![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/70/7f79c2c58634a930eb99aabec5ac6292.jpg)
『箱入り息子の恋』をテアトル新宿で見ました。
(1)予告編を見て面白そうなので見に行ってきたのですが、まずまずの出来栄えでした。
主人公は、市役所に勤務する35歳の青年・健太郎(星野源)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/36/9a6349934fb453592f733ef4bd108d27.jpg)
彼は、自分を不細工だと思い込み、また極度のあがり症で他人と上手くコミュニケーションできないことから、13年間記録課という同じ部署に万年ヒラでいて、9時-5時勤務、仕事が終わるとまっすぐに家に帰り、自分の部屋に引きこもってTVゲームに耽っています。
そんな彼ですが、ある雨の日、何を思ったのか雨宿りをしている若い女性に自分の傘をあげてしまいます。
そうしたところ、両親(平泉成と森山良子)がやっとのことでセットしたお見合いの席(注1)に登場したのが、その傘をあげた女性・奈穂子(夏帆)。
それで健太郎と奈穂子とはいい感じになるものの、奈穂子の父親(大杉漣)は強く反対します。というのも、奈穂子の視力が完全に失われているからで、余程の人物でないと娘をサポートできないと思い込んでおり、健太郎のような欠陥人間は対象にならないと、その席で言ってのけてしまいます。
サアこの後物語はどのように展開するでしょうか、……?
他愛ない話ながら、中心となる星野源と夏帆のコンビが実に初々しく、またそれを取り巻く俳優が大杉漣、平泉成、森山良子(注2)、黒木瞳など豪華メンバーで、それぞれ達者な演技を披露しますから、コメディータッチでもあり、随分と楽しく見ることが出来ました。
(2)全般的になかなか面白い作品であるとはいえ、やや問題かなと思える点もあるでしょう。
イ)まず、健太郎は、自分の部屋でカエル(注3)を飼育していますが、このカエルが本作では大事な働きをします。
すなわち、水槽の中に閉じ込められている野生のカエルというのが、健太郎が置かれている状況(“箱入り息子”!)を象徴していて、彼は市役所から戻るとこのカエルを見て無性に慰められるようです。
さらには、付き合い始めた奈穂子に何かモノマネをと求められると、彼はカエルの鳴き声で応じる始末。
ここら辺りはまあかまわないものの、後半になって、健太郎が奈穂子に再アタックする段になると(注4)、カエルも水槽から脱出しようと何度も水槽の壁面をよじ登ろうとします。
また、奈穂子のいる2階に向かって柱をよじ登り、カエルの鳴き声で奈穂子に気づいてもらおうとしたり、果ては2階から落ちて、ひっくり返ったカエルのようにノビてしまったりもします。
こうなると、あまりにもあからさまにカエルとの繋がりが描き出されてしまっているように思えるところです(注5)。
ロ)また本作は、「箱入り息子の恋」とされていて、健太郎の方だけに問題があるような感じに受け取られかねません。
確かに、両親が健太郎に接するやり方は、腫れ物にでも触るようにおっかなびっくりとした感じが否めないところで、もっと毅然と対応すべきではあるでしょう(注6)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/c7/ef107ee84baaf8980d6fa4add5f78166.jpg)
ハ)とはいえ、実のところは奈穂子にも問題が大ありなのではないでしょうか?
というのも、彼女の両親が、健太郎以上に彼女を“箱入り”状態で育ててきたように思われるからですが(注7)。
むろん、彼女の視力が完全に失われてしまっているために、そうせざるをえないところもあるでしょう。とはいえ、奈穂子が自分ですることといえば部屋でピアノを弾くくらい、その他のことはすべて両親(特に黒木瞳が扮する母親)がつきっきりで面倒を見ています(注8)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/88/4bc8414b0e83333d0a4502742f71953b.jpg)
そして、両親(特に父親)は、結婚してもその状態を継続できるような男性を娘の婿としての第一条件だと考えています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/18/34832b0053bd47c18645c6b5ebd844dd.jpg)
ですが、これでは奈穂子は両親の人形であり、その人格が否定されてしまうのではないでしょうか?やはり、親はもっと突き放して、彼女が一人でも生活できるように小さいうちから仕向けるべきではないでしょうか(注9)?
