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ジャケットを見て海賊盤だと誤解した

2009-01-10 00:22:30 | 音盤ノート
The Smiths "The Sound of The Smiths" Rhino, 2008.

 懐かしい。昨年末に発表された、僕が十代の頃に愛聴したロックバンドのベスト盤である。Manchester出身で1980年代の英国を代表するこのバンドのベスト盤はすでにいくつか発売されているが、いずれも僕は聴いていない。歳をとってしばらく興味を失っていたからだ。オリジナル・アルバムも実家に置いてきたままである。今になって再び興味が湧いたのは、現在の勤務先にイングランド北部工業都市出身の同僚がいたからだ(ちなみに彼はSheffield近郊の生まれで、このバンドのボーカルのMorrisseyと同い年だ)。

 このベスト盤には、シングル中心の一枚ものと、それにレアトラックを収めた盤を付した二枚組のものと二種類発売されている。リマスタリングされているとのことだが、比較の対象となるオリジナルアルバムが手元に無いのでどの程度音質が改善されているのか判断はできない。Disc 1の選曲は妥当だろう。だが、レアトラックを集めたはずのDisc 2は特に入手困難では“ない”曲が多く混じっていて不徹底だ。ただ、そのDisc 2に"The Queen is Dead"や"Stop Me"といった代表曲が含まれており盛り上がる。

 そのサウンドは、英国では"Jangly Guitar Pop"、日本で言えば「ネオアコ」にカテゴライズされる。サウンドだけでなく、「若いのに、貧乏でモテず仕事も無い」という状況を憂いとユーモアを交えて表現する歌詞も魅力だ。初めて聴く人は歌詞対訳付きの日本盤の方をおすすめする。元の英語の詞は読み取り困難ではないが、たまに慣れない単語がででくる──"belligerent ghouls"てすぐ分かる?

 歌詞がどんな感じが一例を挙げよう。今をときめくRadioheadがカバーした"The Headmaster Ritual"は、サウンドに集中すればギターのアルペジオが爽快なネオアコ曲で、鼻歌にもってこいという印象だ。だが、その詞は学校時代の悲惨な思い出をつづったもので、軍隊風の教育方針を持つ学校に通う主人公が、教師からひどい体罰を受けて──例えば「風邪をひいているので体育を休ませてください」とうそをついたらシャワー室に連れ込まれて蹴飛ばされるという具合だ──「人生をあきらめたい」「家に帰りたいよ~」と嘆く内容である。聴く方としては同情すべきか笑うべきか微妙なところだ。多くの曲で、こういった情けない嘆き節や恨み節が、爽やかなギターサウンドに乗せて唄われる。

 1980年代の英国の不景気な状況がこのような表現を生んだのだろう。このバンドの曲は、愛や希望についてポジティヴに語られることに、自分の状況に照らして欺瞞を感じるという(不幸な?あるいはひねくれた?)人に、アピールするところが多いと推測される。斜陽の時代に暮らす今こそ日本の若者が聴くときだろう──いや教師として学生にはすすめられないな、一応「くじけるな」「頑張れ」と言わなくては。

 最初、メンバーの写真をあしらったジャケットを持つこのアルバムを静岡の輸入盤店で見かけたとき「○ィスク○ニオンに置いてあるような海賊盤をここも扱うようになったのか?」と疑問に思った。これまで、The Smithsのシングル・アルバムともに、バンドのメンバーが憧れるポップスターの写真(つまり他人の写真)がジャケットになっていたからだ。一方、四人のメンバーフォトをあしらった作品はライブの海賊録音と相場が決まっていた。果たして、垢抜けない四人の姿をジャケットにしたこのアルバムはファン以外にアピールするのだろうか?
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