熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

秀山祭九月大歌舞伎・・・「ひらかな盛衰記 逆櫓 」「再桜遇清水」

2017年09月08日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   今回、歌舞伎座は、夜の部を鑑賞した。

   演目は、
   ひらかな盛衰記 逆櫓
   再桜遇清水

   「ひらかな盛衰記 逆櫓」は、旭将軍木曽義仲の重臣樋口次郎兼光が、義経を討つために、義経の御座船に乗ろうと、漁師権四郎の入り婿になって逆櫓の技術を身に着けたのだが、そこへ、腰元お筆がやってきて、巡礼先で権四郎が取り換えっ子になって育てている孫の槌松が、木曽義仲の遺児駒若丸であるから返してくれと言ってきたので、船頭松右衛門で通していた樋口が、自分の素性と義経追討の意思を明かす。と言う話。
   その後、義経の乗る船の船頭になる命令を受けていたので、逆櫓の指導を受けにやってきた同僚船頭たちに、既に素性がばれていたので、襲われ捕らわれるのだが、権四郎の機転と畠山重忠の恩情で、槌松(駒若丸)の命が救われたので、縄目にかかる。
   海上での「逆櫓」の練習と組み討ちでは、体の小さい子役を使っての「遠見」の演出が面白い。

   吉右衛門の初舞台が、この槌松だったと言うことだが、今回の舞台は、久方ぶりの上演だと言う。
   これ程、吉右衛門が大きく偉丈夫に輝く舞台も少ないと思うのだが、前後に変わって行く世話と時代の使い分けの素晴らしさも、特筆ものである。
   孫を身代わりに殺されて断腸悲痛の義父権四郎に、義理故に、駒若丸を死守して武士道の誠を貫かせて欲しいと血の滲むような懇願、この父子の人間としてのギリギリの命の交感が感動的である。

      女房およしが、もう少し若々しい雰囲気を醸し出して居れば、もっと良かったのにと思うのだが、相変わらず、老成したいぶし銀の様に光る歌六の権四郎、特に、お筆に理不尽な要求をされて苦悶し慟哭する祖父としての生き様が素晴らしい。
   特に目立たず奥ゆかしく、感情を押し殺して誠実にお筆を演じる雀右衛門は、素晴らしい秀山祭の貴重な女形。吉右衛門の従兄弟と言うだけの関係以上である。

   このブログでは、「逆櫓」は、2年前の芝翫の舞台と、玉男と勘十郎のそれぞれの文楽の舞台について書いているのだが、歌舞伎でも、結構見ているような気がしている。
   前場の「大津の宿」で、お筆とその父鎌田隼人が、山吹御前と駒若丸を連れて泊まっているところを賊に襲われて、丁度、そこに権四郎と槌松も同宿していて、取り換えっ子になると言う舞台も観ているので、よく覚えている。
   12月の国立小劇場での文楽では、「ひらかな盛衰記」が通しで上演されるので、楽しみである。

   この舞台のキャスティングは、次の通りだが、恐らく、最高の手堅い布陣であろう。
   左團次は適役だが、又五郎、金之助、松江などは、ちょい役と言った感じで惜しいくらいである。

   船頭松右衛門実は樋口次郎兼光 吉右衛門
   漁師権四郎 歌六
   お筆 雀右衛門
   船頭明神丸富蔵 又五郎
   同 灘吉九郎作 錦之助
   同 日吉丸又六 松江
   松右衛門女房およし 東蔵
   畠山重忠 左團次

   松貫四の名で書いた吉右衛門の作品「再桜遇清水」は、金丸座20周年記念に初演されたとかで、13年後の今日、歌舞伎座では初めての上演である。
   これまでは、主役の清水法師清玄/奴浪平または清水法師清玄を、吉右衛門が演じていたが、今回は、芸の継承であろうか、代わって、染五郎が演じている。
   ストーリーが、恋に落ちて煩悩を断ち切れずに、奈落の底に転落して行く高僧の悲惨な生き様をテーマとした歌舞伎なので、吉右衛門が演じるとどうなるのか分からないが、久米川で洗濯する若い女性の白い脛に見惚れて、神通力を失い、墜落した久米仙人とは違った深刻な物語でありながら、もっと、泥臭い若いエロチックな雰囲気の濃い世界なので、染五郎の方が、適役ではないかと思って観ていた。

