英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

舟を編む ~私、辞書作ります~ 第一話……「なんて」と「右」

2024-03-20 15:02:08 | ドラマ・映画
ドラマ冒頭、夜明け前の岸壁、若い女性が走り寄り……
「嘆息・歎息」「涕泣」「嗚咽」「慟哭」
 これらは、その女性の行為を順に現した言葉だ。
 しかも、感情を添えて説明・表現している。

 夜明け前の暗い場景の中、悲しみに沈みもがき、泣く……
 その情景に、その都度
お えつ【嗚咽】(名)
 声を詰まらせて泣くこと。

などの字幕が重ねられる。
 女性の悲しい気持ちに重なり……陰鬱。
 正直、《最悪だ…観るのやめようかな》と思った。



 日曜日に録画したスポーツ中継やドラマの再生を止めた時、時々、目にしたドラマ。
 すぐ次の再生を始めるまでの一分弱、《面白そうだな》とは思ったが、途中から観るのも中途半端。
 《NHKだから、そのうち、再放送があるだろう》と思っていたら、先日、まとめて再放送していた。
 取りあえず録画したが、放置。リアルタイムで録画した5話までがハードディスクに溜まった。ハードディスクの容量残が少なくなったので、第1話を観て、面白くなかったら消去するつもりだった。
 で、冒頭のシーン……


 思いとどまり、とにかく、1話見よう。………面白かった。

(ドラマの説明は、番組サイトにお任せします↓)
【番組サイトより引用】
誰もが一度は手にしたことのあるぶ厚い本、辞書。一見淡々と言葉が敷き詰められたように見える辞書の裏には、「作り手」の想像を絶する情熱と心血が注がれています。
「ヤバい」に無数の意味を持たせ、込み入った会話は簡略化。空気を読み、雰囲気で済ませてしまいがちな昨今。そんな時代だからこそ、言葉にこだわる辞書作りの魅力を通し、”言葉は誰かを傷つけるためではなく、誰かを守り、誰かとつながるためにある”という未来への希望を伝えたい。
原作の主人公・馬締ではなく、新入り社員・岸辺みどりの視点で描く、まったく新しい『舟を編む』。全10話で放送します。

【あらすじ】
大人気ファッション誌の編集部員・岸辺みどり。雑誌の廃刊が決まり、突如異動になった先は辞書編集部!そこは、ぼさぼさ頭で超がつくほどの生真面目上司・馬締光也を筆頭に、くせ者ぞろい。みどりは、彼らに翻弄されながらも、一冊の辞書を作るために十数年間に及ぶ時間と手間をかける根気と熱意に触発され、次第に自らも言葉の魅力を発見、辞書編さんの仕事にのめり込んでいく。辞書「大渡海」を完成させるまでの、辞書編集部員たちの奮闘物語。

【放送予定】2024年2月18日(日)スタート〈全10話〉毎週日曜よる10時~10時49分(NHK BSプレミアム4K・NHK BS)
【原作】三浦しをん 『舟を編む』
【脚本】蛭田直美(全話) 塩塚夢(第5話共同執筆)
【音楽】Face 2 fAKE
【演出】塚本連平 麻生学 安食大輔
【出演】池田エライザ 野田洋次郎 ほか
【制作統括】高明希(AX-ON) 訓覇圭(NHK)
【プロデューサー】岡宅真由美(アバンズゲート) 西紀州(AX-ON)




言葉にまつわる心に響く言葉が多かった。
たくさん述べたいが、とても大変なので端折ります…
「なんて」……ヒロイン・岸辺みどりがよく口にする言葉。無意識に使ってしまっていて、無自覚に人を傷つけていた
 (感嘆の気持ちを強調する”副詞”もあるが)
副助詞として――次に来る動作・内容を、軽視する気持ちを込めて例示する
副詞として―――軽視する気持ちを込めて、同格の関係で次の語を修飾する
副助詞として――無視または軽視する気持ちを込めて、事柄を例示する。

