2014年2月12日(水)7:00pm サントリーホール
クリストファー・ラウス 狂喜 13′
リンドベルイ ピアノ協奏曲第2番 12+5+11′
ピアノ、イェフィム・ブロンフマン
(encore)
ショパン エチュード op10-8 ヘ長調 3′
プロコフィエフ ピアノ・ソナタ第7番 3楽章 3′
チャイコフスキー 交響曲第5番
(encore)
チャイコフスキー 弦楽のためのセレナード
ハ長調 op.49から「ワルツ」
アラン・ギルバート 指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
●
久しぶりに聴くニューヨーク・フィルだ、と意気込んで行きました。ガラガラでした。
客席の埋まり度6割程度。P席はだいたい埋まっておりましたが、1階の右左はガラガラ、2階はそよ風が吹いていました。
原因はわかりませんが、チケット価格は外来の一流どころはだいたい相場があり違和感のないもの。今回のガラガラ原因は別のところにあると思います。
来日が前回からだいぶ飛んでしまっている。旬の指揮者でなくネームバリューで集客できそうもない。プログラムが悪い。
前回の来日は5年前、でもみんなこのオーケストラに対し特にのどが渇いているわけではない。また、指揮者に対しては絶好調男がついに来日、といった雰囲気がまるでない。日本では存在感が希薄で人気がいまいち。日本人とのハーフなのに、とは思えないぐらい。
それと、今回のプログラムは良くない。東京で2公演あって、うち一つはベートーヴェンの1番のシンフォニーの後に間髪入れずパリアメをやるというもので、このようなバッドな構成のプログラムは聴きたいと思わず、東京、横浜それぞれ1公演ずつ聴いた。
ベト1が素晴らしい演奏で感動したとしてもそれをいきなりパリアメに気持ちを素直にぶつけることができるほど、自分はキャパのある人間ではない。
それやこれやで、この日も前半がラウス、リンドベルイとうことで日本では普通の聴衆的にはほぼ知らない作曲家で来日公演の選択曲としては厳しい。後半のチャイ5は逆にみんな聴きすぎていて、何かほかの曲をやってくれればよかったのに、という話で、日本(東京近辺)の音楽シーンをまるで理解していない、としか思えないプログラム。いくら昔何シーズンも定期を地元で聴いていたコアなファンであっても首をかしげるものだったのです。
もう一つ書いておくと、
自国のシーズン真っ盛りにツアーで来てもらえるのはうれしいのですが、11月のような疾風怒濤の来日の嵐の中ではないため、逆に過熱感無し、呼び水的なところも無く、ポツンと2月、みたいな感じ。みんな煽られてコンサートへ行きまくるといった感じもない。
ということで失敗企画だと思うのですが、それでも6割入ってくれるのですから、プレイヤーは一生懸命やらなければならない。
私が昔見たプリンシパルも今だ、結構残っていて、彼らは問題なく頑張りとおせるはずです。フィリップ・マイヤーズ、ジュディス・レクレア、ジョゼフ・アレッシ、グレン・ディクテロウ(コンマス)、顔を見かけなかったがフィリップ・スミス。ほかにもちらほらおりました。思えば長い年月がたったものです。20~30年前の話ですからね。
ヨゼフ・ロビンソン、ジュリアス・ベイカー、ジーン・バックストレーサー、トーマス・ステイシー、スタンリー・ドラッカー、ローン・マンロー、ジョン・シェーファー、等々1980年代もそれなりに素晴らしかったのですよ。(ジェームズ・チェンバース、ウィリアム・バッキアーノの時代にはかなわなかったのかもしれませんけれど。)
●
ということで気を取り直して演奏会に臨みました。
女性奏者がかなり多くなりました。特にストリングに関しては、昨今の全日本吹奏楽コンクール並みの比率です。
全体に昔の拡散系の音がすこし内向きになりました。ブラスも法外に鳴らすことが無くなりバランスとしてはいい感じだと思いました。
ただ、客入りがこれだとノリが良くない、と思いますよ。やる気度、テンション、モチベーション、なかなか上がってこないでしょう。
前半は未知の曲2曲です。
1曲目のラウスの曲はタイトルからイメージするような狂喜乱舞といったところはありません。最後の盛り上がりのところ、弦の強烈なスピード感あふれるもので、透明感はやはりすごいものだとあらためて思います。
次のリンドベルイのピアノ協奏曲、やたらと複雑そうな割には聴きばえがしない。相応の輪郭は理解できるところではある。この曲を完全に理解していると思われるピアノのブロンフマン、昔に比べてすっかり太ってしまいましたが、強烈なテクニックと熱は変わらない。鍵盤をかきむしる両手はインストゥルメントを弾いているとは思えない。倒れた巨木の皮をこれでもかと剥いでいるような凄まじさ。リンドベルイを横において、これはちょっとした見ものでした。
さらにアンコール2曲目のプロコフィエフでは凄まじい鍵盤叩きもさることながら叩き終えた後の椅子の蹴散らし立ち上がり挨拶で椅子が後方にぶっ飛びました。なんだか、奇抜な映画から出てきた鬼気迫るヴィルティオーゾがここでアクションしたような妙なリアル感。圧倒的存在感。ちょっとしたどころではない、巨木なぎ倒しの演奏アクションだったのです。唖然、騒然、拍手喝采、ガラガラのホールがようやく熱を帯びてきた瞬間でもありました。
後半のチャイ5。
聴き飽きている曲ではあります。もうちょっと別の曲を聴きたいところですが、アンダンテのソロはフィリップ・マイヤーズということもあり、これはこれで聴きのがすわけにはいかない。ほとんどビブラートのない、体躯とは異なるやや細めの響きで、いまさらながら味わいとしてはいいものがあります。素晴らしい演奏でした。
トランペットにフィリップ・スミスがいないせいかどうかわかりませんが、ブラスセクションの爆発はそれほどでもなく、マゼールと来日した時ほど騒々しい感じはありませんでした。あとはおしなべてサブスクリプション的な雰囲気で進む演奏でした。
おわり