熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

博士は一芸に秀で、多芸に通じる・・・ソニー中鉢良治社長

2007年09月12日 | 政治・経済・社会
   博士について、
   一芸に秀で、多芸に通じる
   テーマが変わった時に博士の真価が問われる
   ソニーの中鉢社長が、ご自分の体験を交えながら、イノベーション・ジャパン2007で、工学系の「博士」について興味深い話をした。

   もっとも演題が「イノベーション立国の実現に向けて」と言う基調講演で、イノベーション25に呼応した経団連のイノベーション戦略についての講演だが、ソニーのfelicaについて語るなど、後半のソニー関連の話や大学院の教育とのギャップなどの話の方が面白かった。
   felicaについては、1993年に準備室を設立してスタートしたが、初めて実現したのは1997年の香港のオクトパスカードで、suicaの実現は2001年、翌年にシンガポールで使われるようになった。今では全く当然のこととして重宝しているが、開発成就までには大変な苦労があったようで、イノベーションの「1、10、100」理論で説明していた。

   「1.10,100」とは、キー・テクノロジーの発見に要するエネルギーが1だとすると、商品生産への過程で必要なエネルギーはその10倍で、更に消費者に買って貰うためのマーケッティングには100倍ものエネルギーが必要だと言う理論である。
   発明・発見のシーズがいくら沢山生まれても、それを大量生産してヒット商品化してイノベーションが実現するのは千三つで、如何に難しいかと言うことだが、ソニーの場合には、オリジナルのオンリーワンの技術に拘りすぎるので尚更大変である。
   
   産学協働によるイノベーションがテーマであるから、東北大学岡村教授とのフェライトに関する共同開発の話から始まった。
   同じ東北大学博士課程の修了者・新入社員中鉢良治が配属されたのは、このフェライトの仙台工場であった。
   鉱山工学の専攻でありながら、毎日フェライトとの戦いで、8年間、孤軍奮闘、孤立無援で、人生何処か間違っているのではないかと苦悶しながら、少しもラクにならない生活の中で研究開発に励んで、メタルテープの開発に成功したと言う。

   このような経験が、冒頭に記した「一芸に秀で、・・・」と言う思いが生まれたのではないかと思う。山高ければ裾野広しと言うことであろうか。
   学生の頃、京大の法経教室で、湯川秀樹教授の「科学の分化と総合」と言う講演を聞いたが、あの時、湯川博士は、「いくら狭いテーマであってもそれを突き詰めて研究し追求して行くと全体像が見えてくる。それは、節穴に目を近づけて行けば行くほど、外の世界がはっきり見えてくるようなものである。」と語っていたのを思いだした。
   テーマが変わった時に真価が問われると言ったのは、鉱山工学が専門の畑違いが磁気テープ開発に成功したことを言うのであろうが、最近の博士課程を出た新入社員は、専門のことばかりに凝りかたっまって、その専門領域の仕事ばかりしたがって、役に立たないと言うことへの警告であるのかも知れない。

   ところで、大学の修士教育について、大学と企業との間にギャップがあることを話していた。
   最近、工学部修士課程の新入社員が多いが、企業側は、大卒よりそれ以上に訓練され教育された技術者の仕上げのエンジニアを期待しているのだが、大学では、博士課程の途中下車で研究者の入り口と言う位置づけで初歩的な教育しかしていない、と言うのである。
   アメリカの場合には、大学院のエンジニアリング・スクールは、MBAなどと同じで、プロの技術者を育成するプロフェッショナル・スクールだと聞いていたが、日本も、学者や高度な技術者を育成するための博士課程の大学院大学とプロフェッショナル育成のエンジニアリング・スクールを分ける必要があるのであろう。

   産学協働は非常に素晴らしいことだが、中鉢社長が言っていた様に、使命を明確化して、大学は基礎研究、企業は応用研究・開発・事業化の推進と言う線で、シーズとニーズを上手くマッチングさせることが大切であろうが、あまり、大学の植民地化の促進は望ましいことでもなかろう。
   企業も日本の大学教育だけに期待するのではなく、従業員の国際化にはグローバル企業としての自由度が高いのであるから、もっとグローバル・ベースでの人財とイノベーションのシーズを求めて世界戦略を打つべきであろうと思う。
   
   この大学見本市シンポジウム主催者のJSTとNEDOは、最近、技術立国を目指した産学協働に非常に積極的に貢献しているが、イノベーション・ジャパンについては、アメリカのように軍隊がないから、壮大な国立科学技術研究所を設立して、戦略的な基礎研究を積極的にやるべきだと思う。
   
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 世界からみた現在の日本・・... | トップ | イスラエル・ロビーが米国を... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

政治・経済・社会」カテゴリの最新記事