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WOOD JOB!(ウッジョブ)

2014年05月21日 | 邦画(14年)
 『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)本作(注1)は、『舟を編む』の原作者・三浦しをん氏が書いた小説(注2)に基づいた作品ということで映画館に行ってきました。

 映画の冒頭では、大学の入試に落ちた主人公の平野勇気染谷将太)が、ガールフレンドに「絶対同じ大学に受かるから待っててね」と言ったにもかかわらず、彼女から「距離を置こう」と言われたりして落ち込んだ時に、「緑の研修生」のポスター(そこにはすごい美人が写っています)を見て、次のシーンになると、勇気は、もう列車を乗り継いで無人駅(注3)に降り立ちます。
 出迎えの人は誰もいないし、携帯も圏外で、さらに戻ろうとしても次の列車まで6時間も間があるし、ということで困っていたところに、三重県林業組合の車が到着し、降りてきた組合専務(近藤芳正)が勇気を研修所に連れて行きます。
 研修のスケジュールは、1カ月の講義で資格を取り、その後に11カ月、地元の林業会社で実習(OJT)を受けるというもの。
 一度は脱走しようとした講義に続いて、勇気は神去村の中村林業で実習を受けることになりますが、そこには親方(光石研)とその妻(西田尚美)、従業員のヨキ伊藤英明)とその妻(優香)がいます。
 さらには、最初に勇気がポスターで見た美人の直紀(親方の妻の妹:長澤まさみ)も同じ村に住んでいるのです。



 さあ、勇気とこれらの人たち、さらには神去村の人たちとの関係はどうなるのでしょうか、………?

 本作は、都会者が田舎に居着くというご当地映画によく見られるストーリーであり(注4)、さらには、祭をクライマックスに持ってくるのもご当地物の定番ながら(注5)、田舎で暮らす者が実に生命力溢れる姿で描かれており、かつまた描かれる祭りもなかなかの迫力であり、全体としてまずまずの仕上がりではないかと思いました。ただ、もう少し女性の登場人物が活躍してもいいのでは、という気がしたところです。

 主演の染谷将太は、これまでに見られない性格の役柄をうまくこなし一層の活躍が期待されますし、その他の俳優陣も随分と頑張っています(注6)。



(2)本作でヨキらが手にするチェーンソーを見ると、まずホラー映画を思い付きますが(注7)、むろん、まじめに林業を描く本作にはそんな場面はありえず、登場人物は皆規則に従って慎重にチェーンソーを取り扱いながら木を切り倒したり枝をはらったりします。

 まじめに林業を描いている映画といえば、最近では『キツツキと雨』となるでしょう。
 なにしろ、山奥の村(注8)に住む木こりの克彦(役所広司)が主人公として登場し、そんなに長い時間ではありませんが、山における作業の現場が描き出されています。
 ただ、同作は、本作とは逆方向のベクトルを持つ作品といえるかもしれません。
 というのも、本作では、都会暮らしの主人公・勇気が田舎の森で働くことになるのですが、同作では、田舎に住む木こりの克彦が、都会の田辺幸一(小栗旬)の制作するゾンビ映画に出演するというストーリーなのですから。ごく簡略に図式化すれば、「本作:都会→田舎(林業)、同作:田舎(林業)→都会」ということにでもなるでしょうか。

 もう少し踏み込んでみると、本作は、あるいはイタリア映画『四つのいのち』と通じるところがあるように思います。
 同作では、本作が神去村を舞台とするように、南イタリアの田舎にある小さな村が舞台となっています。そして、樹齢100年の樅の大木が切り倒され、大勢の村人によって村に運ばれてお祭りに使われますが、そのお祭り(注9)は、諏訪大社の「御柱祭」を経由しながら(注10)、本作のクライマックスをなす祭(「大山祗さんの祭り」)にも通じるものを感じます。
 本作で描かれる祭りは、国内的にはいうまでもなく、また世界にも広がる通路なのかもしれません。



(3)渡まち子氏は、「林業という切り口は新しいが、映画の作りとしては極めてオーソドックスなこの映画、実に魅力的でにくめないのだ」として65点をつけています。
 前田有一氏は、「伊藤英明と、その妻役・優香の濃密すぎるキスシーンや、夜の営みなど下ネタギャグがいくつか飛び出てくる点だけ気を付ける必要があるが、子供たちにも見てほしい楽しい感動作」として70点をつけています。
 相木悟氏は、「生活に密接に関わっていながら預かり知らない林業の世界を、青春映画として勉強できる良作であった」と述べています。



(注1)監督・脚本は、『スウィングガールズ』や『ロボジー』などの矢口史靖
 出来ないと思われていたことを何とかやり遂げてしまうという点で、これらの作品と本作とは通じるところがあるのではと思いました(大雑把にいえば、『スウィングガールズ』では高校の吹奏楽部がジャズ演奏をすること、『ロボジー』では動くロボットを1週間で製作すること)。

(注2)原作は、三浦しをん著『神去なあなあ日常』(徳間文庫)。
 ちなみに、著書(そして本作も)のタイトルに、「ゆっくりのんびりいこう」という意味の神去村の方言「なあなあ」が使われているところ、「神去村」自体が架空のものですから、これも著者が作った言葉のようです(この記事で、三浦しをん氏は「この言葉は私が勝手に作ったものなんですよ。ゆっくり行こうとか、落ち着けとか、くよくよするなっていう感じですね。のんびり行こうっていうことです」と話しています。ただ、同じ記事において、矢口監督は「実は三重弁の翻訳は専門家に依頼したものではなく、地元美杉の皆さんにお願いをしました。実際に台本を録音してもらって、俳優の皆さんはそれを聞いてセリフを覚えていただいたんですよ」と話していますから、全体としては実際の三重弁なのでしょう)。
 NHK連続TV小説『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」と同じように、「なあなあ」が流行語になるのでしょうか(なお、NHK連続TV小説『花子とアン』では、甲州弁「こぴっと(しろし)」(“しっかりしなさいよ”“がんばれよ”の意味)を流行語にしたいようで、何回も登場人物が使っています!)?