障害を抱えている上に、酷くわがままな人物が出来上がっていてもおかしくはないところ、幸い、そんな中でも奈穂子の心の純心さは壊れていなかったがために、うまく健太郎と結びつくことができましたが(注10)。
でも、これらの点は、本作全体がコメディータッチのラブストーリーになっていることもあり、まあそれほど異を立てるに及ばないのかなと思ってもいるところです。
(3)前田有一氏は、「この素晴らしいラブストーリーは、終盤に少々監督の遊び心が過ぎる欠点はあるものの、演出の的確さ、ツボを外さない笑いとそれに伴うキャラクターへの共感によって、かなり出来のいい「非モテ」向け恋愛ムービーとなっている」として75点を付けています。
(注1)これは、いわゆる「親の代理見合い」ということなのでしょうが、この記事などを見ると、上手くいかない場合が多いのではと思われるところです。
本作でも、健太郎は「僕は結婚なんかしない、相手がいるはずがない!」と言いますし、奈穂子の方も「どうしても行くかなくてはいけないの?」と酷く消極的ですから、雨傘の1件がなければとてもうまくいきっこなかったでしょう。
(注2)森山良子は、映画で初めて見ましたが(TVドラマには何本も出演しているようです)、なかなか達者な演技を披露しますので驚きました。
(注3)劇場用パンフレットに掲載の「Production note」によれば「イエアメガエル」〔ただし、Production noteでは「イエアマガエル」と記載されています。「アマガエル科」に分類されるので、その方が適切なような感じもしますが〕。
(注4)お見合い後、奈穂子の母親(黒木瞳)の手配により二人のお付き合いはなんとか上手く進行するものの、暫くすると父親(大杉漣)に見つかってしまい、結局は駄目になってしまいます。
(注5)象徴的表現は、そこはかとなく観客に感じさせるものとすべきで、象徴するものとされるものと繋がりが余りに明らかになると、むしろ観客の方は厭味を感じるのではないでしょうか。
(注6)健太郎は「箱入り息子」とされていますが、実のところは、毎日、社会人として市役所に勤務し、一定額の報酬を得ているのですから、文字通り「箱入り」息子といえるのか微妙なところです。
ただ、勤務時間が終わるとまっすぐに家に戻って自分の部屋に閉じこもってしまいますから、半分は「箱入り」状態なのかもしれません。でも、それも自分の意思でそうしているのであって、親の意思で閉じこもっているわけではありませんから、その点でも「“箱入り”息子」といえるかどうか微妙だと思われます(とはいえ、こんなことは百も承知で、「箱入り息子」というタイトルを付けたものと思いますが)。
なにはともあれ、両親は、こうした息子をいつまでもそばに置いておくべきではなく、これから先、一人でも生き抜けるような心構えを持てるように仕向けるべきではないでしょうか。
(注7)「めったに外へも出さないようにして、家庭の中で大事に育てられた娘」という意味である「“箱入り”娘」にピッタリなのは、むしろ奈穂子の方でしょう。
(注8)公園で健太郎と奈穂子がキスをする時も、車の中から母親が見守っている有様です(ただ、公園ですから誰が見ていてもおかしくはないものの。現にこのときは、健太郎と同じ課の女性が見つけてしまいました)。
(注9)この点は、『くちづけ』を見た時にも感じたことです。同作におけるマコについて、父親の「いっぽん」が何から何まで面倒を見てきたがために、「いっぽん」は自分の死後にマコが陥る境遇について酷く悲観的になってしまい、考えられないような悲劇を引き起こしてしまいます。
(注10)健太郎が病院のベッドで打った点字の手紙を奈穂子が笑いながら読むシーンがありますから、二人はきっとうまくゴールインすることでしょう!
