遊爺雑記帳

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【続】米国の対中国戦略 最近は中国に対する評価の低下に対し、日本や日米同盟に対する評価が上昇

2016-04-20 23:59:58 | 日本を護ろう
 「米国の対中国戦略 最近は中国に対する評価の低下に対し、日本や日米同盟に対する評価が上昇」の続きです。

 
■ 4 デニス・ブレア論文の中国認識と日米共通の対中国戦略
 本稿の冒頭で紹介した各種論文の中でブレア論文「主張する関与:最新の米国および日本の対中国戦略」を取り上げる。
 ブレア氏は、太平洋軍司令官や国家情報長官(2009年1月29日~ 2010年5月28日)を歴任し、特に国家情報長官の時にはGLOBAL TRENDSを指導する立場であった。現在69歳で日本のシンクタンクSPF USAの会長および最高経営責任者(CEO)である。
 筆者も何度かブレア氏と話す機会に恵まれたが、優れた安全保障の専門家である。
ブレア氏は、米国の同盟国としての日本の重要性を理解したうえで、日米共通の対中国戦略を構築すべきであるという立場
をとっている。
 ブレア論文の際立った特徴は、
日米同盟関係を背景として日米共通の対中国戦略を提唱
した点にある。

●ブレア論文の結論
 ブレア氏は、論文の結論として、
米国と日本の共通の対中国戦略は「主張する関与(Assertive Engagement)」であるべき
だと主張している。
 ブレア氏によると、
日米の従来の対中政策が、中国の直接的侵略に対する軍事的抑止を維持しつつ、共通の経済的および外交的利益を促進するものであったが、その戦略は中国の活動に対して日米両国の国益を擁護するには不十分
である。
 対中国政策に関しては、「関与とヘッジ」(Engagement and Hedging)という表現を使用する人が多く、ブレア氏の案も「関与とヘッジ」ではあるが、
従来のような温厚な関与ではなく、より押しの強い自己主張の強い関与「主張する関与」
である。
 この「主張する関与」では、
中国とは協調をしつつも、双方の利害が対立する場合には公正で平和的な妥協を鍛造
する(筆者注:forgeという単語が使用されているが、鉄(中国)をたたいて妥協策を作り上げるイメージである)ことにより日米の国益を擁護すると主張している。

●「主張する関与」の背景としての対中国認識と戦略の一端
 まずブレア論文が結論とした「主張する関与」が導き出された背景となっている、2030年までを見通した中国の未来に関する予測について説明する。

<中略>

中国の将来は、白紙的には4つのシナリオ
、「強くて攻撃的(Powerful and Aggressive)」、「強くて友好的(Powerful and Benevolent)」、「弱くて攻撃的(Weak and Aggressive)」、「弱くて内向き(Weak and Inward Looking)」が考えられる。
 GLOBAL TRENDS 2035の関連で言えば、「強くて攻撃的」な中国は「On the Brink(崖っぷち)シナリオ」に、「弱くて攻撃的」な中国は「Feral Dogs(野生の犬)シナリオ」に関連している。
 以下に4つの白紙的なシナリオと最終的に対中国戦略を構築する際に前提となる基本シナリオを提示する。

●シナリオ1:「強くて友好的」な中国
 このシナリオは
日米にとって好ましいシナリオである。中国経済は新常態に上手く移行し、短中期的に5~7%の経済成長率
を達成する。
 国内的に安定し、対外的にも米国、日本、欧州と協調する。東シナ海・南シナ海の領土問題でも平和的解決を模索し、サイバー空間での情報窃取を慎み、世界の諸問題の解決に積極的に関与する。

●シナリオ2:「強くて攻撃的」な中国
 このシナリオは
日米にとって最も危険で困難なシナリオである。中国経済はほぼ完全に市場経済に移行し、5~7%の経済成長率
(少なくとも日米よりも3~4%高い成長率)を達成する。
 国内の企業が有利になるように
外国企業の中国での活動を制限し、海外では重商主義的な政策をとる。国防費を増大させ、2030年には米国の国防費に迫る

