以下の文の主語と目的語に下線をつけよ。
My brother has a white bike.
多くの英文法の参考書や問題集では以下のような解答を要求しているようだ。
1) My brother has a white bike.
主語 目的語
私の考えでは主語とは、文の中で主語の位置にある語(群)のことであり、目的語とは、目的語の位置にある語(群)のことなので、[ ]で表すと以下のようになる。
2) [My brother] has [a white bike].
S O
1)のような解答を求める教師や英語学者は、主語や目的語、さらには補語といったものはそれぞれ1語でなくてはならないと思っているようだ。「主語になれるのは名詞だけで、My は形容詞ではないか!brother だけが主語の位置にある唯一の名詞だから、この文の主語は brother 1語である。」というわけだ。このように、主語は1語だと考える輩(やから)を、”主語1語主義者”と呼ぶ。
目的語も同様の論理で、「目的語は名詞でなければならない。a は冠詞だ!white は形容詞だ! bike は名詞だ!だから bike が目的語だろう!」
主語にしても、目的語にしても、日本における英文法は明治以来、subject を 主語、 object を 目的語 と訳して、何の疑問も抱かずにきた。主語、目的語にしても、 "~語"というふうに、それがあたかも単語であるかのような訳語を使い、今度は逆にその訳語にしばられて subject が単語であると思い込んでしまうのだ。英文法においては、subject の訳語としては、「主体」「主部」のほうが弊害は少なかっただろう。
1)のような文構造分析は、単語レベルの、ほとんど品詞分類に毛が生えた程度のものでしかない。小学生、中学1年生程度の、文といえば、単語数が多くて7つか8つくらいの文のレベルにしか使えない代物である。
まず、subject, object, complement, といった文の要素は、1語であることもあるが、2語以上の語群であることもある。はっきりいって、語数は関係ないのである。現実には、代名詞と固有名詞を別にすれば、2語以上であることのほうが圧倒的に多い。以下の例を見ていただきたい。
a) He loves Mary.
b) Mrs. Green and my mother often go shopping together.
c) The charming woman who asked me about your whereabout left this message.
上記 a) のようにいわゆる S、V、O がそれぞれ1語であるケースはむしろまれである。こうした例外的なケースを理想的な例文として考えるような発想自体がちょっと現実の英語の世界を知らなさすぎて、滑稽である。
主語1語に絞り込まずにはいられない主語1語主義者は、上記 b) の文の主語はどうするのだ? Green だけを主語にするのか、mother のほうだけを主語にするのか、それとも主語はGreen と mother の2つだとするのか?ぜひとも1語を選び出していただきたいものだ。ちなみに、私は Mrs, Green and my mother を、一かたまりの ”主部”と考える。
上記 c) の場合、主語1語主義者は woman が主語であると勝ち誇ったように指摘することだろう。私は、 The charming woman who asked me about your whereabout の9語を、一かたまりの ”主部”と考える。この部分は以下のように、代名詞 she 1語で置き換えられるのだ。
[The charming woman who asked me about your whereabout] left this message.
[ She ] left this message.
ということは、この[ ]部分は、1つの名詞に相当することになり、subject である資格を十分そなえていることになる。9語では多すぎる、長すぎると感じるひとは、実際の英語を知らないひとである。このくらいの長さのフレーズはふつうである。この文全体の中で woman が主語だ!という指摘にどれだけの意味があるだろうか。それよりも、The から whereabout までの9語が一かたまりで 主部 を作っているという認識のほうがはるかに実際の英文読解に役立つだろう。