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訴え・請求・請求原因

2023-11-30 22:24:56 | 民事手続(訴訟行為)

【例題】Xは、Yに対して、200万円の貸金返還請求権を有していると主張し、甲地方裁判所に貸金請求訴訟を提起した。

 

[各概念の関連]□講義案60-1(ただし、瀬木とは「広義」の説明が若干異なる)

・「訴訟物」:[例]原告と被告との間で締結された令和4年6月1日付け消費貸借契約に基づく200万円の貸金返還請求権

↓〈+原告から被告へ向けたベクトル〉↓

・「狭義の請求」:[例]…が存在するとの原告の被告に対する主張

↓〈+権利保護方式の指定〉↓

・「広義の請求」:[例]…に対応した給付の要求

↓〈+裁判所への申立て〉↓

・「訴え」:…を認容するよう裁判所に対し審判の開始を求める原告の申立て

 

[訴え]

・「裁判所に対する審判の申立て」をいう。民訴法134条1項は「訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。」と規定するので、「1つの訴え=1通の訴状を裁判所に提出すること」と換言できる。□瀬木24-5

・1通の訴状(=1つの訴え)をもって、複数の請求をすること(請求の併合)が許容される(民訴法136条)。

・訴えの種類には、広義の請求の性質に対応して「給付、確認、形成」の3種がある。□瀬木26

 

[請求]

・最狭義の請求=訴訟物:「審判の対象となる権利関係」をいい、すなわち「訴訟物」である。□瀬木25

・狭義の請求:最狭義の請求(訴訟物)に、さらに当事者間のベクトルが加わったものであり、「原告から被告に向けられた権利関係(主張)」をいう。□瀬木25

[例]同一の債権に対する「XからYへの給付請求」と「YからXへの債務不存在確認請求」は、最狭義の請求(訴訟物)としては同一であるが、狭義の請求としては異なる(ベクトルは逆方向)。□瀬木25

・広義の請求=請求の趣旨:狭義の請求に、さらに権利保護方式の指定(給付、確認、形成)が加わったもの。訴状の必要的記載事項である「請求の趣旨(民訴法134条2項2号)=訴えという申立てをもって求める審判の内容」は、この意味(広義)である。□瀬木25,39

 

[請求の原因]

・狭義の請求の原因(民訴法134条2項2号):「請求の趣旨と相まって請求を特定する事項」をいう。給付の訴えや形成の訴えでは、請求の趣旨を見ただけでは訴訟物が特定できない。そこで請求を特定するための要素の記載が必須となる。なお、確認の訴えでは、請求の趣旨のみから訴訟物が特定できる。□民訴講義案84-5,60-1

[例]所有権:原告の、某物件についての、所有権

[例]債権:原告の、被告に対する、⚫︎年⚫︎月⚫︎日付け消費貸借契約に基づく、⚫︎万円の貸金返還請求権

[例]物権的請求権:原告の、被告に対する、某物件の、所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権

・広義の請求の原因(民訴規則53条1項):「訴訟物である権利関係を基礎付ける事実主張(=主要事実である請求原因事実)」をいう(理由付け請求原因)。□瀬木40、民訴講義案85

・「狭義の請求の原因」を欠けば訴状が却下され(民訴法137条2項)、「広義の請求の原因」を欠けば請求が棄却される。□民訴講義案87

 

[攻撃防御方法]

・攻撃方法:原告が求める審判の内容を支持したり、基礎付けるための一切の訴訟資料をいう。□コンメ(3)364-5、民訴講義案132-4

[例]事実上の主張:理由付け請求原因もこの一つである。

[例]法律上の主張

[例]相手方の主張に対する認否

[例]証拠申出

[例]証拠抗弁

・防御方法:被告の申立てを支持するためのものをいう。

・民訴法の法文において、条文見出しでは「攻撃防御方法」とされ、条文中では「攻撃又は防御の方法」とされる(民訴法156条など)。

 

[応用:訴えの変更]

・訴えの変更=広義の請求の変更:「訴えの変更」(民訴法143条の見出し)と呼称される訴訟行為は、「審判対象=広義の請求」の変更を求める原告の申立てである。手続としては、(「請求の趣旨」の変更に及べば)変更申立書の送達を要する(民訴法143条2項、3項、民訴規則58条2項、1項。□コンメ(3)188、民訴講義案79-80、実務講義案(1)246

