映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

英国王給仕人に乾杯!

2009年01月28日 | 洋画(09年)
 「英国王給仕人に乾杯!」を日比谷のシャンテ・シネで見てきました。

 実際に見て始めて、この作品がチェコ映画であることを知りました。
 といって、決して地方の田舎の映画ではなく、途中、ヒトラーによるスデーテン地方併合の話とか、エチオピアのハイレ・セラシエ皇帝なども出てきて、全体が世界史の流れの中に位置づけられていますから、ストーリーもよく理解できるところです。

 全体としては、至極まじめな作品ながら(地方出身の青年が、ホテルなどの給仕人となって、大金を掴むと同時にクビになることを何度も繰り返した挙句、15年の懲役刑を食らってしまい、3ヶ月減刑されて出所したところで過去を振り返るというお話です)、笑いもありお色気もありで、期待以上の出来栄えです。

 それも、主演の俳優はブルガリア人、彼が愛する女性はドイツ人俳優(「白バラの祈り」に出演)、監督はチェコ人と、国際色豊かな映画となっています。

 なお、タイトルにある「英国給仕人」は、この映画の主役ではないところも面白いと思いました。
 さらに、誠につまらないことを申し上げますと、「私の幸運はいつも、不運とドンデン返しだった」というフレーズが字幕に2回ほど現れるのです(主人公の内心の言葉として)。ですが、「ドンデン返し」という語句の用法として何か違和感を感じてしまいます。おそらくは、「裏腹」とか「背中合わせ」だったら素直に受け取れるのではないかと思ったりしました。

誰も守ってくれない

2009年01月25日 | 邦画(09年)
 「誰も守ってくれない」を渋谷のシネ・フロントで見ました。

 これは、こちらのスケジュールに上映時間が上手く適合したことと、主演が佐藤浩市ということから、映画の内容については何も知らないままに足を運びました。

 佐藤浩市は、このところ「ザ・マジックアワー」や「秋深き」などを見ているうちになかなかいい俳優だなと思えてきて(それまではやや濃すぎる雰囲気が漂っていて、敬遠していましたが)、その彼が主演の作品ならば悪くはないはずと思ったわけです。

 実際に映画を見てみると、この映画は、犯罪者の家族〔この映画の場合は、犯罪者の妹・沙織(志田未来)〕をマスコミの攻撃から保護する刑事の役を佐藤浩市が演じます。
 ある意味で、「それでもボクはやっていない」と同じような社会派の作品と言えるかもしれません。犯罪者の家族であるというだけのことから、マスコミによって徹底的に糾弾されてしまう理不尽さを告発しているという意味合いですが。

 勿論、非常に手間隙かけて細部まで周到に作られた周防作品とは違って、かなりデフォルメされた部分があるのではないかと思えたり(前田有一氏が、「この映画のような展開になると、どうも現実との乖離が気になり没頭できない」と述べている点でしょう)、警察内部の事情も常識的な線で描き出されていたりと、おざなりの感じがヤヤ付きまとうとはいえ、佐藤浩市の演技は、既に48歳ですから味が出てきたというのでしょうか、なかなか良いなと思いました。

 なお、公開初日には(17日)、フジTVで、この映画に出演している佐藤浩市と松田龍平とが同じ刑事役で出演した「誰も守れない」というドラマが放映されたそうです。
 TVドラマは、映画が扱っている事件の4ヶ月前に起きた事件を描いているとのことながら、こうなると、映画とTVドラマの差など最早なくなってしまったのでは、映画を映画館で見る意味はどこら辺にあるのか、などと疑問にも思えてきてしまいます。

ノン子36歳(家事手伝い)

2009年01月18日 | 邦画(09年)
 銀座シネパトスに行って「ノン子36歳(家事手伝い)」を見てきました。

 銀座シネパトスの方は、銀座三越のスグ裏という絶好の場所に位置しながらも、予想通り、昔の場末の映画館の雰囲気が残っていて(席の作りは綺麗ながらも、トイレの臭いが籠っている感じ)、さらには前に一杯飲み屋が何件か連なっているのも懐かしい感じがします。
 とはいえ、映画の上映中、スグそばを走る地下鉄日比谷線の音がするのには参りました─騒音と言うほどではありませんが─(何しろ、地下一階に作られているので)。

 さて、映画の方ですが、何の予備知識もなく見たところ、タイトルから想像されるイメージとは異なって、なかなかシッカリと作られており、全体として随分と良い映画で、ベストテンの第1位になるくらいにまで凄いのかどうかは別として、一部で評価が高いのも肯けます。

 何より、物語の構造が、評論家に頼らずとも素人にもよくわかるように作られているのです。
 主人公のノン子は、東京での結婚生活を御破算にして故郷(秩父)に戻るのですが、実家は神社で、神主の父親が昔の家長然として高圧的なのです(それらは、伝統というか秩序そのものといえるでしょう)。
 ソレに対して主人公はイライラを募らせます(何もかも清算したい感じが漂っています)。
 丁度、神社のお祭りに店を出すためにやってきた年下の青年も、そのお祭りを取り仕切る地元のヤクザたちが作り上げた秩序に対していいしれぬ理不尽さを持ちます。
 そういった思いが積もり積もって祭りの日に爆発してしまうものの上手くいかず、二人はほうほうの体で一緒に逃げ出します。ですが、主人公は、一方で雄大な山の光景を見つつ、他方で煙草を買いに走る青年の姿を見て、何かがプッツンして、青年をそこに置いて実家に戻ってしまいます(注)。

