映画で楽しむ世界史

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「コレラの時代の愛」の哀しさ

2011-02-13 09:58:48 | 舞台は中南米
コロンビア生まれのノーベル賞作家ガルシア・マルケスの小説を映画にした「コレラの時代の愛」

この映画を最も皮相的にストーリーのみを追うとすれば、卑猥な言葉だが助平男の「千人切り」物語。

生涯622人もの女の「カタログ」がある男が、厚かましくも、恥ずかしげもなく、70歳を超えても初恋の女を50年超愛していた、そして再会して、623人目に挑戦するところで・・・The End となるという話。

但しこの話の場所と時代を手がかりに、少し真面目に考えると・・・この映画の背景は1880-1930年の南米コロンビア、即ち「コロンブスの土地」の沸騰・内乱時代。

ガルシア・マルケスの小説は有名な「百年の孤独」や「族長の秋」など、特徴的なことは、先ずは長い歴史を鳥瞰する。そして歴史を飲み込むような、その間の愚かな、可笑しな出来事を何とか納得しようと足掻くような感じを醸し出す。

例えば「百年の孤独」。中南米地域が16世紀初コロンブス、コルテス、ピサロたちによって世界史のなかへ引き入れられてから、300年の植民地時代、19世紀の独立から今日に至るまで。その間の諸々を、現実と空想とが混然一体となった魔術的な世界を現出させる。絶えず欧米先進国を意識しながら、何とか主体性を持ちたいが持てない・・・。

「コレラの時代の愛」のコレラの流行はいつのことだったか、間欠的にしばしばあったのであろう。コレラが何時というよりもこの時代はコロンビアが内戦に明け暮れた時代。

もとを質せば、現地に定住したスペイン人(クレオール)や、彼らと現地人の混血児(メスティーソ)がフランス革命を真似して成遂げた「独立」。しかし中身は大土地所有・軍事力まで持つ政治ボス(カウディーヨ)、独裁者たちが支配する遅れた社会。

スローガン的には「保守派」と「自由派」などというが、実態はテロもが絡む権力闘争。
「コレラの時代」をもう少し狭めると、1899年から3年間10万人の犠牲者を出したといわれる内乱「千日戦争」が起きている。

要するにこういう時代のインテリ男の物語・・・折角の初恋が一攫千金を求めて成金趣味の親父の反対で潰されて・・・悶々の日々。優しい祖母の手引きで女に目覚め・・・やればやるほど何とも哀しい、可笑しさが込み上げてくるのは何故だろうか。

(了9

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