 その経済力・軍事力を活用し、中国共産党の独裁、
台湾統一、チベッ
ト・新疆の統治、東シナ海・南シナ海の領土問題の要求実現をアグッレシブに追求
する。日本周辺で大規模な軍事演習を実施する。
 さらに
インドとの国境問題で拡大要求をし、インド洋での支配的な海洋パワーになることを追求
する。
 サイバー攻撃を強化し、
中国主導の経済的および軍事的な地域組織を構築
し既存の国際組織に対抗する。世界の紛争地帯において中国の国益を追求する。気候変動などの国際的課題に対し自国の国益を優先する一国行動主義的な政策を追求する。

●シナリオ3:「弱くて内向き」な中国
 このシナリオは、
中国の1975年から2000年までの状態と同じ
であり、日米ともに中国に脅威を感じないシナリオである。
 
新常態の経済への移行に失敗し、せいぜい2~3%の経済成長率であり、国内問題(経済不振に伴う不満など)の処理に追われ、国防費も経済成長率の低下とともに削減
せざるを得ない状況になる。
 国内的にはメディア・インタ-ネットの統制を強化し、共産党への反対意見を押さえつけるが、東シナ海・南シナ海の領土問題やインドとの国境問題での対外姿勢をソフトにする。国際的な機関や地域的な機関への関与を減じ、世界の紛争地域への介入を避ける。

●シナリオ4:「弱くて攻撃的」な中国
 このシナリオにおける中国の将来は、
輝きを失った成長(2~3%以下)と国内の困難な諸問題に伴う社会秩序の維持に汲々とした状態
である。
 共産党の権力を維持するために、
国内の諸問題を米国および日本の責任であると非難
する。チベットと新疆に対して過酷な対応をし、国粋主義的な論理に基づき領土問題などにおいて攻撃的な対外政策をとる。
 中国政府は、自国の弱さを認識しているため、
日本や米国との全面戦争を求めはしないが、戦争一歩手前まで挑発を繰り返す

 台湾、東シナ海・南シナ海、インドとの国境において挑発的だが制限された行為で緊張を高める。世界の諸問題の解決において、
日米の国益を棄損するような挑発的で愛国主義的な政策
を採用する。

●対中国戦略を構築するための基本シナリオ
 白紙的にはメリハリの利いた上記4つのシナリオが考えられるが、
日米共通の対中国戦略構築のための基本的シナリオは以上4つをミックスしたもの
として考える。

 その基本シナリオによると、
中国共産党の権力掌握は継続し、その経済成長率は3~4%であり、中国が世界一の経済大国である米国を凌駕することはない国防費の増加率は、現在のレベルを維持する可能性はあるが、現在の10%の伸び率から3~4%の伸び率に低下する。
<中略>

 次いで、中国に対していかに対処するかの選択肢であるが、ブレア氏は図3に示す4つの選択肢
を提示している。
 つまり、「外的バランシング(External Balancing)」、「内的バランシング(Internal Balancing)」、「制度への取り込み(Institutionalization)」、「安心の保証(Reassurance)」である。

「外的バランシング」とは、中国の影響力に対抗するために日米が他の国々と協力するか、中国と対立する他の国々の能力強化を手助けする
こと。例えば、日米が、インド、オーストラリア、南西アジア諸国と協力することである。

「内的バランシング」とは、日米のそれぞれの国の政治的・軍事的能力を増強することにより、中国の影響力を相殺し、その侵略を抑止・撃退すること。例えば、防衛費の増加、在日米軍を作戦コマンドに格上げすること、民間飛行場を軍民共用にする
ことなどである。

「制度への取り込み」とは、中国と協力的でウィンウィンの経済的関係を促進することである。中国のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)加入やアジアインフラ投資銀行(AIIB)への日米の協力など
である。

「安心の保証」とは、軍事的及び外交的措置で、共通の課題解決のために中国の協力を促進することである。例えば、中国と共同して人道的支援や災害派遣演習を実施することである。
<中略>


 なお、内的バランシング、外的バランシングという用語は国際政治のバランシング理論の中で普通に使われている用語である。
 簡単に表現すると、自らの努力(防衛費の増加、安全保障法制の整備、経済成長など)で対処する「自助」と同盟国や友好国との協力により対処する「共助」という表現になる。内的バランシングが自助であり、外的バランシングが共助である。
 公助が存在しない国際システム(アナーキーな国際システム)において、自らの安全確保のためには自助努力が前提であり、自助だけでは足りないところは周辺諸国との協力による共助で対処することになる。
 通常は、日米同盟によるバランシングは外的バランシングに分類されるが、ブレア氏は、日本と米国が共同して中国に対処することを強調するために、日米によるバランシングを内的バランシングで説明している。
 この点はブレア論文の「日米共同の戦略」という特徴がよく出ている。なお、ミアシャイマー教授は、「外的バランシングは、脅威を受けた側の国々がまとまって防御的な同盟を結成し、危険な敵を封じ込めることであり、二極化した世界だけに起こる」と主張している。