 総じてみれば、いわゆる現在の「閉塞状況」を何とかぶち壊そうとするにもかかわらず失敗してしまい、ただそれで退却してしまうのではなく、またぶち当たろうとする様が描かれているのでは、といったところです(こうした感じは、左翼崩れの評論家が愛好するものではないでしょうか)。

 こうしたところから、「おくりびと」を見ると、確かに非常に珍しい題材を取扱っており、ストーリーもよくできていて見る者に鮮烈な印象を与えますが、でもやはり現状の社会秩序の中に納まる予定調和の世界なのではないのか、といった感じになるのかもしれません。

 主演の坂井真紀については、これまで「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」と「ビルと動物園」を見ましたが、中では一番充実した演技をしているのでは、と思いました(「実録・連合赤軍」でも大変頑張っていましたが、かなり背伸びしている感じがつきまといます)。
 年齢としては小泉今日子より若干若いものの(坂井38歳、小泉42歳)、この年齢辺りの女性を演じさせたら彼女を凌ぐのではないでしょうか。〔もう一人坂井真紀と同年齢の永作博美がいるのを忘れていました!彼女の演技は優れていると思いますが、その童顔でかなり得をしてると言えるかもしれません!〕。

 なお、評論家の渡まち子氏は、「親元で衣食住が足りた暮らしを送るノン子は甘えた人間にしか見え」ず、「ノン子がラストに一人でみせる笑顔は印象的だが、熊切作品常連の坂井真紀の大胆な脱ぎっぷりだけが見所と言わねばならないのがツラい」として35点しか与えていませんが、単なる印象だけで評価しているにすぎず、それでは評論家としては失格ではないかと思いました。

(注)最近読んだ伊坂幸太郎氏の『ゴールデンスランバー』には、主人公とつきあっていた女性が、遊んでいたゲーム機から「おまえ、小さくまとまるなよ」と言われて、唐突に主人公と別れてしまうというエピソードが出てきますが、なにかしらこの場面に通じるものがある、という気がしています。渡まち子氏は、青年の「キャラがもっと立っていれば面白くなったものを」と述べてますが、それではこの映画がブチ壊しになるのではと思いました。むしろ、粉川哲夫氏がこの青年を「夢といっても妙な夢をいだき、きわめてフツーのようでそうでもない」男だと規定する方に共感します。

マルセイユの決着(おとしまえ)

2009年01月14日 | 洋画(09年)
 フランス映画「マルセイユの決着(おとしまえ)」を渋谷のシアターNで見てきました。

 映画館のシアターNは、以前はユーロスペースがあったところに後釜に入った映画館で、随分と懐かしい感じがしました。

 さて、映画の方ですが、昔の映画の完全リメイク版とされています。といわれても、昔の映画(メルビル監督「ギャング」(1966))を知りませんから、ああそうですかといった感じながら、この映画が1960年代のフランスの雰囲気を忠実に再現しようとしていて、その点は大変面白いと思いました。

 ストーリーは、主人公が、手を下した金塊強奪に際して仲間を警察に売ったという汚名が着せられ、それを晴らすべくイロイロ動き回ったあげく、最後は撃ち殺されてしまいます。その間、自分を支えてくれた女性が生活に困らないように措置し、さらには、忠実な仲間をヤクザから抜け出させようと国外に逃亡させようともします。
 こうした傾向の映画はフィルム・ノワールといわれるようですが、むしろ日本のヤクザ映画でしょう。

 それにしても、主演がダニエル・オートゥイュなのには驚きました(題名だけで見ることを決め、他の知識なしに映画館に入りました)。このところ見たフランス映画で実によく登場する俳優です(「ぼくの大切なともだち」とか「画家と庭師とカンパーニュ」)。現代のジャン・ギャバンといった感じながら、決して美男子ではなく、むしろ渋く味のある演技がいいのではと思いました。

PARISパリ

2009年01月11日 | 洋画(09年)
 フランス映画「Parisパリ」を渋谷のル・シネマで見てきました。

 題名からして他愛のないものかもしれず、あいも変わらずまたエスプリが強調された映画かな、と危惧していたところ、実際は、相互に余り関係のないエピソードがいくつか描かれていて、それぞれのお話も例によって完結するわけではないものの、パリにおける一般人の生活とはこんなもの、といった感じが観客にもよく伝わってきます。

 主演は、著名な女優のジュリエット・ビノシュで、やはりこの人が出ると映画全体が引き締まるようです(最近では、ジュード・ロウと共演した「こわれゆく世界の中で」を見ました)。

