は1回のみ」と言っていることを伝えているからです。それと彼のやることのほとんどは「ブラッフ」、つまりハッタリだからです。

  トランプによる今回の攻撃に関する声明は、ディナーを一緒にした習近平と別れてすぐに発表されましたが、きっと習近平にも会談中、あるいはディナー中にあらかじめ伝えておいたのでしょう。でないと中国人の一番嫌う「メンツをつぶす」ことになるからです。

  会談直後トランプは習近平と並んで写真を撮らせているとき、(数時間の会談で)「これまで何一つ合意されていない」と笑いながら得意げに述べていました。ということは結構合意されたものはあるとも取れますし、合意してくれない習近平へのブラッフとも取れます。

 

  さて、アメリカ経済の続きです。

  前回私はトランプ政策の実行性について、疑問符がついたと申し上げました。理由は、大統領がやりたいことをいくら大統領令で「やれ」と言っても、実際には議会での承認が必要なことが多く、例えば国境税などは与党の共和党議員も選挙を考えると、簡単には賛成しなからだと申し上げました。

  今回は、それでもなおトランプの経済政策がかなりの程度実現されたらどうなるのか。私なりに分析します。

  トランプの経済政策の重要ポイントは、以下の3点です。

1. 減税・・・法人税、所得税

2. インフラ投資・・・老朽化したインフラの更新投資や新規建設

3. 保護主義・・・国境税の導入や製造業のアメリカ回帰、バイ・アメリカンなど

  1と2は直接的には国内要因です。1の減税が実行されるということは政府収入の減少につながります。2のインフラ投資は政府支出の増加となり、1と2が両建てで政府の債務を増やすことになります。

  しかしトランプの政策目標は、もちろん最終的にそれらが実行されることで経済が活性化し、税収を増やすハズという皮算用です。大胆な減税については、過去のレーガン政権時代に実行されたレーガノミックスの踏襲とみなせます。

   この皮算用が成功すれば、アメリカは万々歳です。

  3の保護主義政策が実行されると世界はどうなるか。アメリカ・ファーストを掲げているのですから、単純に考えればアメリカ経済だけはよくなり、世界はその分悪くなる。

  NHK特集でもグローバリゼーションを肯定する学者は、グローバリゼーションこそが資本主義経済の発展を支えていた。トランプ政策はグローバリゼーションの否定であり、世界を危機的な状況におとしいれる。つまりアメリカが保護主義を前面に打ち出せば、当然他国も報復措置をとり、世界経済を破滅させる。そうした貿易戦争が20世紀の世界大戦の原因になったということを強調していました。

  そのような極端なところにまで至らないとすると、アメリカの保護主義は短期的にはアメリカ経済を押し上げる方向に働きそうです。しかし将来は世界経済の停滞を通じ、アメリカにもマイナスの影響が及ぶに違いありません。

  と、ここまで、「トランプ政策が奏功しなくても、アメリカはびくともしない。奏功したらしたで、短期的にはアメリカにはプラスだ」と申し上げました。もちろんこれは非常に簡略化した見方ではありますが、全くお門違いの議論ではありません。

  ちなみにNHK特集では、グローバリゼーションを否定的にとらえている学者に将来の世界経済活性化策のシナリオがあったかと申しますと、こうすべきだというシナリオ提言は全くありませんでした。

 

  では、アメリカ国債への長期的投資をお考えのみなさんへ

・トランプは短命だと4年の任期中に終わりを迎える

・そうでなくとも最悪8年。

  米国債への長期投資にとっては、しょせん一場の雑音でしかないと思っていて間違いないのです。もちろんその裏には、グローバリゼーションこそが世界経済を発展させることへの確信があるからです。

  では、格差問題はどうするのか。

  何度も申し上げますが、それはこれまで以上に格差解消の政策手段、累進税などを強めることで解決すべきであって、グローバリゼーションの否定からは何も生まれないことを理解すべきなのです。

 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

アメリカ経済 アップデート その2

2017年04月04日 | アメリカアップデート

  アメリカ経済の現状の続きです。前回は、経済指標のなかでも雇用が絶好調で、賃金上昇率も堅調なため、それがFRBによる利上げを後押ししたと指摘しました。そして経済の総合評価であるGDP成長率も16年の平均はおよそ2%と順調で、今年度も同程度が見込まれている。また、バブル崩壊の兆しをサブプライム・オートローンに見出そうとしている人もいるが、規模からみてたいしたことにならないと結論付けました。

  では他にリスクがあるとしたらどこなのかを見ていきましょう。

  経済に内在するリスクより、政治的、あるいは地政学上のリスクのほうがが大きいと私は見ています。経済に内在するリスクは、単なる景気循環の域を出ないとみておけば間違いないでしょう。09年からの景気拡大が8年にも及ぶため、そろそろ息切れしても当然です。