「ああ、ごめん。ご飯食べてる時間なんて、ないかも」(せっかく、同棲している恋人が作ってくれた朝食を前にして)
「ほんと助かる。朝から電話する余裕なんてないからさぁ」(人気料理店の予約をしてくれた友人に対して)
「言葉と説明が並んでいるだけですよね、辞書なんて」
「辞書なんて、どれも同じだと思っていたんです」
「あとにして、カメラなんて」
「また朝日………綺麗だけどさ…ごめん、て言うか……ありふれているっていうか……大事だと思うんだよね、被写体のインパクトって。結構みんな撮ってんじゃん、朝日なんてさ」(思い入れのある朝日をテーマで写真コンテストを勝負しようとする恋人に対して)

 単に言葉に無頓着なのだろうと思う。優しい面も多いし、強引なところもない。
 でも、言葉に無頓着というのは、人の気持ちを思いやらないことにつながる。

 彼がキレた場面などは、酷い。↓
「おれが馬鹿にされるのは“しょうがない”と思ってる。夢だけ語って、結果出せなくて…。けど、俺が撮りたいと思っているものまで、馬鹿にしなくても」
「待って、してないよ。してないって、馬鹿になんて」
「してるよ」
「いや、してないって。してたら、ウチにおいでよとか言わないし、家賃とか食費なんて出してないって」
「思ってるよ、マジで情けないって」
「言ってないじゃん、そんなこと。馬鹿になんて」
「してるよっ!……ごめん、コンビニ行ってくるね」


 辞書編集部に異動してきた岸辺みどりの歓迎会で、「“右を説明しろ”と言われたらどうする?と問われて、みどりは、お品書きの裏に「→」書いて、皆に見せた。
 一同、呆れたような顔になり、場はしらけた?……
みどりは、場を取りつくように、言い訳をしたが
「私、知らないんです。辞書のことなんて、何も…
 辞書なんて持ってないし、欲しいとも思ったことないし。
 馬締さん(編集長)に貰った辞書も、読んでないというか、正直、すいません、袋から出してもなくて…
 国語の成績もずっと悪かったし、ミラクルだったんです、玄武書房に入れたのも。入りたかったのも、別に本作りたいとかじゃなくて、ファッション誌に関わりたくて……
 だから、作りたいなんて思ったこともないです、辞書なんて」

バチン!(バイトの青年がキレてテーブルを叩く)
「いい加減にしろよ、この人たちの前で、辞書馬鹿にするんじゃんねえよ!」
「してない!」
「したじゃねえかっ!」
「馬鹿になんて…」

 恋人が怒って出ていった理由を考えなかったのだろうなあ。
 同じパターンをここまで繰り返して、ようやく、思い当たるみどり。

 バイト君が出ていき、契約社員のおばさん(ごめん)と社外編集員の初老の男性(ごめん)が彼をとりなしに追う。
 馬締氏と日本語学者・監修者の松本朋佑(柴田恭兵)が残る。
 後悔の念に沈むみどりに、松本が突然、
「げきおこ(激おこ)、ぷんぷんまる!」
「少し気持ちが軽くなりませんか?
 “天童君(バイト君)が怒った”と言うよりも、“天童君が、げきおこぷんぷんまる”と言う方が。
 もちろん、真摯に受け止めなければならない怒りはあります。真剣に怒ってくれた天童君には申し訳ないんですが…
 げきおこ…ゲキオコ、プンプンッマルッ!
 私大好きなんです、この言葉。この言葉がどれだけの人の心を軽くしてきたか…その健気さを想うと、涙すら出そうになります」
「わたし、馬鹿になんてしているつもり、ほんとになくて……
 でも、思われちゃうんです、なぜか、そう思わせちゃう何か、“悪い言葉”を使ってしまっているんだと思います、無意識に」

「不思議ですよね、言葉って。
 どんなに尽くしても、何一つ伝わらないこともあれば、たった一つの言葉で、千も万も伝えられることもある。
 全く意図していないことを言葉が勝手に伝えてしまうこともある。
 でも、この世に“悪い言葉”は存在しませんよ」(馬締氏)
「馬締さんの言う通りです。
 全ての言葉には、その言葉が生まれてきた理由があります。
 誰かが誰かに何かを伝えたくて、伝えたくて、必要に迫られて生れて来たんです。
 悪いのは言葉ではありません。選び方と使い方です。

 私思うんです、岸部さん。辞書は…言葉の海を渡る舟だと。
 人は辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。
 最もふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために。
 もし、辞書がなかったら、私たちはぼうわくとした大海原を前に、佇むほかないでしょう。
 だから………“大海を渡る”…それにふさわしい舟を編む。
 それが私たちの仕事です。

