無免許運転への関与者の刑事責任

2023-04-05 18:28:22 | 交通・保険法

【例題】Aは、運転免許を受けないで自動車甲を運転し、警察に検挙された。

(case1)Aが検挙された時、Bが甲に同乗していた。

(case2)甲はCの名義であり、運転の1週間前にCからAへ甲が貸与されていた。

(case3)Aはこれまで自動車を運転した経験がなかったが、運転の直前にDから自動車の運転方法等を教えてもらっていた。

※無免許運転に関する道路交通法64条(1項=運転禁止、2項=車両提供禁止、3項=同乗禁止)と、酒気帯び運転に関する65条(1項=運転禁止、2項=車両提供禁止、4項=同乗禁止)は同じ構造である。

 

[同乗罪]

・依頼等に基づく同乗:実行行為は「要求又は依頼→同乗」である(道路交通法64条3項)。依頼等のないまま同乗した上で、同乗後に行先等を告げた場合も含まれる。□注釈669

・無免許運転の認識:同乗者には「運転者の無免許」の認識を要する(道路交通法64条3項)。□注釈668

 

[自動車等提供罪]

・自動車等の提供:実行行為である「車両等の提供」(道路交通法64条2項)とは、「提供者が、事実上支配している自動車を、運転者が利用しうる状態に置くこと」を指す。具体的には、自動車等の直接貸与、所在の教示+エンジンキーを渡す、などがある。□注釈667-8

・無免許運転のおそれ:運転者側の事情である「無免許運転することとなるおそれ」(道路交通法64条2項)とは、「自動車等の提供時から短時間の間に、運転者が無免許運転することとなる蓋然性」を指す。提供から運転までの間に長時間が空いていれば非該当となるのか(たぶん)。□注釈667

・「おそれ」の認識:提供者には、少なくとも「無免許運転のおそれへの未必の故意」が必要である。□注釈667

・無免許運転の実現:単に「無免許運転のおそれ」にとどまらず、現実に運転者が無免許運転を実行した時点で提供罪が成立する。この点を明らかにするために、道路交通法117条の2の2第1項2号が「当該違反により当該自動車又は原動機付自転車の提供を受けた者が同条第一項の規定に違反して当該自動車又は原動機付自転車を運転した場合に限る。」と明記している。□注釈668

・同乗罪と車両等提供罪の双方が成立する場合、罪数処理を併合罪とする裁判例(東京地判平成20年7月16日判時2015号158頁:ただし飲酒運転事案)がある。

 

[従犯一般]

・「同乗も提供もないが、唆しアリ」は、本犯(無免許運転罪)の教唆犯が成立する余地がある。□注釈677

・「同乗も提供もないが、指導アリ」は、本犯(無免許運転罪)の幇助犯(いわゆる指導幇助)が成立する余地がある。□注釈678

・「同乗はあるが、依頼なし」は、本犯(無免許運転罪)の幇助犯が成立する余地がある。もっとも、通常は「単なる同乗のみ」ならば物理的心理的促進性までは認められないか。□注釈678、小川263

 

[同乗罪等と従犯一般の関係]

・同乗罪等の新設にあたり、政府参考人(当時の警察庁交通局長)である矢代隆義は、従犯一般との関係を次のとおり述べた(第166回国会(衆)内閣委員会第28号平成19年6月13日):

 御指摘のように、今回の改正法は、幇助行為の中から一定の悪質な類型のものを取り出して、これを正面から処罰の対象とし、かつ処断刑を重くするというものでございますので、したがいまして、それ以外で、非定型的なもので、しかし幇助行為に当たるという場合には、従来同様に幇助犯に該当いたしますし、また教唆に該当する場合にはもちろん教唆犯として該当するわけでございます。

 したがいまして、今後、法改正がなされますと、特に悪質な車両等提供あるいは酒類の提供、それから一定の同乗行為でございますが、これに対しまして、捜査上、そういうことがないかということを正面から捜査していくと思いますし、また、今回、全体として飲酒運転に対する重罰化が図られてまいりますので、したがって、それに該当しない場合であっても、教唆ないしは幇助になっていないかどうか、こういうことも含めて捜査するわけでございますので、その数字がどこまで出てくるかというのは一概には言えませんが、少なくとも、積極的な取り組みによりまして、責任追及というものが進んでいくものであろうというふうに考えております。

・同乗罪や提供罪が成立する場合は、さらに従犯の成否を論ずる実益はないか(たぶん)。ただし、後述の行政処分の点では検討を要する。

 

[補足:運転免許取消処分等]

・次の各行為は「重大違反」と定義される(道路交通法90条1項5号、道路交通法施行令33条の2の3第4項)。

[1-1]酒酔い運転(道路交通法117条の2第1項1号)、[1-2]麻薬等運転(道路交通法117条の2第1項3号)、[1-3]いわゆる「あおり運転」(道路交通法117条の2第1項4号、117条の2の2第1項8号)

[2]ひき逃げ(道路交通法117条1項2項)

[3]6点以上の一般違反行為 ※無免許運転は25点→《交通違反に対するサンクション(その1):点数制度

・「運転者を唆して重大違反をさせること」「当該重大違反を助けること」は重大違反唆し等と呼称され、点数制度によらずに直ちに免許取消や免許停止の対象となる(道路交通法103条1項6号)。同乗罪や提供罪はこれらに該当すると解されている。□注釈668,667

 

小川賢一『新実務道路交通法』[2008]

道路交通執務研究会編著『執務資料道路交通法解説〔17訂版〕』[2014]

坂本学史「飲酒運転同乗罪と幇助犯」神戸学院法学42巻3号4号[2013]

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