   鎌倉の桜が満開の新清水観音を舞台に、源頼朝の厄除けのため、「薄縁の御剣」の奉納が行われ、その奉納役の千葉之助清玄が、北条時政の娘桜と恋仲。
   一方、荏柄平太胤長と言う男も、この桜姫に御執心なのだが、門前での逢引き中に、清玄が、桜姫からもらった誘いのラブレターを落として荏柄に取られて、二人は窮地に立つ。
   ところが、機転の利いた桜姫の腰元波路が、これレターは、清玄(きよはる)に当てられたものではなく、清水法師清玄(せいげん)に当てられたものだと言いつくろい、丁度、通りかかった僧清玄に、桜姫の思い人は清玄だと言い含めて納得させて、人目見て圧倒されていた手前もあって、人助けも修業の内とそれを認める。
   一方、こうなった以上生きていく甲斐がなくなったと悲観した桜姫が、清水の舞台から飛び降り自殺を図るが、気絶していたのを下にいた清玄が、口移しで水を飲ませて助け起こして、思い余ってものにしようとするところを、千葉之助清玄が助ける。
   逃げて行く桜姫からもぎ取った左袖を後生大事に曼陀羅の様に、破戒僧となって落ちぶれて、廃寺の様な寺にかけて、桜姫を思い、抱きたい抱かれたい成仏させてほしいとのたうつ悲惨さで、天国を見せるとだまして参寺者を殺害して金を奪うなど、見かねた弟子たちも悲観して入水する。
   色々あって、追っ手から逃れようと、葛篭を背負った惣兵衛が、葛篭を一時預けて去ったので、この葛篭を開けてみると、中には恋しい桜姫が入っていた。清玄は、今度こそ思いを遂げようと桜姫に迫るのだが、奴磯平が駆けつけてきて、清玄を切り殺す。
   亡霊となった清玄が、無間地獄に落ちても抱くと桜姫を我が物にしようと襲い掛かるのだが、その時、千葉之助清玄が「薄縁の御剣」を手に現れて、御剣の霊験のおかげで、桜姫は危ういところで助けられる。
   舞台上手上段の洞穴から、邪鬼と化した清玄の亡霊が、二人を咆哮し威嚇して幕。

   この歌舞伎は、次の段の順に進行する。
   桜にまよふ破戒清玄
   新清水花見の場
   雪の下桂庵宿の場
   六浦庵室の場

   歌舞伎座のチラシには、「陥れられた僧の執念を描いた一幕」と銘打たれているのだが、陥れられたのではなく、恋の魔力に負けて邪恋に身を焦がして自ら地獄へと転落して行った破戒僧の壮絶な軌跡である。
   よく台詞を覚えていないのだが、一度で良いから抱きたい抱かれたいと極めて現代的なストレートな表現で、染五郎の清玄が、凡人と変わらずに煩悩にノタウツ新鮮さは、面白い。
   先にダンテの「神曲」を読んだが、同じ人間でも、ベアトリーチェへのダンテの思いと、随分違うものだなあ。と思って観ていた。

   キャスティングは、次の通りで、染五郎、雀右衛門、錦之助を軸にして、ベテランと若手の脇役が頑張って良い味を出していて面白い。
   魁春が良い味を出して好演していた。
   清水法師清玄/奴浪平 染五郎
   桜姫 雀右衛門
   奴磯平 歌昇
   奴灘平 種之助
   妙寿 米吉
   妙喜 児太郎
   大藤内成景 吉之丞
   石塚団兵衛 橘三郎
   按摩多門 宗之助
   荏柄平太胤長 桂三
   千葉之助清玄 錦之助
   山路 魁春

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