(注3)映画では「上三津鉄道」の駅とされていますが、ロケ地の三重県旧美杉村(現在は津市美杉町)に走るのは名松(めいしょう)線。
 ただ、本作の公式サイト掲載の「Production Notes」によれば、同線が台風で不通になっていたために、実際には岐阜県の明知鉄道を使ったとのこと。 ちなみに、この鉄道は、本文の(2)で触れています『キツツキと雨』でも使われています。

(注4)典型的なご当地映画といえる『恋谷橋』では、東京に出てデザイン関係の会社に勤めていた朋子(上原多香子)が、母親(松田美由紀)の跡を継いで、鳥取県の三朝温泉にある老舗旅館の若女将となって頑張っていこうとしますし、また『津軽百年食堂』も、東京に出ていた陽一(オリラジ藤森)が、弘前にある大森食堂の跡を継ぐというお話です。
 まあ、本作は、その地に縁もゆかりもない都会育ちの主人公・勇気が田舎に居着くようになるという点で、親の跡を継ぐというこれらの作品とは違っているとはいえるでしょうが。

(注5)上記「注4」で触れた『恋谷橋』では「山陰KAMIあかりアートフェスティバル」、また『津軽百年食堂』では弘前さくらまつり。

(注6)最近では、染谷将太は『永遠の0』で見ましたし、長澤まさみは『モテキ』、伊藤英明は『アンダルシア』〔『悪の教典』のDVDでも←このエントリの(3)をご覧ください〕、光石研は『共喰い』、優香は『悪夢ちゃん』、近藤芳正は『許されざる者』で、それぞれ見ています。

(注7)このところクマネズミが見たものとしては、例えば『処刑山 デッド・スノウ』があります。
 なお、ホラー映画ではありませんが、『エッセンシャル・キリング』には、主人公が木こりなどを次々とチェーンソーで殺す場面がありました。

(注8)本作のロケ地が三重県旧美杉村であるのに対して、同作は岐阜県東濃地方と長野県南木曽町がロケ地。

(注9)『四つのいのち』の公式サイトに掲載されているミケランジェロ・フラマンティーノ監督のインタビュー記事によれば、映画で描かれている祭りは「ピタの祭り」と呼ばれるもので、「ランゴバルド人がこの地にいた頃から毎年、アレッサンドリア・デル・カレット村で開かれている伝統行事」とのこと。
 さらに、同監督の別のインタビュー記事によれば、同作が舞台としているカラブリア地方にはピタゴラスがいたと言われているようです。さらにまた、この記事を読んだりすると、「ピタの祭り」の“ピタ”とは“ピタゴラス”を指しているのではとも思えてきます。

(注10)このサイトの記事によれば、矢口史靖監督は、「今作でもクライマックスの祭りは諏訪大社の御柱祭を参考にした」と話しています。
 ただ、友人からの情報によれば、三重県の旧美杉村下ノ川には「仲山神社ごんぼ祭り」という男女根崇拝に拠る子孫繁栄・五穀豊穣を願う祭りがあるとのことで、友人は、映画で描かれているものはこれをモデルにしているのではないかと話しています。
 確かに、御柱祭では大木が急坂から落とされるだけであり(「下社の木落し」)、その部分は映画と類似するものの、祭事の最後は映画で描かれるようにはなりません。
 おそらく映画の祭事は、この仲山神社の「ごんぼ(牛蒡)祭り」と諏訪大社の「御柱祭」とを合わせて矢口監督が創り上げたものなのでしょう。




★★★☆☆☆



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4 コメント

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Unknown (ふじき78)
2014-06-28 10:16:39
> 本作でヨキらが手にするチェーンソーを見ると

そう言えば、犬神家の三種の神器は「斧(ヨキ)、琴、菊」だった。斧と電鋸を大雑把に同じものとするなら、ヨキがヨキを使ってるという訳だ。

伊藤英明のヨキはレザーフェイスと1対1で戦わせたら負けんと思う
Unknown (クマネズミ)
2014-06-29 05:51:29
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
作によれば、伊藤英明が扮するヨキは「与喜」ですが、祖母の繁ばあちゃんが「ヨキちゅう名前は、わてがつけたんや。『斧』ちゅう意味や」と言いますから、おっしゃるように斧=電鋸とすれば、「ヨキがヨキを使ってる」ことになります!
林業の啓蒙映画?現実逃避? (香菜子)
2016-08-20 15:11:23
香菜子と言います。映画としては楽しかったけど、林業や森林整備の現実を正しく伝えていないんじゃないかと感じました、傲慢高飛車で上から目線の意見かもしれませんけど。森林整備や林業の仕事ってそう簡単じゃないと思います、経済的にも 香菜子
Unknown (クマネズミ)
2016-08-20 17:54:57
「香菜子」さん、わざわざコメントをありがとうございます。
おっしゃるように、実際のところは、「森林整備や林業の仕事ってそう簡単じゃない」のかもしれません。
でも、ドキュメンタリーではなく娯楽映画として「森林整備や林業の仕事」をいろいろな人に楽しく知ってもらうには、このくらいでも十分なのではと思いますが。

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