 ただ、やはり、エッフェル塔とか、サクレ・クール寺院、パレ・ロワイヤルの公園など名所もさりげなく映し出されていて、ご当地映画的な側面もないことはありません。
 とはいえ、カメルーンからフランスへ不法入国しようとする青年なども描かれていたりして、現在のフランスが抱える問題も描かれています。

 全体として至極まじめで、いい映画を見たなと思いました。

「ネオ・トロピカリア」展

2009年01月05日 | 美術(09年)
 お正月休みに、東京都現代美術館(MOT)で開催されていた「ネオ・トロピカリア─ブラジルの創造力」展に行って来ました。

 滅多に日本で紹介されることのないブラジルの現代美術が数多く展示され、久しぶりに充実した時間を過ごすことができました。

 就中、今回の展覧会のタイトルにある「トロピカリア」という呼称を最初に使ったエリオ・オイチシカの作品がいくつも展示されています。
 会場での解説等によれば、オイチシカは、ブラジルでは「ファヴェーラ」と呼ばれる貧民窟で暮らし、そこから様々のインスピレーションを得たようです。今回作品として展示されている「パランゲラ」と呼ばれるケープを自分が身に纏ってリオ・デ・ジャネイロの美術館に乱入したこともあり、これは「町の中にファヴェーラを持ち込む」という彼の意図に基づく行為とされています。

 またこの展覧会には、日系人の作家5人の絵画作品も展示されていました。特に、日系1世のトミエ・オオタケ氏の作品は、抽象的な構図の中に類を見ない力強さを感じさせます。

 なお、この展覧会の開催に当たっては、ブラジル音楽も大いに寄与しているようです。同展のカタログの冒頭には音楽家のジルベルト・ジルのインタビューが掲載されていますし、そのジルと共にアルバム『トロピカリア』を制作した歌手のカエターノ・ヴェローゾが、オイチシカの作る「パンゲラ」を身に纏った写真も展示されていました(ちなみに、「パンゲラ」はサンバのダンサーが着る物として制作されています)。
 また、ブラジリアンポップス(MPB)のCDがいくつも壁際にセットされている作品がありました。入場者は、床に置かれたクッションを自由に移動しながら、ワイヤレスのヘッドフォンでこれらの音楽を聴くことができるのです。

(画像はエルネスト・ネトの作品「リヴァイアサン・トト」) 

ワールド・オブ・ライズ

2009年01月04日 | 洋画(09年)
 「ワールド・オブ・ライズ」を吉祥寺の映画館で見ました。

 この映画は、「ディパーテッド」や「ブラッド・ダイアモンド」で好演したL・ディカプリオが主演の映画だというところから興味がありました。

 似たような趣向の「グッド・シェパード」とは比較にならない出来ですが、ただエンターティンメントとしては最後まで飽きずに見させてしまう迫力があったのではと思いました。

 としても、平和な西欧都市で自爆テロを繰り返すテロリストを残虐な悪者とし、その指導者を捕らえようとするディカプリオらを善人とする図式は相変わらずです〔ただ、米国など西欧がわざわざ乗り出さずとも、ヨルダンのエージェントのように、中東の現地人が自分たちの方法でテロリストを排除できるのだ、ということを暗に示しているようなのは新しい点なのかもしれません〕。

 また、福本次郎氏が、ラッセル・クロウについて、「現地民の感情など省みず安全な場所から家族の面倒を見ながら命令だけを出すだけのメタボおやじ」と言うのは同感です。
 ですが、「写真と報告書でしか現状を見ない高官が世界の安全保障を左右してる様は、ブッシュ政権のイラク政策を皮肉っているのはよくわかるが、これほどの出番を与えるほど役柄ではない」との見解については、逆に「ブッシュ政権のイラク政策を皮肉」るためにこそ沢山の出番が与えられているのではないかとも思われるところです。

 それにしても、邦題が「ライズ」では、“lies”なのか“rise”なのか判然とせず、またそれを「嘘の世界」と訳したところで、この映画で言われている“嘘”は日常の使い方ではなく、むしろ“謀略”といったところではないのでしょうか?としたら、CIAなどのエージェントが絡むお話のすべては“謀略”でしょうから、ことさら意味のあるタイトルでもないように見えます。

 ところで、この映画では、CIAのラッセル・クロウ達がディカプリオ達の行動を監視カメラで見ながら指示を与えるシーンが何度か出てきます。実際にはこんなに解像度が高いとは思えないものの、あるいは無人偵察機といった器機を使えばアル程度は可能なのかもしれません。

 というのも、現在も続いているイスラエルによるガザ地区爆撃について「イスラエル軍は、動画共有サイトYouTubeに専用チャンネルを立ち上げ、パレスチナ自治区ガザ地区でイスラム原理主義組織ハマスに対して行っている空爆などの模様を撮影した動画を公開している」との報道があり、実際にそれを見てみると、おなじみの爆撃の光景の他に、テロリスト達がmotar shell(迫撃砲?)を発射させて動き回っている様子が映し出されているからです。ただし、こんなに解像度の高い映像をどのようにして撮影できたのか頗る疑問ですが(イスラエルが自分たちの行動の正しさをアピールするための専用チャネルでしょうから)。