電脳筆写『 心超臨界 』

神はどこにでも存在するというわけにはいかない
そこで母をつくられた
( ユダヤのことわざ )

自他や世界と関(かか)わる価値(徳)が衰弱した――黒住真さん

2008-02-07 | 04-歴史・文化・社会
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[21世紀と文明――公共善と国際秩序]東京大学教授・山内昌之
  [1] 第二の百年戦争
  [2] 成長と暴力の世紀
  [3] 公共秩序と「徳」
  [4] 道理と「アドル」
  [5] 公共善への挑戦
  [6] 世論との対話
  [7] 密入国と年金問題
  [8] 「文明の連合」へ


「公共善と国際秩序」[2] 成長と暴力の世紀
【「やさしい経済学」08.02.07日経新聞(朝刊)】

20世紀は、血なまぐさい状況の続く世紀だったにせよ、経済の実質ベースでは歴史でも未曾有の進歩が見られた。世界の一人当たり国内総生産(GDP)は、1500年から1870年の370年間ではわずかに50%だけ増えたのに、1870年から1998年の1世紀あまりの間には6.5倍にも膨張している。この二つの時期を年間の平均成長率で比較するなら、後者の期間では前者より13倍も増えたことになる(ファーガソン『憎悪の世紀』上)。

技術革新、知識の増大、生活・医療水準の向上のおかげで、20世紀の世界は歴史上でも最良の状態を迎えたのである。何よりも、栄養状態が改善され伝染病が抑えられたために、乳児の死亡率は驚くほど下がったのだ。日本人の平均寿命は、江戸時代から明治では40歳台から50歳台であったのに、2004年には男78.6年、女85.6年へと各段に伸びることになった。

生命力の伸長に反して、20世紀が中東欧、中東、東アジアなどで極端な暴力をはびこらせたのは何故であろうか。その理由としては三点が考えられるかもしれない。

(1)融和を維持していた民族の間で正常な社会関係が断絶し、複数の民族が混交しながら平和に生活していた地域でも、政治的に分離が進んだために対立感情が助長されたこと。(2)経済成長にばらつきがあり、物価や利率や雇用状態が急激かつ大幅に変化したせいで社会と経済の両面で緊張が高まったこと。(3)20世紀の初頭に世界を支配していたヨーロッパが「西欧の没落」で崩壊してアメリカ、ソビエト、ドイツ、そして日本などの新帝国が台頭したこと。

こうした状況は、そのまま21世紀につながる特徴と言ってもよいだろう。たとえば、英国の歴史家エリック・ホブズボームは20世紀を、19世紀の世俗的イデオロギーの遺物に毒された「宗教戦争の時代」と呼んでいるが、これは21世紀の社会現象にもあてはまる表現と言えるかもしれない。

他方ポール・ジョンソンは、20世紀の戦争の原因を道徳的相対主義が台頭した半面、「個人の責任があいまいになり、ユダヤ教・キリスト教的な価値観を否定した」点に求める。人びとの世界観で、公と私の交差する領域で公共善と個別利害をめぐる大きな変化が生じたのだ。これは黒住真の表現によれば、自他や世界と関(かか)わる価値(徳)の衰弱と言ってもよい。

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