記法で言えば、積分「∫」と和「Σ」の書き方は現在と同じです。
ところが、線形代数については現在と断絶があって、見た感じと扱いがかなり異なります。
ちょうど「数理科学」と呼ばれる一般向け科学解説雑誌の10月号の特集が線形代数で、これは数学からの立場の解説ようで、よくまとまっていますが、抜けも目立ちます。
数学者にとっては誰が何の目的で線形代数を現在の形式にまとめたかはあまり関心が無いらしく、この20世紀の前半と後半を分ける一大事が、私もよく分かっていません。
まあ、まともな定義(考察対象)が書かれていないのは日本語の本ではよくあることですし、雑誌の一特集なのだからまあ良いでしょう。
私の感触では、線形代数とはベクトル(vector)と行列(matrix)のことです。ベクトルが実体を表し、その変換に行列を使います。
ベクトルは有向線分で図示されるように、幾何学由来の概念です。ただし、普通の線形代数ではユークリッド空間の直交座標が前提となっています。元のベクトルは斜交座標でも有効です。こちらを扱うのなら共変・反変ベクトルの解説が必要で、さらに別方向の考え方として極ベクトルと軸ベクトルの違いがあります。ここにはなぜかまったく触れられていません。
行列はその前に行列式の時代があったと触れられているように、私の感触ではおそらく連立一次方程式の解法で出てきた概念です。ですから、こちらは代数学出身です。なので、数値の変換が出てくるのは関数みたいなもので当然でしょう。
いわゆる群論で扱う要素は回転などの「操作」なので、部分的に行列と群論の相性が良いのは、どちらも操作だから、の一言で済んでしまいます。ところが、この操作の能力が行列にはかなりきつい制限があって、群論の方が遥かに多彩でややこしいです。
もう、誰も言わないから私が勝手に妄想します。要は電子計算機に合致した数学が必要になった、ということ。目的は私のような各部門の技術者が容易に計算機技術を習得できること、です。
最初の計算機言語、FORTRANは科学技術計算向きとされていて、アセンブラに比べて有利な点は実数の代用として浮動小数点数が気軽に使えること、複合型が配列という一概念に統一されていること、です。
要は、一次元配列をベクトルとして取り扱い、二次元配列を行列として取り扱います。普通はどちらも実数型(一単位一要素)で、複素数型(一単位二要素)も用意されていますがめったに使わないと思います。計数と配列の要素の指定には計算機の整数型を用いると高速なので、これも残します。
意地悪い言い方をすると、FORTRANに合致した数学手法が選別され洗練されて行き、それを線形代数と呼んだのだと思います。