熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

環境・社会・人間における「安心・安全」・・・四大学連合文化講演会

2007年12月04日 | 政治・経済・社会
   東京のトップ専門大学である一橋大学、東京工業大学、東京医科歯科大学及び東京外国大学の4大学が連合して「第2回 四大学連合文化講演会」を一橋記念講堂で行ない聴講する機会を得た。
   四大学の付置研究所から一人づつ看板教授が演壇に立って「環境・社会・人間における「安全・安心」を探る―安全で安心の出来る社会― ~学術研究の最前線をやさしく解説する~」をテーマにして、各40分づつ語ったのだが、非常に格調の高い興味深い講演で、久しぶりに学問の息吹を感じて幸せであった。

   四大学間で、単位を互いに交換するなど連携を強化して、教育の幅を広げる努力をしているようだが、総合大学と違った試みで、非常にこのような学際的かつ横断的なトップ大学間のコラボレーションは素晴らしいことである。
   私が京大生の頃は、精々法学部と経済学部間の授業乗り入れ程度であったが、アメリカの場合は学部と言う意識も希薄で学際教育が一般的で、もう30年以上も前だが、ウォートン・スクールの時には、ペンシルバニア大学の全教科の受講が可能でありビックリしたことがある。

   最初の講演は、サイエンティフィック・アメリカンの世界のベスト50研究者の11位にランクされたと言う東工大原亨和教授の「持続可能な社会のための資源・エネルギー生産」であった。
   化学工業に不可欠な触媒であるエネルギー消費の激しい硫酸の変わりに、極限までエネルギー負荷をかけない地球に優しい触媒プロトニック・ソリッドを創生し、これを使って、セルロースから、太陽エネルギーの変換による究極の液体クリーンエネルギーであるバイオフェーエルを作り出すという壮大な話であった。
   トウモロコシ生産者である義父から、食料からエタノールなどを作るのはけしからんと勘当されそうで金輪際トウモロコシは使えないので、食料とバッティングしないセルロースを使ってバイオフェーエルを作っているのだと観衆を笑わせていたが、とにかく、凄い業績である。
   更に、人類の文明・産業を維持するためには大面積をカバーできる光触媒、太陽電池が必要だが、カーボンから太陽電池を生み出すのにも成功したと言う。
   久しぶりに見た六角形のベンゼン核や化学記号、それに、全く聞いたこともない専門用語が混じる話なので、いくらやさしくと言っても固くなってしまった頭にはストレートに入ってこないが、可能な限り地球環境に与える負荷を低減して化学資源とエネルギーを生産することが必要不可欠だという原博士の情熱に感激して聴いていた。

   次は、一橋大渡辺努教授の「バーコードから見た物価安定社会」と言う講演だったが、この方は、私の専門でもあり、分かりが早い。
   最近、何故物価が上がらないのか、と言う説明で、物価改定頻度が上昇の傾向にあるが価格改定幅が小幅化していて、これがフィリップ曲線を平坦化しているとか、物価安定とは企業が価格の変更の必要性を感じない状況であり、最近の頻繁な価格改定による物価の安定は、真の「物価安定」ではなく経済厚生上望ましくないと言う考え方など面白いと思った。
   しかし、一橋大学物価研究センターは、数十億件の価格データを収集して、その変動の仕組みを解析する作業をしているのだと言うことだが、私の頭にある経済学からは遥かに遠い存在であり、細かいデータの説明に多少戸惑いを感じた。

   三番目は、東京医科歯科大小川佳宏教授の「脂肪組織とメタボリックシンドローム」で、これは、私にとっては他人事ではない深刻な問題なので、じっくりと聴講させてもらった。
   肥満が、メタボリックシンドロームの根源であるようだが、人類の歴史を一年とすると現在は、12月31日の23時56分51秒だと言うが、その大半は食糧危機の連続で、生きる為に備わった体内に栄養を保持する機能が、飽食の時代に逆に作用して問題を起こしている。肥満体質は、遺伝子異変と胎生期低栄養などの環境要因とによって起こるようで、小さく生んで大きく育てると言うのは嘘だと言う。
   肥満を避けるにはどうすれば良いかと聞かれるのだがと、「急速にダイエットすればリバウンドしてダメになるし、体脂肪を1月で2キロ減らす為には、14000Kcalなので一日に466Kcalの減で、ご飯で茶碗3杯分。気長にやるしか方法はない。」と聴衆を煙にまいていた。
   肥満防止に良いEPAを多く含んでいるのは魚だが、ヨーロッパで最近、豚に魚の遺伝子を組み込んだトランジェニック豚を開発したが、食べたら魚臭くなるかもしれないと嘘のような話を語っていたが、とにかく、世界中でメタボリックシンドロームとの戦いが熾烈を極めているようである。

   最後は、東京外大黒木英充教授の「『新たな戦争』の時代における人間の安全と安心~アジア・アフリカの視点から」。
   専門は、レバノン・シリアだと言うことで、9.11以降の『新しい戦争、すなわち、テロとの戦争』について、特に、アラブに焦点を絞って語った。
   アメリカのイスラエルよりのダブルスタンダードの対アラブ政策について語り、むしろ、アメリカの存在が、本来豊かであるべき筈のアラブ、中東の安全・安心を大きく阻害していると言う論点を前面に出していた。
   この考え方には、私自身、殆ど異存はなく、歴史的背景なども交えて可なり突っ込んだ論理構成であった。
   元々、アラビアもトルコもイスラムの国々は、異民族や異宗教の民族を自分たちの領域に取り込んでも支配するといった対し方ではなく、可なりの自由を認めた生活を許容してきており、キリスト教徒のユダヤ人迫害や異教徒への弾圧・迫害の方が、遥かに熾烈を極めていたのである。
   「受け入れ」「交わし」「分け合う」イスラム文化の特質が、今でも息づいていると言う。

   私としては、非常に感銘を受けた素晴らしい講演会であったと思っている。
   
      
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