昼前、奥さんからのSkype呼び出し音で起床。ぼんやりとしながら会話をしているうちに少しずつ目が覚める。昼過ぎ、出張でロンドンに来ている建築学科同期と連絡がついたので在英同期との集まりを来週にセッティング。
午後から北ロンドンへ小旅行。北へ向かう地下鉄が軒並み止まっているので、マリルボン駅から鉄道で。ウェンブリー・スタジアム駅で降りて、Hopkins ArchitectsによるBrent Civic Centreを訪ねる。
石井くんとの待ち合わせまで時間があるので、カフェで£2.5の野菜カレーと£3.0のフィッシュアンドチップスを食しながらしばしぼんやり。
Brentはロンドンの北西部に位置する、大ロンドン域内でも大きな行政区のひとつ。
最も多様な人種構成を持つ行政区としても知られ、イギリス国籍を持つ白人は人口の1/3、残りをアジア人黒人アイルランド人様々な人種が占める。Brentの中心都市であるWembleyでは、Make(Foster事務所から分離独立した設計事務所)のマスタープランにより
ウェンブリースタジアム北西部の再開発が進められ、その中核施設として£90mをかけて建設されたのがこの新総合庁舎である。財政難な行政区としても知られるBrentであるが、これまで14の建物に分かれて設置されていた庁舎機能を一つに集約することによる費用削減(£2.5m/年との試算)と、結婚式場やイベントスペースなど商用目的に積極的に施設を貸し出すことによる収入増をみこんでいるようだ。そのハイテック・スタイルな外観と、効率的で戦略的なプログラムから、
「公共サービスを提供しつつ利益も生み出す21世紀のマシン」と評されてもいる。
施設に入りまず迎えられるのが二階のカフェへと続く大階段。この日も行われていたように、市民参加のイベントを催す劇場として設計されている。北西に位置するL字型の庁舎棟はこの巨大なアトリウムを見下ろすように配置されている。アトリウムを覆うETFE膜の屋根はそのまま円筒状の多目的ホールをもカバーし、公共機能を収める象徴的な「ひとつの屋根」を形成する。(Norman Fosterの
Reichstagのコンペ案を思い出す…)
石井くんも合流し、4時半から建築ガイドツアーに参加。Hopkins Architectsの南雲さんが解説をしてくれた。おそらく地元の方達であろうツアー参加者は、南雲さんを質問攻めにしたり隊列を離れて隅々まで覗きに行ったり、みなさん積極的であった。
執務室はホットデスク方式で、全職員の8割分しか机の数がない。二階分ずつの執務室がペアになって螺旋階段でつながっていて、異なる部署間の連係を促しているとのことだ。打ち放しのコンクリートはサーマルマスとして室内環境の安定に寄与する。屋上の太陽光パネルに加えてFood Wasteで稼働するバイオマス発電機が設置され(具体的には廃棄された魚の脂で稼働するらしいが、他にも11種類の異なる燃料で動かすことも出来る)、施設の使用電力の20%をまかなっている(敷地内で20%のエネルギーを再生可能な方法で生み出すことはロンドン市内のプロジェクトでは必ず求められる)。優れた外皮性能や、パッシブとアクティブを組み合わせた様々な環境制御手法などにより、サステイナビリティ性評価基準Breeamの2008年に新設された最高レベルOutstandingを獲得する最初の公共建築となる見込みである(Breeam Outstandingの取得には竣工後三年間の使用中の評価も必要)。
柔らかな木材もところどころに使用されているが、やはり空間を印象づけるのは、ホプキンスらしい力強いコンクリートと鉄骨のフレーム、メタルのクラディングである。同じくホプキンス設計の、国会議員会館のアトリウム、そこに接続する地下鉄ジュビリー線ウェストミンスター駅のエスカレーターホール、の印象と似ている。巨大な空間の巨大さ。
ブレース、そしてブレース。すっと屹立するマストに翻るユニオンジャック。英国ハイテック!
さて、今回のオープニングセレモニーでは、様々な催し物が施設内で用意されていたのであるが、鉄骨の支持構造が印象的な大ホールでは
English National Balletによる小作品『Fused』(『溶けて合わさった』)が上演されていた。建築ツアーのあとにちょうど最後の上演回を観ることが出来た。クラシックバレエとカタック(インド北西部に伝わる舞踊)を融合した新しいダンス作品を、Brentの地元のダンサーたちと一緒につくりあげてセレモニーで上演すべく、English National Balletの協力のもと
初夏にオーディションとワークショップを行うなどして準備が進められてきたもののようだ。踊っているダンサーの体つきを見てEnglish National Balletの所属ダンサーではなさそうだなと思ったが、ダンス経験3年以上の条件で集められた16-24歳の若い地元ダンサーたちだったようである。10分あるかないかの短い作品であったが、緩やかな音楽に合わせてのびやかに踊る、気持ちのよいダンスだった。
すべての催しが終わり帰路につく僕らの後ろから、ステージ衣装のままダンサーの女の子たちがエスカレーターにわいわいと乗ってきて、そのまま、まだエントランスに留まっている地元住民の輪の中にまぎれて消えて行った。セレモニーの司会者が集った人々に語りかけていた言葉がよみがえる。「20年後、いや、2年後でも十分かもしれません。みなさんが今日ここで、シビックセンターで行われた最初のライブパフォーマンスに立ち会ったのだということを、新しいBrentで思い出していることでしょう…」