[例]「特定物αの引渡請求」→「損害賠償請求」。「請求の趣旨」「請求原因事実」がいずれも変更されている。

[例]「請求権の確認請求」→「請求権に基づく給付請求」。「請求の趣旨」が変更されている(権利保護方式の指定の変更)。なお、狭義の請求は変更されていない(確認の利益を別にすれば「請求原因事実」に変更はない)。□コンメ(3)192

[例]「貸金500万円の支払請求(元本のみ)」→「不当利得500万円の返還請求(元本のみ)」。

[例]「所有権に基づく明渡請求」→「使用貸借の終了に基づく明渡請求」。「請求の趣旨」に変更はないが、「請求原因事実」は変更されている。これも「民訴法143条1項本文が規定する『請求又は請求の原因の変更』」に該当するところ、請求の趣旨は変わらないので「民訴法143条2項による『請求の変更=書面による』との規律」は及ばない(最三判昭和35年5月24日民集第14巻7号1183頁)。もっとも、現実には裁判体から書面提出が求められるのが通常だろう(たぶん)。□コンメ(3)210、民訴講義案79-80、実務講義案(1)246

・追加的変更:従前の請求を残したまま、新しい請求も追加して定立する場合。この時の原告は、旧請求と新請求の関係につき「単純併合/予備的併合/選択的併合」の別を指示する。□コンメ(3)189,191-2、民訴講義案80,78-9

・交換的変更:従前の請求に代えて、新しい請求を定立する場合。捨てられる従前の請求の処理は、取下げの規律(民訴法261条2項)に服する。□実務講義案(1)247

・請求の拡張:実務では、金銭給付請求権の性質は変えないまま、請求の数量的範囲(請求額)を拡張することがある。これは、当然に広義の請求の量を変動させるので(=訴えの変更)、「訴え変更申立書」の提出と副本の送達を要する(民訴法143条2項、3項、民訴規則58条2項、1項)。□コンメ(3)192、実務講義案(1)246

・請求の減縮:拡張と反対に、金銭給付請求権の性質は変えないまま、請求の数量的範囲(請求額)を縮小することもある。これは、民訴法143条の問題ではなく、「訴えの一部取下げ」として取下げの規律にしたがう。既に被告が請求棄却を求める答弁書を提出済みであれば、被告の同意を要する(民訴法261条2項本文)。当該訴え変更申立書(厳密には訴え一部取下書)の副本を被告に送達する必要があり(民訴法261条3項本文、民訴規則162条1項)、送達から2週間以内に不同意が出されなければ同意が擬制される(民訴法261条5項前段)。□コンメ(3)192-3、実務講義案(1)246、瀬木94

[例]「債務不履行に基づく損害賠償請求(200万円)」→〈請求の原因&訴訟物の変更〉→「不法行為に基づく損害賠償請求(200万円)」

※コンメ(3)は「民訴規則53条1項」に繰り返し言及するが、私見では疑問。

・攻撃方法のみの変更?:「請求原因(攻撃方法)は変更するものの、『請求の趣旨』『訴訟物』に変更はない」場合は、民訴法143条がいう「訴えの変更」には該当しない。したがって、準備書面レベル(or口頭)で「変更」を主張すれば足りる。□実務講義案(1)246、瀬木95、条解830

[例]「請求権の不存在確認請求(∵弁済)」→「請求権の不存在確認請求(∵消滅時効)」:「広義の請求」に変更はない(「請求の趣旨」もそのまま)。単に攻撃方法(不存在確認請求なので再抗弁)が変更されたに過ぎない。□コンメ(3)195

・訴え変更不許可の裁判:訴えの変更が「不当」であるときは、「その変更を許さない旨の決定」がされる(民訴法143条4項)。期日(外)で不許の決定をする場合(→独立した不服はNG=上訴で争う)、終局判決の理由中に記載する場合がある。ここでいう「不当」とは、[1]請求の基礎を変更してしまう(民訴法143条1項本文)、[2]事実審の口頭弁論が終結している(民訴法143条1項本文)、[3]著しく訴訟手続を遅滞させる(民訴法143条1項ただし書)、のいずれかを指すのか(たぶん)。□コンメ(3)211-2,198

 

裁判所職員総合研修所編『民事訴訟法講義案〔改訂補訂版〕』[2007]

裁判所職員総合研修所編『民事実務講義案1〔四訂版〕』[2008]

松浦馨・新堂幸司・竹下守夫・高橋宏志・加藤新太郎・上原敏夫・高田裕成『条解民事訴訟法〔第2版〕』[2011]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法3〔第2版〕』[2018]

瀬木比呂志『民事訴訟法〔第2版〕』[2022]


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