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不遇のまま生涯を終えた引き出し多彩なギター職人

2016-10-03 22:26:20 | 音盤ノート
Siouxsie and The Banshees "Juju" Polydor, 1981.

  ロック。1980年代初頭に英国で流行ったゴシック・ロックであり、おどろおどろしい雰囲気のある作品である。が、中年になって'Spellbound'のプロモビデオを見てみると、メンバーは森の中を元気に疾走しているし、踊るスージー・スーは可愛らしいしで、とても健康的だと感じてしまう。

  本作は不遇のギタリストJohn McGeochの渾身のギタープレイを聴くことのできる傑作なのだが、そこそこ認知はされているけれどもあまりリスナーが広がらないという不運な作品だろう。ジャンルがゴスでは聴くひとを選ぶ。しかし、本作でのMcGeochの演奏は、引き出しが多彩で飽きさせない。速くてシャープなコードストローク、幻惑的なアルペジオ、フランジャーを使った引きずるようなロングトーン、カウンターメロディ的な長めのギターリフ、ボーカルの隙間に鋭く切り込むフレーズ、ノイズで音の壁を作るようなプレイ。ギターソロ無しに、楽曲の印象を高めるための効果的なサポートに徹しており、ニューウェーブ系またはオルタナ・メタル系のギタリストに本作がよく参照されたといのもうなずける。

  しかしながら、McGeochは翌年にはバンシーズからは脱退してしまう。Wikipediaでは神経衰弱を理由とした脱退となっているが、そこに至るまでの事情もあったようで、もう出典を覚えていないが、このアルバムでの演奏が高い評価を得たために彼が尊大になり、バンドメンバーから嫌われるようになっしまった(「ツアー中彼だけに間違ったホテルを指示された」等)、というメンバーのインタビューを読んだ記憶がある。実際、次作の"A Kiss in the Dreamhouse"(Polydor, 1982)では本作ほどギターのスペースを与えられていない。その後、別のバンドを経て失速していた時代のPiLに参加し、さらにPiL解散後は音楽業界から身を引いて、看護師をして働いていたらしい。2004年に亡くなっている。

  そもそもMcGeochの名前もあまり知られておらず、長らく日本では読み方すら知られていなかった。マクガフまたはマッゴーなどと音楽誌で表記されていたが、現在はマッギオークと読むのが正しいらしい。Magazine、PiLとそれなりのバンドでキャリアを積んできたのに、リーダー・作曲家タイプでないとその他のメンバー扱いされてしまうということなのだろう。
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