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最高の花婿

2016年05月17日 | 洋画(16年)
 『最高の花婿』を恵比寿ガーデンシネマで見てきました。

(1)フランスで大ヒットした作品というので映画館に行ってきました。

 本作(注1)の舞台は、フランス西部のロワール地方で暮らすヴェルヌイユ家。
 父クロードクリスチャン・クラヴィエ)と母マリーシャンタル・ロビー)の3人の娘の結婚式がシノン市役所で次々と執り行われます。
 それも、長女イザベルフレデリック・ベル)はアラブ人のラシッドメディ・サドゥアン)と、次女オディルジュリア・ピアトン)はユダヤ人のダヴィッドアリ・アビタン)と、三女セゴレーヌエミリー・カーン)は、中国人のシャオフレデリック・チョウ)と、という具合に、いずれも異民族の男と結婚したのです。
 ヴェルヌイユ夫妻は敬虔なカトリックで、娘達には、市役所ではなく親しいカトリック教会で結婚式を上げて欲しいと願っていました。
 それで、結婚式の際に撮影される集合写真では、皆が笑顔を作っているにもかかわらず、どれも渋い顔の夫妻が写っています。



 実は、ヴェルヌイユ夫妻には、もう一人、四女のロールエロディー・フォンタン)がいるのです。ただロールは、カトリックの白人と教会で結婚式を挙げて欲しいと両親が強く願っていることを知っているので、プロポーズしてくれたシャルルヌーム・ディアワラ)が、カトリックではあるもののコートジボアール出身の黒人であることから、言い出せずに困っています。

 さあ、物語はどのように展開するのでしょうか、………?

 本作は、4人の娘が皆異民族の男と結婚してしまうという家族のテンヤワンヤを描いたフランス・コメディです。人種や宗教とか生活習慣の違いをあてこすったりして騒動が持ち上がるものの、コメディですから最後はみんな仲良くなってメデタシメデタシという具合。まさに、異民族が入り乱れるフランスならではの作品でしょうが、全体として随分と図式的であり、また、そんな厳しい状況に置かれていない日本から言うのも気が引けるとはいえ、現実はそんなに甘くはないのでは、とも思えるところです。

(2)確かに、面白い場面はふんだんにあります。
 例えば、次女のオディルの息子の割礼式があるというので、皆がパリの家に集まりますが(注2)、「ユダヤ教の場合生まれてすぐに割礼を行うのに対し、イスラム教では6歳の時に行うが、どちらがいいのか」などといったことについて議論が沸騰します(注3)。
 そして、庭に埋めて欲しいとダヴィッドから手渡された孫の包皮を、父クロードがシノンの家の庭に埋めようとしたところ、包皮の入った箱を落として包皮が飛び出してしまいます。なんと、飼い犬がそれを食べてしまうのですが、クロードは、代わりに傍にあったハムを庭に埋めて、「約束は果たした」と呟きます。

 また、クリスマスにヴェルヌイユ夫妻は、3組の夫婦とロールをシノンの家に招待します。
 その際には、一方で、キリストは神の子ではなく預言者にすぎないなどといった議論がかしましく飛び交いますが、他方で、母マリーは、3人の婿のために、コーシャの認定を受けた七面鳥と、ハラルに処理された七面鳥、それに北京ダックを用意したりします。

 でも、あまりにも物語が作り物過ぎていて、もっぱらクマネズミのコメディ精神の欠如に拠るとはいえ、どうにも白けてしまうのです。
 なるほど、アラブ人、ユダヤ人、中国人、アフリカ人、それにフランス人が、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教などを引っさげて集まることになれば、地球上のかなりの部分を代表することとなり、それで彼らの間にユーモアを通じて友好の輪が築かれるのであれば、もしかしたら地球上に平和がもたらされるのかもしれません。
 しかしながら、こうしたコメディ映画を見ると、かえってこれは映画の上の話だけであって、現実はもっとずっと厳しいのではないかと、逆にクマネズミには思えてしまうのです。

 なお、本作は、ヴェルヌイユ家の4人の娘の主体的な判断が生かされていて(結婚相手はそれぞれ自分で決めています)、一見したところ、女性上位の映画のような感じを受けます。とはいえ、実のところは、「ヴェルヌイユ夫妻+4人の娘」対「4人の異人種の婿たち」という構図のようにも見えます。そして、4人の娘にはあまり個性があるようには見えず(注4)、反対に、食事会などでの4人の婿たちの威勢の良さを見ると、結局、フランスの白人たちは、外からやってきた異人種らの勢いの前にたじたじの有様だ、というようにも本作を受け取れるところです。



(3)渡まち子氏は、「コメディならではのエキセントリックな会話が飛び交い、あえて腫れ物に思い切り触れるのは、シリアスな社会問題だからこそ、ユーモアのセンスが必要ということなのだろう。ここに日本人の婿がいたら、はたして…?!とつい考えてしまうのは私だけではないはずだ」として60点をつけています。
 林瑞江氏は、「世界は人種や宗教の違いの前で硬直し、悲劇を生み続ける。だが大事なのは人種差別をも笑える精神の自由ではないか。どうか「フランス映画は退屈」という「先入観」は捨てて、映画館で大笑いしてほしい」と述べています。
 遠山清一氏は、「移民の多いフランス。多様な言語、宗教、文化、政治思考がぶつかり合いながらも“笑い”飛ばして、いつのまにか和していく展開はフランスらしいエスプリを愉しめる」と述べています。



(注1)監督・脚本は、フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
 原題は、『Qu’est-ce qu’on a fait au Bon Dieu ?』(直訳すると、「私たちがいったい神様に何をしたというの?(何も悪いことなんてしてないのに)」:英題は「SERIAL (BAD) WEDDINGS」)。邦題は、ヒットした『最強のふたり』にあやかったものでしょう。
 なお、フランス映画祭2015では「ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲」という邦題で上映されています(6月26日)。

(注2)食事会はシャオの家で行われ、母マリーが「この肉美味しいけど、固くて噛み切れない。何の肉なの?」と訊くと、シャオが「ダチョウ」と答えるので、目を白黒させます。

(注3)生後スグと6歳とではどちらが痛いのか、そもそも野蛮なことではないのか、などなどについて喧々諤々の議論となります。

(注4)ただし、三女のセゴレーヌは、大層変わった絵を描く画家として描かれていますが。と言っても、ストーリーの展開にそのことが生かされていないように思います。



★★☆☆☆☆



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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2016-09-11 22:17:27
お互いの差について、絶縁しなければならないほどの絶望みたいなケースが出てこないので、みんながジャレてるように見えてしまう、というのはあるのですが、まあ、可愛らしいコメディーだなと思って見ればいいや、という事でそういう見方しかしませんでした。
Unknown (クマネズミ)
2016-09-12 20:46:57
「ふじき78」さん、コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、あまり目くじらを立てずに、「可愛らしいコメディーだなと思って見ればいい」わけながら、本文の(3)で触れましたように、映画評論家諸氏が、「大事なのは人種差別をも笑える精神の自由ではないか」などと大仰に言い立てているのを見て、ちょっと反発してみたくなった次第です。

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