熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ヌリエル・ルービニ:大いなる安定から大スタグフレーションへ

2022年08月15日 | 政治・経済・社会
   ルービニ教授が、プロジェクト・シンジケートに「From Great Moderation to Great Stagflation By Nouriel Roubini」を掲載した。
   「大いなる安定から大スタグフレーションへ」
   世界経済は、何十年にも亘って経済が安定していたグレート・モデレーション(大いなる安定)が終って、急激なレジームシフトを経験している。と言うのである。
   簡にして要を得ているので、今回は、紹介に留めたい。

   1970年代から1980年代初期にかけて吹き荒れた、インフレと酷い経済不況が複合したスタグフレーションの時代を経て、1980年代半ばから、グレイト・モデレーションが到来した。先進国経済は、低いインフレ基調で、小規模の不況を伴ったものの比較的安定した成長を続け、債権利回りも好転し、米国や世界の株式などのリスク資産の価値の急激な上昇を遂げた。
   この長期にわたる低インフレは、中央銀行が信頼できるインフレ ターゲット政策に移行したこと、および政府が比較的保守的な財政政策を堅持したことによっており、また、需要側の政策よりも重要なのは、潜在成長率を高め、生産コストを削減し、インフレを抑制した多くのプラスの供給サイドの政策実現にもよる。
   冷戦後のハイパー グローバリゼーションの時代に、中国、ロシアその他の新興国経済が世界経済に統合され、低コストの商品、サービス、エネルギー、商品を世界経済に供給した。南半球から北半球への大規模な移住により、先進国では賃金が抑えられ、技術革新により多くの商品やサービスの生産コストが削減され、相対的な地政学的安定性により、投資リスクを心配することなく、生産を最もコストの低い場所に効率的に割り当てることが可能になった。
   しかし、2008 年の世界的な金融危機、そして 2020 年の Covid-19 による景気後退によって、グレート モデレーションに亀裂が入った。どちらの場合も、当初は需要ショックを考慮してインフレ率は低水準にとどまり、緩和的な金融政策、財政政策、信用政策がデフレの発生を防いでいたが、最近、需要サイド供給サイド共に齟齬を来して、急速にインフレ率が高騰し始めてきた。
   供給側では、ハイパーグローバリゼーションに対する反発が勢いを増し、ポピュリスト、排外主義者、保護主義者の政治家に好機をもたらした。収入と富の不平等に対する国民の怒りも高まっており、労働者と「置き去りにされた」人々を支援するためのより多くの政策がリンクして、これらの政策が、賃金価格インフレの危険なスパイラルを惹起している。
   さらに悪いことに、新たな保護主義 の台頭で、貿易と資本の移動が制限されて、政治的緊張の高まりで、リショアリング(および「フレンドショアリング」)のプロセスが促進されて、企業活動がグローバル市場から国内回帰してきた。
   移民に対する政治的抵抗は、人々の世界的な移動を抑制し、賃金にさらなる上昇圧力を加えている。 国家安全保障および戦略的考慮によって、テクノロジー、データ、および情報の流れがさらに制限され、新しい労働基準と環境基準は、貿易と新しい建設の両方を妨げている。
   この世界経済の分断化は深刻なスタグフレーション要因であり、また、先進国のみならず、中国などの新興大国でも人口の高齢化が進行しており、 高齢者は貯蓄を消費するのに対し、若者は生産して貯蓄する傾向があるため、この傾向もスタグフレーションを促進する。
   同じことが今日の地政学的混乱にも当てはまり、ウクライナでのロシアの戦争とそれに対する西側諸国の対応は、エネルギー、食料、肥料、工業用金属、およびその他の商品の貿易を混乱させている。
   中国からの西洋のデカップリングは、貿易のあらゆる側面(商品、サービス、資本、労働、技術、データ、情報)で加速しており、西側の他の戦略的ライバルも、更に大混乱を招く可能性がある。
   イランが核兵器の限界を超えると、イスラエルや米国による軍事攻撃を引き起こし、大規模なオイル ショックを引き起こす可能性があり、北は、定期的に核兵器を振り回している。
   米ドルが、戦略的および国家安全保障の目的で完全に武器化された今日、主要な世界準備通貨としての地位が低下し始めており、このドル安がインフレ圧力となる。摩擦のない世界貿易システムには、摩擦のない金融システムが必要であるが、全面的な一次および二次制裁により、この十分に油を注がれた機械に砂が投げ込まれ、取引の取引コストが大幅に増加している。
   それに加えて、気候変動もスタグフレーション要因である。干ばつ、熱波、ハリケーン、およびその他の災害は、ますます経済活動を混乱させ、収穫を脅かし、食料価格を押し上げている。同時に、脱炭素化への要求は、再生可能エネルギーが、ギャップを埋めることができるポイントに達し得なかったので、化石燃料容量への投資不足であったために、今日のエネルギー価格の大幅な上昇は避けられなかった。
   パンデミックも持続的な脅威であり、各国が食料、医薬品、その他の必需品の重要な供給を急いで買いだめするため、保護主義的な政策がさらに勢いを増す。Covid-19の2年半後、今サル痘に直面している。また、壊れやすい生態系への人間の侵入とシベリアの永久凍土の融解によって、数千年にわたって閉じ込められてきた危険なウイルスやバクテリアを呼び起こして、またすぐに、対処しなければならなくなるかも知れない。
   最後に、サイバー戦争は、依然として経済活動や公共の安全に対する脅威として過小評価されている。企業や政府は、スタグフレーションによる生産の混乱に直面するか、サイバーセキュリティに大金を費やす必要があるか、いずれにせよ、コストは上昇する。
   需要側では、ゆるくて型にはまらない金融、財政、信用政策が、バグではなく、新しい体制の特徴となっている。
   今日の急増する民間および公的債務 と社会保障および医療制度の巨額の資金不足負債の間で、民間部門と公的部門の両方が増大する金融リスクに直面している。したがって、中央銀行は「債務のわな」に閉じ込められていて、金融政策を正常化しようとすると、債務返済の負担が急増し、大規模な倒産、金融危機の連鎖、実体経済への影響につながる。
   政府が歳出を減らしたり歳入を増やしたりしても多額の債務や赤字を削減できないため、自国通貨で借り入れできる政府はますます「インフレ税」、固定金利で長期的な名目負債を一掃するために予期せぬ価格上昇に頼ることになる。
   したがって、1970 年代のように、持続的かつ繰り返されるマイナスの供給ショックが、緩やかな金融、財政、および信用政策と組み合わさって、スタグフレーションを引き起こすであろう。さらに、高い債務比率は、スタグフレーション的な債務危機の条件を作り出す。大スタグフレーションの間、伝統的な資産ポートフォリオの構成要素である長期債と米国および世界の株式の両方が打撃を受け、巨額の損失を被る可能性がある。

   以上、ルービニ教授は、間違いなしにグローバル経済が「グレート・スタグフレーション」に突入するという論調だが、そうなれば、失われた30年をどうしようもない日本の経済は、立ち上がれなくなる。
   日本経済の起死回生になり得ないような内容不明の「新しい経済」を標榜して、国葬などと言った無意味なお祭り騒ぎに入れ込む能天気な岸田自民党に、3年も選挙なしの国政を託して良いのか、それが、疑問である。
.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする