【例題】原告をX、被告をYとする損害賠償請求訴訟において、第一審である甲地方裁判所は、「Yは、Xに対して、500万円を支払え」との判決を言い渡した。
(case1)Yがこの判決を不服として控訴したところ、控訴審である乙高等裁判所は、控訴棄却判決を言い渡した。
(case2)Yがこの判決を不服として控訴したところ、控訴審である乙高等裁判所は、原判決の全部取消判決(請求棄却判決)を言い渡した。
(case3)Yがこの判決を不服として控訴したところ、控訴審である乙高等裁判所は、原判決を変更して「Yは、Xに対して、300万円を支払え」との判決を言い渡した。
[判決確定の時期]
・第一審判決は、控訴期間の満了時に確定する(民訴法116条1項)。□コンメ(1)537、条解611
・控訴提起があった場合、第一審判決の全体につき、ひとまずその確定が遮断される(民訴法116条2項)。□コンメ(1)538
・控訴提起があったものの、控訴期間経過後に控訴が取り下げられた場合(民訴法292条1項)、当初から控訴がなかったものと擬制されるので(民訴法292条1項、262条1項)、第一審判決の確定時は(遡及して)控訴期間満了時となる(※)。□コンメ(1)537、条解611
※もっとも、この理解(遡及効)を貫くと、第一審判決が認めた権利につき、消滅時効の起算点(民法147条2項)において権利者に不利となる。したがって、時効起算点の関係では「判決確定時=控訴取下げ時≠控訴期間満了時」と解するべきである。このように、場面によって「確定時」の解釈がズレることになる。□コンメ(1)537、条解611
・控訴棄却判決が確定すれば(※)、その時に第一審判決も確定する。□条解612
※控訴審によって第一審判決変更されれば、第一審判決はその限度で効力を失うので「確定」の余地はなくなる。□条解612
[債務名義となる確定判決:第一審判決か/上訴審判決か]
・第一審判決が給付請求権を認め、上訴を経てもその結論が維持された場合は、確定した第一審判決が債務名義(民事執行法22条1号)となる。執行文付与機関である裁判所書記官は、債務名義=第一審判決に表示された給付請求権が効力を維持しているかを調査し、これが肯定される場合に執行分を付与する(民事執行法26条1項2項)(※)。□執行文講義21
※執行文付与を申し立てる際に、控訴審判決(控訴棄却)を提出する必要はない。
・第一審判決が認めた給付請求権が、上訴審で変更された場合(※)、その変更された控訴審判決(上告審判決)が債務名義となる(たぶん)。変更前の第一審判決は、そもそも「確定」の余地がない(たぶん)。
※第一審判決の一部を取り消す場合、「一部取消判決形式」と「変更判決」の両者がありうるが、わかりやすさの観点から変更判決が採用されることが多い。□佐藤158
・第一審判決が給付請求権を認めたものの、上訴審で請求権が棄却された場合、もはや「執行力のある確定判決」は存在しなくなる。
松浦馨・新堂幸司・竹下守夫・高橋宏志・加藤新太郎・上原敏夫・高田裕成著『条解民事訴訟法〔第2版〕』[2011]
裁判所職員総合研修所監修『執行文講義案〔改訂再訂版〕』[2015]
秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法2〔第3版〕』[2022]
佐藤陽一『実践講座 民事控訴審』[2023]