  昨日発表されたアメリカの製造業景況指数や自動車販売などの経済指標も、若干スローダウンの兆しを示していました。もっとも、たった1か月、あるいは1四半期の指標で景気の方向を判断するのは危険です。これまでも数年の間にいくどとなくそうした局面がありました。アメリカ国債への投資を考えている方にとって、景気のスローダウンなど深刻に考える必要はありません。金利低下からドルが安く買える、という程度の話ですので。

  一方、地政学上のリスクともいえるトランプ大統領の存在は、無視できません。

  週末のNHKスペシャルでは、「シリーズ・資本主義の未来、マネー・ワールド」で、トランプの保護主義的政策が歴史的にみてグローバル資本主義の未来を変えうるか、というテーマに取り組んでいました。

  これまでもこのシリーズは興味あるテーマを提供してくれていました。今回もご覧になった方がいらっしゃると思います。なにより私が興味深く見るポイントは、世界の経済学者や歴史学者の長期展望です。

  彼らの一貫した対立点はグローバリゼーション、是か非かです。是とする方はグローバリゼーションこそが今日の世界の繁栄を築いたという立場で今後もそれを支持し、非の方はそれが格差を生んだのだから、これ以上のグローバリゼーションは阻止すべきだ、あるいは資本主義に限界が来たという立場です。限界説の代表は今回も歴史学者のエマニュエル・トッドでした。

  今回はそこにトランプが保護主義という一石を投じようとしているため、いったい資本主義の将来はどうなるか。つまり新たなブレークスルーとなるのか、はたまた破たんへの端緒となるのかを経済学者などが論じていました。日本の経済学者3人のうち2人は、トランプ政策は矛盾だらけで破滅への道だとして批判的。1人は功を奏する可能性ありということで対立させていました。

トランプ政策を論じる場合、いつものことながらトランプ政策の反対者は矛盾を突いた論理的説明をしますが、賛同者は矛盾を突かれてもまともには返答できずに逃げます。今回も同様で、賛同者は理路整然とした説明はできませんでした。その図式はトランプ政権を周辺で支える人たちも同じで、説明に窮すると逃げの一手のため、議論がしっかりとは噛み合いません。

  ではトランプの経済政策がうまくいかない場合、いったアメリカ経済はどうなるのか、私の考えを述べていきます。

  結論はもちろん「全然問題なし」です。というよりも、理不尽極まりない保護主義政策など実行できない、というのが私の見方です。

  トランプが勝利して以来、株価は金融やエネルギー関連を中心に大きく上昇しました。その理由は彼の政策の重点が偏っているからです。

  金融株が上昇したのは、「規制緩和」を推し進めるから。エネルギー関連株が上昇したのはシェールなどへの規制緩和、プラス環境破壊政策を推進すると宣言しているからです。

  その反面、ハイテクのナスダック銘柄は出遅れました。彼が製造業にばかり力点を置き、ハイテクを支える海外からの人材受け入れを拒否する政策を打ち出したからです。

  ところが、このところの株価反落局面では、その巻き返しが起こっていて、アップルなどのハイテク銘柄が史上最高値を更新する中、金融やエネルギー関連株は反落しています。理由はもちろんトランプが最も声高に主張していた政策の実現がどんどん遠のいて、政権の力量に赤信号がともったからです。

  友人が「アメリカ議会を見ていると、3権分立が機能している」と言っていましたが、全くそのとおりで、いくら大統領と取り巻きが吠えても、議会を自由にはたぐれません。支持率も3割台と、すでにレームダック化に片足を突っ込んでいるのが現状でしょう。

  では何故彼の例えば保護主義など実現できないと言い切れるのか。

  保護主義のさえたるものは国境税など物価に直結する保護主義政策です。アメリカのスーパーに置いてあるものの7割が中国などからの輸入品です。よく引き合いに出されるウォールマートストアに限れば、中国などからの輸入品は販売品の8割に達します。それに30%や40%の関税をかけた場合、もろに物価が上昇し、低所得層を直撃します。いや中間所得層も直撃するはずです。

  アメリカは大統領選挙の2年後には中間選挙があり、そこで選挙民から見放されれば議員は落選します。選挙民は各議員がどの法律に賛成・反対したのか、一目でわかるようになっています。そのため議員にしてみればトランプ支持より選挙での勝利を優先します。ですのでトランプのオバマケアの代替案など、党や大統領に逆らって真っ向から反対するのです。日本の政党のように党議拘束などありません。

  保護主義的政策をいくら連発したところで、選挙民を窮乏化させることなど議員には絶対にできないのです。

つづく

コメント (3)
この記事をはてなブックマークに追加