 岸部さん、あなたの柔軟さが私たちの舟を、より強くしてくれるでしょう」

「柔軟さ……いえ、そんな…私なんて全然…」(皆は、“右”の語釈を矢印で表現したみどりの柔軟さを感心した)
「“なんて”……気が向いたら、その言葉、“なんて”を辞書で引いてみてください。
 辞書はあなたを褒めもしませんが、決して責めたりもしません。安心して開いてみてください」

……で、辞書で引いてみて、自分の口癖の“なんて”の罪を悟るのだが、遅すぎ!
 それに、「なんて」を使わなくても、「辞書を欲しいと思ったこともない」云々は酷い!


「右」の語釈……辞書編集部に異動してきた岸辺みどりの歓迎会で、「“右を説明しろ”と言われたらどうする?と問われて
➀矢印「→」
②「“朝日を見ながら泣いた時、暖かい風に吹かれて、先に涙が乾く側の頬っぺた”……それが、“右”です……」(冒頭の慟哭のシーンは、歓迎会の夜、彼に別れを告げられ、彼の好きな朝日を観に行った時のモノだった)
「“なんて”……なんて素敵な“右”でしょう!」と返す馬締氏。

 辞書「大都会」の真意は……「大渡海」だった。
 
【参考?】
「やばい」(以下の表記は辞書での説明ではなく、登場人物が恋愛ドラマを観ての感想で使用した「やばい」の使用例)
➀意外性があって面白かった……「やばいよね、あのラスト」
②危険だ。怖い……「やばいよね、あんな人、隣に住んでいたら」
③素敵、かっこいい……「あそこで助けに来てくれるの、やばいよね」

 ちなみに、1985年版旺文社『国語辞典』には
《俗》危険だ。あぶない。

とだけ。

【第1話・あらすじ】
 岸辺みどり(池田エライザ)は、大手出版社・玄武書房のファッション誌編集者。仕事熱心だが、ある日突然、辞書編集部への異動を命じられ、知らない言葉にやたら食いつく上司・馬締光也(野田洋次郎)や日本語学者の松本先生(柴田恭兵)、社外編集の荒木(岩松了)らと共に、玄武書房初の中型辞書「大渡海」の編纂に関わることになる。
 慣れない辞書作りに戸惑うみどりには、同棲中の恋人・昇平(鈴木伸之)が唯一の癒やしだが…。
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2023年度NHK杯将棋トーナメント 準決勝 羽生善治九段-藤井NHK杯保持者 その2

2024-03-20 09:40:11 | 将棋

 前記事は、この図から、《▲3六飛は疑問手で最善手を指せば、先手羽生九段がやや有利だったのでは》と述べたところまでだった。
 で、その最善手というのは、▲6三桂。(感想戦で、藤井八冠もこの手を示しており、自信がなかった模様)

 この手に対し、①△6三同金と取る手が当然考えられる。
 △6三同金以下▲4三成桂△同金▲3一飛成△4一歩▲3二銀△5二銀▲2三角(変化図2-1)が想定される。

 上記手順の▲4三成桂△同金では△3八とと飛車を取りたいが、▲5二銀△6二玉▲6三銀成△同玉▲4一角で先手勝勢。(▲6三桂はこの▲5二銀を打つためだった)
 当たりが掛かっていた飛車が手順に成り込め、後手玉に迫っていて調子が良い。
 ただし、図の局面は意外に難しい。図より△4二金▲4三歩で後手が困っているようだが、△6二玉と身を翻され、予定通り▲4二歩成と金を取ると△同銀が龍当たりになり、▲1一龍に△5七歩成という変化が考えられる。それに、▲4三歩に対して△4二ではなく△3三金と角取りに逃げておく手もありそうだ。
 ①△6三同金の変化は、先手が良いとは思うが、簡単ではない。

 ▲6三桂に△同金が思わしくないなら②△6一玉と躱す手のはどうだろうか?
 △6一玉には、▲3二成桂が調子が良い。後手は△3八とと飛車を取りたいが、▲7一金△5二玉▲4一角で詰んでしまう。かと言って、▲3二成桂に△同銀と取るのは▲同飛成で先手勝勢。そこで、もう一手△7二玉と先逃げする手がしぶとい。飛車当たりになっているので、▲3三飛成(変化図2ー2)と成り込むが、やや不満な成り込み位置。

