熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

世界の経済大国から落ちて行く日本・・・野口悠紀雄教授(1)

2007年02月01日 | 政治・経済・社会
   本日、「IT コンプライアンス サミット 2007」セミナーで、野口悠紀雄早大教授の「資本市場の動向から見た日本企業の課題」を聴講した。
   かなり、頻繁に色々な経済や経営関連講演を聴きに出かけているが、野口教授の講演は大前研一氏とともに、一番興味と関心を持って聴いている。

   まず、野口教授は、最新の経済学書「日本経済は本当に復活したのか 根拠なき楽観論を斬る」で論じている興味深い理論展開で、世界経済と日本の現状を説く。
   IT革命によって情報通信コストがゼロに近づき、共産主義体制が崩壊し膨大な新規労働人口が参入したために要素価格均等化定理が働いて労働コストが異常に下落するなどしてグローバル経済環境が大きく変わったにも拘らず、日本はこの21世紀型のグローバリゼーションに対応出来ずに、国際的な経済的地位を大きく下げている。
   80年代後半から90年代初には、日本の一人当たりGDPはダントツであったが、今日では、北欧を筆頭にイギリスにまで抜かれてヨーロッパの中位程度に落ちてしまっている。
   IT革命の恩恵を享受している典型はアイルランドなど小国だが、アメリカ産業のアウトソーシングを受けて急速な経済発展を遂げており、ルクセンブルグなどは金融業だけで日本の一人当たりGDPの2倍を達成しており、80年代には慢性的不況でイギリス病と揶揄され日本の一人当たりGDPの半分であった英国が日本を抜いたのは、シティを中心とした金融業で復活し今や成長を謳歌するまでに至っている。

   これとは対照的に、IT革命によるグローバル化に乗れない20世紀型の産業国家ドイツも日本と同じ道を辿っている。
   問題は、日本の経済の現状を見れば良く、企業の業績が良くなって来ているにも拘わらず、中国と同じことをしているので、日本の労働者の賃金は中国の賃金水準に引っ張られて上がらず、分配率が低いままで益々格差が拡大して行く。
   これと同じ問題は、アメリカでも生じており、インド人IT技術者並の収入しか得られないので、スタンフォード大学のコンピューターサイエンスには学生が行かないようである。
   この日本の経済の閉塞感を解消する為には、中国が出来ない産業、例えば、金融や高度な医療福祉等やIT関連ソフト等を行って、要素価格均等化法則による賃金低下の連鎖を断ち切り、北欧のIT先進国並の産業構造の変革を行う以外に道はない、と仰る。
   しかし、この提言を敷衍すれば、中国が日本に先行してインドのようにIT大国になり、急速に経済をサービス産業化・ソフト化して行けば、日本経済の明日はないと言うことでもある。
   既に、シンガポールが日本の先を走っていて、IT戦略を駆使して高度なサービス産業化に成功し、例えば世界の医療センターとして機能するなどグローバル経済の中で経済社会の高度な発展と革新に成功している。
   
   ところで、もう一つ野口教授が指摘したのは、日本の金融業及び金融の遅れである。
   アメリカは、海外投資の残高が多くて所得収支が大幅黒字であるが、日本は海外投資の残高も収益率も低く、経済貢献は少ないので、貿易立国から投資立国を目指すべきであろう。
   日本には本当の意味でのベンチュアーキャピタルが発達していないし、70年代以降のファイナンス理論の発展の成果(リスクの評価)など殆ど活用されずに未発達の状態に留まっている。
   日本の銀行は、バブルで、日本企業相手の貸し出しに量だけ拡大を続けて世界最大規模になっが、バブルの崩壊で壊滅的な打撃を受けて破産寸前まで行き、その結果再編成を強いられ復活したものの青息吐息なのが現状である。
   果たして、この日本の銀行が、リーディングインダストリーとして蘇るのかどうか、極めて重要な課題でもある。
   グローバル経済化の波に乗って急速な経済成長を謳歌している小さなIT立国とは違って、世界に冠たる金融業を通して復活した20世紀型の産業国家であり老大国であったイギリスを見て、日本は何を学ぶかであろう。

   証券市場の問題から内部統制の問題まで論じながら、果たして、日本の製造業の復権を目指す現在の産業立国政策が正しいのかどうか、そんな貴重な問題提起も野口教授はしていたが、次に譲りたい。
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