ゆいもあ亭【非】日常

映画や小説などのフィクション(非・日常)に関するブログ

自分こそ伝説の怪物なのだと忽然と自覚したら……!

2007-08-07 | 映画
地球最後の男」(The Last Man on Earth)

地獄へつゞく部屋」の怪演も素晴らしかった、ホラーの名優ヴィンセント・プライスが、地球最後の男ロバートを好演した1964年作品。

*原作はリチャード・マシスンの「吸血鬼」(I am legend)。その翻訳は田中小実昌で、後に「地球最後の男」に改題。わたしは改題後の文庫版を読みました。マシスンはこれと、やはり映画にもなっている「縮みゆく人間」がよいですね。「地獄の家」(「ヘルハウス」原作)も「激突」(スピルバーグの出世作として知られるテレビ映画原作。アメリカ以外では劇場公開)もよいのですけれどね。*

地球最後の男/オメガマン」(The Omega Man)1971年のリメイク作品のロバートはチャールトン・ヘストンが演じていて、あまり悲壮な感じはなかったし、自己犠牲によって人類の未来を拓く(だろう)と思われるようなラストである。I am legendという原作の意味合いも、ここでは彼の旧世代な生き様を言っているようにも思われるし、もう少し好意的に見ても、キリストの如き自己犠牲が、彼によって新たな出発を迎えることが出来た「地球最後で、新世代最初」の若者たちによって「伝説」として語り継がれるのではないかという予感を醸すので、ヒーロー=ヘストンの面目躍如という感じで、かえって感じが悪い。

まあ、役者のタイプがまさに違うわけで、ヴィンセント・プライスのロバートの方が遥かに陰気で、悲壮だ。ヘストンのロバートはまるで細菌学者には見えないし、秘密組織の諜報員か何かのようで、また、自分の家を「吸血鬼」どもに対抗するように要塞化している。プライスのロバートはいかにも神経質な科学者に見えるし、もしかしたら自ら悪魔の実験をしていたのかもしれないとも見えるものの、娘の死と妻の再生を経ていっそう神経を病んだ感じがよく出ており、また、彼の家を守るのもただただ大蒜(にんにく)と鏡であって、グラインダーで削って用意している心臓に刺す杭もなんだか悲しい。いやいや、そこがいいんだが。

プライス版では、セリフとして、「I am lagend」があるわけだが、生き延びて地球最後の男と成り果てたことによる価値観の逆転を示した言葉であり、絶対多数の(善良な)「吸血鬼」にとって、安眠している隙を突き、心臓に杭を打って回る彼こそ「伝説の化け物」であるという、原作のテイストがきちんと息づいている。

更には「恐怖の足跡」以上に、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の“原作”とも目されている本作。わらわらと群れ集い、のたのたとにじり寄る生ける死者たちの雰囲気は、確かにロメロ・ゾンビのオリジナルといえる、その様も一見の価値あり。

ラストのダウン・ビートっぷりもなかなかよいこの作品、原作へのオマージュとしてか、パスティーシュとしてか、そういう点で秀逸な藤子・F・不二雄「流血鬼」(吸血鬼化の原因菌の名が「マチスン・ウイルス」という!)とは好一対のラストといえるだろう。

近々三度目の映画化が見込まれているが、リドリー・スコット監督、アーノルド・シュワルツェネガー主演などと伝えられた時には心配したが、フランシス・ローレンス監督、ウィル・スミス主演ということになった模様でひと安心。最近、予告編も公開された。


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2 コメント

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ひとえに演出力。 (yuimor)
2007-08-16 21:12:34
効果的なVFX、CG、よいと思います。

でも、その効果を活かすも殺すも結局は本編の演出力だと。

「ジョーズ」はその恐怖演出を分析し、見倣うべき指折りの作品。メカニカル・シャークの「ブルース」も、とりあえずあれで充分なのでしょう。
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Unknown (ペケ子)
2007-08-11 23:45:33
お久しぶりです。
最近、本を読むのに忙しくて、映画を観る機会が減ったペケ子です。

昔の恐怖映画の方が意外と面白いかもしれないですね。
最近の映画はすぐにCGに頼るからキレイ過ぎな観が否めない。
「ジョーズ」にしてもあのハリボテ丸出しなサメの方が、異様に怖いのと同じなんでしょうかね。。。
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