 図より△4四銀と逃げる手や、逃げずに△8七歩と攻め合う手がある。先手が良さそうだが、相当難解な形勢。

 結論めいたことを言わせていただくと(自信なし)……
 ▲6三桂と打てば、①△6三同金も②△6一玉も難解ながらも先手がやや良し。

 先手が気持ちよく攻める手順なので、先手ペースで先手が勝ちやすそうだが、気持ちよく攻めている割には難解なので、《おかしいなあ》と焦りが生じるかもしれない。たいていの場合、後手が間違えそうな将棋だが、相手が藤井八冠なので踏みとどまる。そのうち、こちら(先手)が間違えてしまうことも大いにあり得る。


 実戦は、▲6三桂とせず、▲3六飛と角取りに逃げ、△5九角成▲同銀と進み、ほぼ互角に。実は、△5九角成では△3七角成が正着で、後手が優勢だったらしい。
 ▲5九同銀以後、△3五歩▲同飛△3四歩(第6図)と進み、

 ▲3四同成桂△同銀▲同飛△3三銀と進む。
 上記手順中、▲3四同成桂では▲4三成桂が、また、△3三銀では△4三銀が正着だったらしい。
 3三に歩でなく銀を打ったのは、▲2四飛と回られる手を防ぐためだが、△4三銀でも飛車回りは防げている。歩を使わなかったので、飛車回りには△2三歩と打つ歩が残っている。銀の位置は3三より4三の方が良いということなのだろう(よく分からないが、3二の金が浮いているかいないかの違い)。
 ともかく、△3三銀に▲3六飛と引いた局面はほぼ互角。
 ただし、ここで最善手を指すのが藤井八冠。やはり、最善手の△8七歩(第7図)を着手。

 歩を打たれて…
《そうか、藤井八冠に攻めのターンが回ってしまったのか……気がつけば、後手陣には敵影(先手の駒や足掛かり)が消えてしまっている
 評価値は互角でも…………》

 そこで、後手陣に手を付けておこうと▲2一角……
 次に▲3二角成と金を取られると、一気に後手玉は危険になる。△4二金と躱すなら、▲8七角成と打った歩を払いつつ、馬を自陣に引き付けることができるのだが……藤井八冠は△8六飛。この手が厳し過ぎた。
 ▲8九歩と受けたが△7六桂の追撃され、▲9七銀と飛車当たりに受けても、かまわず△5七歩成とされ、▲8六銀に△5八と左で先手玉に必至が掛かってしまった。羽生九段、敗勢に

 ▲2一角では、▲7六銀が粘り強い手で、まだまだ熱戦が続いていただろう。また、“寄せてみろ”と強く▲8七同金とする手もあった。以下△5七歩成に▲7六角なら、藤井八冠ももう一汗かかねばならなかっただろう。

 
 羽生九段は▲8一飛と王手。合駒に金を使ってくれれば、先手玉の詰めろ(必至)が解けるが、藤井八冠は当然、△6一金と金を引いて受ける。その後も正確に受け続けた。
 △5二玉で、羽生九段、投了。 



 面白い将棋だったが、やはり、負けたのは残念。本音を言えば、面白い将棋でなくても、勝ってほしい。
 ▲2一角が残念だったが、敗因は別のところにあったと思う。
 ここ数年の傾向として、中盤までは“斬り合い辞せず”と、強く踏み込んでいくが、終盤に差し掛かると、妥協してしまうことが多い(本譜で言えば、▲6三桂を逃した“▲3六飛”、第6図の△3四歩に対する“▲同成桂”
 勝ちを求める貪欲さが薄くなってきているように思う。
 それともう一点。
 中盤戦までで将棋力が消耗・摩耗してしまう。“局面でのアンテナの感度”、「“大局観”(ここはこう指せないとおかしい)と、それを実現させる“読みの精度・深さ・意欲”……終盤戦になるころには、そういったものが摩耗してしまう。
そんな気がする。

 とは言え、NHK杯の決勝戦での解説は、非常に手が良く見え、読みも正確だった。
 そう、羽生九段はまだまだ強いのである

(「その3(追記)」に続く)
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