EXTONレーベルは高音質録音を貫いているため、昔の名演再発ものを何度も繰り返し聴くような聴き方はなじまない。
このレーベルのサウンドにおいては昨今の高度な録音技術レベルをわれら一般人が享受できるし、また最新の録音であるため演奏家も時流をあらわしている。
アルブレヒトは読響の常任指揮者として比較的早い時期にベト全を録音した。(1999-2000)
録音のために選んだ会社がよかった。おそらく以前のチェコ・フィルとのからみからか、CANYONから派生したEXTONは正解であった。
録音はCDでもなくSACDでもなくHDCDである。
HDCD高解像度記録再生システム 24bitレコーディング。
普通のCDプレイヤーでの再生である
ハイブリッド系のメディアではないが、収録場所がハイブリッドである。
サントリーホール、横浜みなとみらいホール、大田区民ホール・アプリコ。
サントリー、横浜は拍手があるのでライブ収録だと思われる。ホルンの少しばかりの裏返りもそのまま。
アプリコはセッション録音か。
録音日時場所の説明だけしかないので詳しいことがわからないが、いずれにしても混成のベト全のようだ。
また非常に落ち着きのある録音だ。
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第1番横浜
第2番サントリー
第3番サントリー
第4番アプリコ
第5番アプリコ
第6番横浜
第7番サントリー
第8番横浜
第9番アプリコ
エグモント序曲サントリー
フィデリオ序曲アプリコ
コリオラン序曲アプリコ
レオンーレ3番サントリー
プロメテウス序曲サントリー
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1枚目はエロイカから始まる。大業な鳴りでスタートするが、アルブレヒトの作りはこうではなかったのではないか、などと思いながらクリエートされていくサウンドが進むにつれ、だんだんとあっさりから軽いさわやかさまで様変わりしていく音楽が心地よい。それでもそのような気がしないのは読響のヘビーな音のせいだ。完全な正三角形というか、非常に腰のある重い、男集団のサウンドが日本の数あるオケのなかで異色のポジションを得ている。
重い音だが機動力がないということはない。そこがN響と違うといえば違う。
N響は根ざしているものが昔のドイツ風であり、リズムの取り方そのものがジンタ調に重いことがあるが、読響のサウンドはそれとは一線を画するものであると感じる。アルブレヒトの音楽解釈に合致している。本格的なベートーヴェンだ。
ただ、気持ちと技術が時間軸的ポイントでずれがあることがありシナジー効果をうまない個所が少しある。全奏のアタックが几帳面すぎアインザッツを気にするあまり、縦線がそろうのはいいが、音が軽くなり、オタマジャクシ四分音符でいうと四分の一ほど進んだところで全員の焦点が合えば、ズシーン、とくるのだが、どうも縦に注意が行き過ぎるあまり、音楽のノリが悪くなり、空回りしているように聴こえる瞬間がなくもない。とくに1,2番で感じる。総じて素晴らしい演奏ではあるが。
録音はどうかというと、場所がハイブリッドであるため曲により若干の違いがある。サントリーのものは切れ味がいま一つ鋭くなく、ドロン系だが、EMIのような最新スタジオ録音でもドロン系、といったあすこまでの極端さはない。但しEMIを思い出してしまうこと自体が、そうなのかもしれない。アプリコのサウンドは素晴らしい。眼前にせまる生々しいサウンド。
全体に落ち着きのあるケバケバしない録音で耳がつかれない。それでいて迫力あるサウンドが次から次とでてくる。
序曲もすごいものがあり、充実したまれにみる本格的な音楽表現にはうなる。
アルブレヒトは現場で見ながら聴くと少し線が細く感じることがあるが、録音では全くそのようなことがない。チェコ・フィルの演奏も同じだ。
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この6枚組¥7,900HDCDは聴きものだ。音で耳を洗いたいときこれを聴きましょう。
おわり
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