★★★☆☆
象のロケット:箱入り息子の恋
(1)予告編を見て面白そうなので見に行ってきたのですが、まずまずの出来栄えでした。
主人公は、市役所に勤務する35歳の青年・健太郎(星野源)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/36/9a6349934fb453592f733ef4bd108d27.jpg)
彼は、自分を不細工だと思い込み、また極度のあがり症で他人と上手くコミュニケーションできないことから、13年間記録課という同じ部署に万年ヒラでいて、9時-5時勤務、仕事が終わるとまっすぐに家に帰り、自分の部屋に引きこもってTVゲームに耽っています。
そんな彼ですが、ある雨の日、何を思ったのか雨宿りをしている若い女性に自分の傘をあげてしまいます。
そうしたところ、両親(平泉成と森山良子)がやっとのことでセットしたお見合いの席(注1)に登場したのが、その傘をあげた女性・奈穂子(夏帆)。
それで健太郎と奈穂子とはいい感じになるものの、奈穂子の父親(大杉漣)は強く反対します。というのも、奈穂子の視力が完全に失われているからで、余程の人物でないと娘をサポートできないと思い込んでおり、健太郎のような欠陥人間は対象にならないと、その席で言ってのけてしまいます。
サアこの後物語はどのように展開するでしょうか、……?
他愛ない話ながら、中心となる星野源と夏帆のコンビが実に初々しく、またそれを取り巻く俳優が大杉漣、平泉成、森山良子(注2)、黒木瞳など豪華メンバーで、それぞれ達者な演技を披露しますから、コメディータッチでもあり、随分と楽しく見ることが出来ました。
(2)全般的になかなか面白い作品であるとはいえ、やや問題かなと思える点もあるでしょう。
イ)まず、健太郎は、自分の部屋でカエル(注3)を飼育していますが、このカエルが本作では大事な働きをします。
すなわち、水槽の中に閉じ込められている野生のカエルというのが、健太郎が置かれている状況(“箱入り息子”!)を象徴していて、彼は市役所から戻るとこのカエルを見て無性に慰められるようです。
さらには、付き合い始めた奈穂子に何かモノマネをと求められると、彼はカエルの鳴き声で応じる始末。
ここら辺りはまあかまわないものの、後半になって、健太郎が奈穂子に再アタックする段になると(注4)、カエルも水槽から脱出しようと何度も水槽の壁面をよじ登ろうとします。
また、奈穂子のいる2階に向かって柱をよじ登り、カエルの鳴き声で奈穂子に気づいてもらおうとしたり、果ては2階から落ちて、ひっくり返ったカエルのようにノビてしまったりもします。
こうなると、あまりにもあからさまにカエルとの繋がりが描き出されてしまっているように思えるところです(注5)。
ロ)また本作は、「箱入り息子の恋」とされていて、健太郎の方だけに問題があるような感じに受け取られかねません。
確かに、両親が健太郎に接するやり方は、腫れ物にでも触るようにおっかなびっくりとした感じが否めないところで、もっと毅然と対応すべきではあるでしょう(注6)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/c7/ef107ee84baaf8980d6fa4add5f78166.jpg)
ハ)とはいえ、実のところは奈穂子にも問題が大ありなのではないでしょうか?
というのも、彼女の両親が、健太郎以上に彼女を“箱入り”状態で育ててきたように思われるからですが(注7)。
むろん、彼女の視力が完全に失われてしまっているために、そうせざるをえないところもあるでしょう。とはいえ、奈穂子が自分ですることといえば部屋でピアノを弾くくらい、その他のことはすべて両親(特に黒木瞳が扮する母親)がつきっきりで面倒を見ています(注8)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/88/4bc8414b0e83333d0a4502742f71953b.jpg)
そして、両親(特に父親)は、結婚してもその状態を継続できるような男性を娘の婿としての第一条件だと考えています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/18/34832b0053bd47c18645c6b5ebd844dd.jpg)
ですが、これでは奈穂子は両親の人形であり、その人格が否定されてしまうのではないでしょうか?やはり、親はもっと突き放して、彼女が一人でも生活できるように小さいうちから仕向けるべきではないでしょうか(注9)?