●「主張する関与」の5つの政策
 ブレア氏が提唱する「主張する関与(Assertive Engagement)」の5つの政策であるが、詳しくは次回のリポートで報告する。

 ●中国に対するより統合された米国および日本の戦略
 ●より強い米国および日本の経済
 ●中国との現実的な経済関係
 ●より強力な日米協同の軍事力
 ●東シナ海および南シナ海における中国の侵略への対処

■ 結言
 
中国が現在陥っている経済的危機の深刻さは、GLOBAL TRENDS 2030で予想された中国の破竹の勢いの国力の増強が実現しないことを意味する
 様々な中国に対するシナリオを紹介してきたが、私の
中国に対する評価は「手負いの龍」
のイメージである。
 経済的苦境にある手負いの熊であるロシアがクリミア併合やシリアでの軍事行動などの問題行動を引き起こしているように、
手負いの龍である中国も攻撃的な対外政策をとる可能性
がある。
 ダニエル・リンチ氏が「中国台頭の終焉」で指摘するように、「
中国台頭の終わりは、日本の台頭の終わりが日本のエリートたちを傷つけた以上に中国共産党を傷つける
であろう。国粋主義的な軍人や野望に満ちた外交の戦略家たちは強圧的で不快な外交政策に明らかに関心を持っているが、それらの政策により中国の状況を支え切れるものではない」のである。

 一方、
中国の台頭以降、世界の日本に対する注目度は極度に低下していたが、最近発表された論文などに共通的に見られるのが、米国の対中国戦略において日本を高めに再評価する動き、日米同盟を再評価する動き
である。
 この日本に対する評価の上昇と中国に対する評価の低下は注目すべき現象であることを強調したい。

<後略>

 2014年頃まで、中国の目覚ましい国力の上昇と米国の相対的な国力の低下が常識とされ、2030年頃には中国の国力が米国の国力を追い越すとまで予想されていたが、中国が現在陥っている経済的危機の深刻さは、破竹の勢いの国力の増強が実現しないことを意味すると指摘されています。

 「中国崩壊論」には組さないが、日本の「失われた20年」のような停滞期に入っているとし、ただし中国共産党を傷つけることになるとし、中国を手負いの龍と評価されています。経済的苦境にある手負いの熊であるロシアがクリミア併合やシリアでの軍事行動などの問題行動を引き起こしているように、手負いの龍である中国も攻撃的な対外政策をとる可能性があると。
 手負いの龍の根拠は、デニス・ブレア論文を基に、中国の将来について、4つのシナリオを紹介し、中国共産党の権力掌握は継続し、その経済成長率は3~4%であり、国防費の増加率は3~4%の伸び率に低下と観たものです。

 対中戦略は、この4つをミックスしたものが必要と説いておられます。
 1.中国の影響力に対抗するために日米が他の国々と協力するか、中国と対立する他の国々の能力強化を手助けする
 2.防衛費の増加、在日米軍を作戦コマンドに格上げ、民間飛行場を軍民共用にするなどの日米のそれぞれの国の政治的・軍事的能力を増強でけん制
 3.中国のTPP加入やアジアインフラ投資銀行(AIIB)への日米の協力などの、中国と協力的でウィンウィンの経済的関係を促進
 4.中国と共同して人道的支援や災害派遣演習を実施するなど、軍事的及び外交的措置で、共通の課題解決の解決協力

 遊爺は、[3.]については反対というか、実現は困難と考えますが?
 中国の将来のシナリオについて、「手負いの龍」の評価は、「シナリオ4」だと理解します。なので、[1.][2.]が重要だとも考えます。

 次回はブレア論文の細部とともに、各シンクタンクが提唱する対中国戦略について記述されるとのことですから、続編を待ちたいところです。



 # 冒頭の画像は、元米国家情報長官・元太平洋軍司令官デニス・ブレア退役海軍大将




  この花は、日本水仙


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