電脳筆写『 心超臨界 』

つぎの目標を設定したり新しい夢を描くのに
年を取りすぎていることなどけっしてない
( C・S・ルイス )

日本のソフトパワーが21世紀秩序の構築に貢献する――山内昌之さん

2008-02-19 | 04-歴史・文化・社会
【 このブログはメルマガ「こころは超臨界」の資料編として機能しています 】

【 やさしい経済学「21世紀と文明」全体アーカイブはこちら

[21世紀と文明――公共善と国際秩序]東京大学教授・山内昌之
  [1] 第二の百年戦争
  [2] 成長と暴力の世紀
  [3] 公共秩序と「徳」
  [4] 道理と「アドル」
  [5] 公共善への挑戦
  [6] 世論との対話
  [7] 密入国と年金問題
  [8] 「文明の連合」へ


「公共善と国際秩序」[8] 「文明の連合」へ
【「やさしい経済学」08.02.18日経新聞(朝刊)】

イランのハタミ前大統領の唱えた「文明の対話」は、イスラム世界によるパブリックディプロマシーの一環としても期待されたが竜頭蛇尾に終わった。その一因はイランに核開発やテロ拡散にかかわる疑惑があり、対話モードは隠れ蓑(みの)ではないかと憶測されたからにほかならない。しかし対話の精神は、日本も支持するように、公共善を求めるユネスコの活動に生かされている。

他方スペインとトルコを中心に、2006年2月に発足した西欧世界とアラブ・イスラム世界の「文明の同盟」は、国際緊張の緩和につながる試みであった。両国は三つの一神教を調和共存させた経験をもち、現にコルドヴァのメスキータとイスタンブールのアヤソフィヤは異文明と異宗教の共存を例証する歴史的建築物である。

今年1月の「文明の同盟」フォーラムには63カ国から350人の代表も参加したが、日本を含めてさほどのハイレベルではない。それでも、情報の誤伝達を避けるための「迅速対応メディア・メカニズム」や、大学や情報センターと協力した公平なメディア・リテラシーの構想を打ち出した。文明間の危機が生じた時に、各国の記者や番組制作者に「理性的な考え方」を提供する多文化・多宗教問題のグローバルな専門家の活用で緊張緩和をはかる狙いもある。

中東の若年失業者問題を解決する案にカタールが1億ドル拠出する一方、ハリウッドの力を借りて人種偏見や差別を否定する映画の制作企画ができたのは興味深い。イスラムへの偏見やテロリストの固定観念を広めてきたハリウッドの歴史に反省を迫る一機会となるだけでも意味はある。

日本は、地中海中心の「文明の同盟」と協力しつつも、それと並行して東アジア・太平洋での新たな対話機会づくりに主体的に乗り出せばよい。東アジア文明や「中国文明」の定義を虚心に議論している日中・日韓歴史共同研究の成果は、日中韓三国の新たな首脳鼎談(ていだん)の定期化や対話メカニズムを発足させる緩やかな「文明の連合」の基盤ともなりうる。

信頼醸成と未来志向で歴史を解釈する「文明の連合」を日米関係と東アジアを軸につくりながら、イスラムとヨーロッパの「文明の同盟」につなげる作業は、21世紀秩序の構築に対する日本のソフトパワーによる貢献ともなるだろう。

=おわり

【 これらの記事を発想の起点にしてメルマガを発行しています 】
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« マッチ箱ほどの小型水素貯蔵... | トップ | 「HD-DVD」規格の新世... »
最新の画像もっと見る

04-歴史・文化・社会」カテゴリの最新記事