障害を抱えている上に、酷くわがままな人物が出来上がっていてもおかしくはないところ、幸い、そんな中でも奈穂子の心の純心さは壊れていなかったがために、うまく健太郎と結びつくことができましたが(注10)。
でも、これらの点は、本作全体がコメディータッチのラブストーリーになっていることもあり、まあそれほど異を立てるに及ばないのかなと思ってもいるところです。
(3)前田有一氏は、「この素晴らしいラブストーリーは、終盤に少々監督の遊び心が過ぎる欠点はあるものの、演出の的確さ、ツボを外さない笑いとそれに伴うキャラクターへの共感によって、かなり出来のいい「非モテ」向け恋愛ムービーとなっている」として75点を付けています。
(注1)これは、いわゆる「親の代理見合い」ということなのでしょうが、この記事などを見ると、上手くいかない場合が多いのではと思われるところです。
本作でも、健太郎は「僕は結婚なんかしない、相手がいるはずがない!」と言いますし、奈穂子の方も「どうしても行くかなくてはいけないの?」と酷く消極的ですから、雨傘の1件がなければとてもうまくいきっこなかったでしょう。
(注2)森山良子は、映画で初めて見ましたが(TVドラマには何本も出演しているようです)、なかなか達者な演技を披露しますので驚きました。
(注3)劇場用パンフレットに掲載の「Production note」によれば「イエアメガエル」〔ただし、Production noteでは「イエアマガエル」と記載されています。「アマガエル科」に分類されるので、その方が適切なような感じもしますが〕。
(注4)お見合い後、奈穂子の母親(黒木瞳)の手配により二人のお付き合いはなんとか上手く進行するものの、暫くすると父親(大杉漣)に見つかってしまい、結局は駄目になってしまいます。
(注5)象徴的表現は、そこはかとなく観客に感じさせるものとすべきで、象徴するものとされるものと繋がりが余りに明らかになると、むしろ観客の方は厭味を感じるのではないでしょうか。
(注6)健太郎は「箱入り息子」とされていますが、実のところは、毎日、社会人として市役所に勤務し、一定額の報酬を得ているのですから、文字通り「箱入り」息子といえるのか微妙なところです。
ただ、勤務時間が終わるとまっすぐに家に戻って自分の部屋に閉じこもってしまいますから、半分は「箱入り」状態なのかもしれません。でも、それも自分の意思でそうしているのであって、親の意思で閉じこもっているわけではありませんから、その点でも「“箱入り”息子」といえるかどうか微妙だと思われます(とはいえ、こんなことは百も承知で、「箱入り息子」というタイトルを付けたものと思いますが)。
なにはともあれ、両親は、こうした息子をいつまでもそばに置いておくべきではなく、これから先、一人でも生き抜けるような心構えを持てるように仕向けるべきではないでしょうか。
(注7)「めったに外へも出さないようにして、家庭の中で大事に育てられた娘」という意味である「“箱入り”娘」にピッタリなのは、むしろ奈穂子の方でしょう。
(注8)公園で健太郎と奈穂子がキスをする時も、車の中から母親が見守っている有様です(ただ、公園ですから誰が見ていてもおかしくはないものの。現にこのときは、健太郎と同じ課の女性が見つけてしまいました)。
(注9)この点は、『くちづけ』を見た時にも感じたことです。同作におけるマコについて、父親の「いっぽん」が何から何まで面倒を見てきたがために、「いっぽん」は自分の死後にマコが陥る境遇について酷く悲観的になってしまい、考えられないような悲劇を引き起こしてしまいます。
(注10)健太郎が病院のベッドで打った点字の手紙を奈穂子が笑いながら読むシーンがありますから、二人はきっとうまくゴールインすることでしょう!
★★★☆☆
象のロケット:箱入り息子の恋
> 彼女の両親が、健太郎以上に彼女を“箱入り”状態で育ててきたように思われるからですが
うーんと、次の見たいなスパルタな父ちゃんがいいですかね。
「お父さん、いきなり呼び出して何?」
「奈穂子、エヴァンゲリオンに乗りなさい!」
「ええっ!」
でも、EVAが持つ「A.T.フィールド」というシールドは、両
親という防護壁と同じような機能を果たすのかもしれま
せんし(まさにEVAという“箱”に入るのでは!)、また
EVAのパイロットは「母親のいない14歳の子供」から
選抜されますから、奈穂子は搭乗できないのではない
でしょうか?
(EVAに関することはWikipediaによりました)
当方の拙い感想文にコメント&トラックバックありがとうございました。
こちらからもTB送信しますので、よろしくお願い致します。
ところで、クマネズミさんは吉牛の無料券もらいましたか?
公式サイトの「ニュース」を見ると、公開初日の来場者に「吉野家の牛丼が一杯無料になる特製コラボチケットを配布」とありましたが、見たのは初日ではありませんし、むろんそんなイベントがあったとも知りませんでした!