被告所在不明の送達実務

2023-07-17 11:48:04 | 民事手続法

【例題】Xは所有する甲土地の売却を考えているが、甲土地にはYを抵当権者とする抵当権設定登記がある。XはYとは面識がなく、Yが現在どこに住んでいるのかを知らない。

 

[一応の「最後の住所等」への送達]

・実際に被告が居住しているか否かはともかく、被告に関する記録(住民票、戸籍附票、不動産登記、商業登記、交通事故証明書、従前の契約書など)に一応の住所等が記録されていることがある。この場合、原告は、訴状に「記録上に記載された住所等」を記載することになろう。

・裁判所も、いきなり公示送達によるのではなく、ひとまずは「記録上の最後の住所等」への交付送達(狭義)を試みることが多い。幸運にも当該住所で受領される場合や、郵便局に転居届が出ていて新住所で受領される可能性もある。□研究184

・自然人の場合:基本的送達場所は「本人の住所、居所、営業所or事務所」のいずれかとなる(民訴法103条1項本文)。これに対し、もう1つの基本的送達場所である就業場所(民訴法103条2項)は2次的なものと位置付けられる。□研究79

・法人の場合:裁判実務では「法人の営業所(or事務所)」が第一に選択される(民訴法103条1項ただし書)。これが不奏功になった場合、「代表者の住所、居所」への再送達を行う(民訴法103条1項本文)。□研究74-5 →《解散した会社を当事者とする民事訴訟》

 

[就業場所送達の可否]

・原告が特定した「一応の最後の住所」への送達が、「転居先不明」「あて所尋ねあたらず」で不奏功に終わると、書記官は訴状の補正の促し(民訴規則56条)として、原告に「被告の住所等の調査」を求める。□研究72

・「民訴法103条1項に定める場所(=住所等)が知れないとき」は就業場所送達が許容されるので(民訴法103条2項前段)(※)、仮に就業場所が判明している場合は就業場所送達を検討することになろう。もっとも、被告のプライバシー保護との関係から、「転居先不明」「あて所尋ねあたらず」だけでは要件は具備されず、住民票等の調査を経たがなおも住所等が知れないことを要する。□研究76,78-9

※「民訴法103条1項に定める場所(=住所等)において送達をするのに支障があるとき」も就業場所送達ができる(民訴法103条2項前段)。

 

[付郵便送達の可否]

・住所等への送達が「全戸不在」によって奏功せず、かつ、就業場所送達もできなければ、付郵便送達(民訴法107条1項1号)の検討を要する。□研究159-60

・原告は、付郵便送達を求める上申とともに、要件認定のための資料として次のものを提出することになろう。

[1]送達を試みた住所や居所が実体を伴っていることがわかる資料。具体的には、「住民票等の公的証明」「当該住所を調査した原告(代理人)作成の調査報告書」となろう。□研究160-1

[2]就業場所が不明であることがわかる資料。具体的には「就業場所の有無を調査した原告(代理人)作成の調査報告書」となろう。□研究162-5

 

[最後の手段としての公示送達]

・被告の住所、居所、営業所(or事務所)、就業場所の全てが知れなければ、公示送達の要件を満たす(民訴法110条1項1号)。ここで「知れない」とは、通常の調査方法を講じても住所等が判明しないという客観的なものを指し、「何人にも知れないという高度の確定的な程度」までは要求されない。この要件の証明が原告(代理人)の腕の見せ所だろう。□研究178-9

・自然人の場合:「元の住所」「転居先と思われる住所」「就業場所」について調査しても判明しない場合。□研究179

・法人の場合:「法人の営業所(or事務所)」「代表者の所在」について調査しても判明しない場合。法人の営業所が判明している場合は、特別代理人の選任を求めることになる。□研究179

・原告が公示送達申立書(手数料不要)を提出すると、民事雑事件として立件される。原告は、要件の証明資料として「住民票等の公的証明(弁護士法照会の回答を含む)」「原告(代理人)作成の調査報告書」などを提出する。□研究183-5

・1回目の公示送達:原告の申立てによって行われ(民訴法110条1項柱書)、裁判所の掲示板に期日呼出状の原本が掲示され(民訴規則46条1項)、掲示日から2週間(初日不参入)を経過した日に送達の効力が生じる(民訴法112条1項本文)。□研究191-2

・2回目以降の公示送達:職権で行われ(民訴法110条3項本文)、掲示日の翌日(=午前0時)に効力が発生する(民訴法112条1項ただし書)。□研究192

・公示送達を実施しない処分(=申立ての却下)に対しては、異議申立て(手数料500円)ができる(民訴法121条)。さらに異議申立て却下決定には、通常抗告が可能である(民訴法328条1項)。□研究190

 

裁判所職員総合研修所監修『民事訴訟関係書類の送達実務の研究ー新訂ー』[2006]

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