民事上訴審の立件と各種事務

2023-09-21 23:13:24 | 民事手続法

【例題】Xを原告、Yを被告とする損害賠償請求事件につき、甲地方裁判所はXの請求を全部認容する判決を言い渡した。Yはこの判決に不服がある。

※記録符号は、民事事件記録符号規程の別表参照。

 

[控訴提起事件(地裁「ワネ」/簡裁「ハレ」)]

・控訴提起と立件:控訴状の提出先は第一審裁判所であり(民訴法286条1項)、第一審裁判所は控訴状を受理して「民事控訴提起事件」として立件する。第一審の事件名が損害賠償請求事件であれば、「損害賠償請求控訴提起事件」などと呼称される。□研究54-5

・控訴の適法性審査:第一審裁判所は「控訴が不適法でその不備を補正することができないことが明らかであるとき」には控訴却下決定をする(民訴法287条1項)。もっとも、控訴状審査権は控訴裁判所の裁判長に属するから(民訴法288条、289条2項)、「不適法が明らか」とはいえない場合には却下できない。例えば、印紙が不足しているだけでは却下不可。□研究68-9

・記録の送付:第一審裁判所から控訴裁判所への事件送付は、法文上「遅滞なく」されなければならない(民訴規則174条)。通常、第一審裁判所(地裁)から控訴裁判所(高裁)に訴訟記録が送付されるスケジュールは、控訴状提出から20~30日程度である。□研究102、瀬木682

 

[控訴事件(高裁「ネ」/地裁「レ」)]

・立件:第一審裁判所から送付された訴訟記録を受領した控訴裁判所は、「民事控訴事件」として立件する。原判決書の個数が立件数となる。□研究102

・控訴状の審査:控訴裁判所の裁判長は、控訴状の審査を行う(民訴法288条、137条)。例として、必要的記載事項の有無(民訴法288条前段、286条2項)、申立手数料としての収入印紙の貼用の有無(民訴法288条後段)など。不備不足がある場合は、控訴人に対する補正の促しをし、相当期間(実務上は7日、10日、14日)を定めた補正命令を発令する(民訴法288条、137条、289条2項)。所定期間内に補正がされなければ、控訴状は却下される(民訴法288条、137条2項、289条2項)。□研究109-10

・控訴の適法性審査:控訴裁判所は、「控訴が不適法でその不備を補正することができないとき」には控訴却下判決ができる(民訴法290条)。典型例が控訴期間経過後の控訴。□研究111-2

・参考事項の聴取:控訴審の裁判長は、書記官に命じて、当事者から参考事項を聴取することができる(民訴規則179条、61条2項)。

・控訴理由書の提出:控訴人は、控訴提起後50日以内に、控訴裁判所に控訴理由書を提出する(民訴規則182条)。□研究116-7

・控訴答弁書の提出:被控訴人は控訴答弁書(民訴規則182条の法文上は「反論書」)を提出することが通例である。裁判長は控訴答弁書の提出期限を定めることができるが(民訴規則183条)、特に期限が定められないときもある。□研究117-8

 

[上告提起事件(高裁「ネオ」/地裁「レツ」)、上告受理申立て事件(高裁「ネ受」)]

・上告提起等と別個の立件:上告状の提出先は原裁判所であり(民訴法314条1項)、上告受理申立書(※)の提出先も同様である(民訴法318条5項)。上告裁判所が最高裁判所となるときは、「上告状兼上告受理申立書」との表題にした1通の書面で上告提起と上告受理申立てを同時にすることができる(民訴規則188条)。この場合でも、「民事上告提起事件(ネオ)」と「民事上告受理申立て事件(ネ受)」が別個に立件される。□研究227-9

※送り仮名「て」を振る例:申し立てる、申立て、民事の申立て事件(民事事件記録符号規程別表参照)、申立て理由書(民訴規則3条1項4号参照)

※送り仮名「て」を振らない例:申立人(民訴規則25条2項)、申立権(民訴規則230条参照)、家事の申立事件(家事事件記録符号規程別表)、申立書(民訴規則41条2項参照)

・当事者の表記:「上告人兼申立人」「被上告人兼相手方」となる。訴訟委任状用紙は、控訴審用を修正して作成し(第一審の事件番号も付記する、反訴等の事項を削除)、1通に上告用と上告受理申立て用(被上告用と相手方用)をまとめて記載してよい。

・適法性審査:原裁判所は上告や上告受理申立ての形式的適法性を審査する(民訴法316条1項1号、318条5項)。

・上告提起通知書等の送達:適法性審査を完了すると、被上告人に上告状を送達し、当事者双方(※)に上告提起通知書と上告受理申立て通知書を送達する(民訴規則189条1項、199条2項)。この送達時が上告理由書と上告受理申立て理由書の提出期間(50日間)の起算点となる(民訴法315条1項、民訴規則194条、民訴法318条5項、民訴規則199条2項)。□研究241

※被上告人宛てへの送達にあたっては、書記官から控訴審代理人に「通知書を誰に送達するか?」の問い合わせがある(この時、事件番号を教えてもらう)。代理人に送達してほしいと回答すると、訴訟委任状提出前でも送達される。

・上告理由書等の提出:控訴時とは異なり、上告理由書や上告受理申立て理由書の提出先は原裁判所となる(民訴法315条1項、318条5項)。これらの提出がない場合、原裁判所は上告却下決定や上告受理申立て却下決定をする(民訴法316条1項2号、318条5項)。□研究244

・記録の送付:控訴裁判所から上告裁判所への事件送付の時期について法文上の制約はない(民訴規則197条1項)。通常は、上告理由書提出期間(上告受理申立て理由書提出期間)内に上告理由書等の提出があった場合、原裁判所は、提出期間到来後速やかに、事件記録を上告裁判所へ送付する。□研究248

 

[上告事件(最高裁「オ」/高裁「ツ」)、上告受理事件(最高裁「受」)]

・別個の立件:控訴裁判所から送付された上告提起事件等の事件記録の送付を受けた上告裁判所は、「民事上告事件(オ)」「民事上告受理事件(受)」として立件する。□研究214

・上告理由書等の副本の送達の有無:被上告人の防御の機会を考えるまでもない場合は、上告理由書副本を送達しないことができる(民訴規則198条ただし書)。上告受理申立て理由書副本の送達の有無についても同様(民訴規則199条2項前段)。□瀬木712-3

・上告事件の判断:不適法ゆえの上告却下決定(民訴法317条1項、316条1項各号)、明らかに上告理由に該当しないゆえの上告棄却決定(民訴法317条2項)、上告理由がないゆえの口頭弁論を経ない上告棄却判決(民訴法319条)などがある。

・上告受理事件の判断:立件後の判断として、まずは上告の受理不受理の決定がされる(民訴法318条1項)。上告受理決定があると上告があったものとみなされ(民訴法318条4項前段)、当該事件についての判断がされる。□研究214

 

裁判所職員総合研修所監修『民事上訴審の手続と書記官事務の研究〔補訂版〕』[2019]」

瀬木比呂志『民事訴訟法〔第2版〕』[2022]

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