2020-03-30追記:文献を最新のものに改めた。
【例題】株式会社Pには、代表取締役として社長A・会長B・専務Cがいる。
(1)P社では、弁護士Lに委任し、Sに対する損害賠償請求訴訟を準備している。
(2)P社は、Gから損害賠償請求訴訟を提起されたので、弁護士Lに委任して応訴を準備している。
[前提;会社の権利能力=当事者能力]
・会社は法人であるから(会社法3条)、「法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において」権利(義務)能力を有する(民法34条;最大判昭和45・6・24民集24巻6号625頁[八幡製鉄事件])。□江頭33-4;「〔民法34条による制限明定は〕立法論としてはなはだ遺憾」
・この「実体法上の権利能力」に対応するのが「訴訟法上の当事者能力」である。訴訟上の能力は原則として実体法の規定にしたがって確定されるから(民訴法28条;権利能力=当事者能力、行為能力=訴訟能力)、会社は当事者能力を有する者として民事訴訟の主体(原告・被告など)になりうる。□コンメ(1)290-4、龍田前田57
[訴訟無能力規定の準用]
・法人が民事訴訟の当事者となれたとしても、実際の訴訟行為をおこなうのは機関(代表者)である。民訴法はこの「法人ー代表者」の関係を、「訴訟無能力者(成年被後見人など)ー法定代理人(成年後見人など)」との関係に類似するものと捉え、後者の諸規定(民訴法31条、34条など)を準用して処理することにした(民訴法37条)。この準用の結果、誰が「法人の代表者(≒訴訟無能力者の法定代理人)」となるかは、実体法の規定にしたがって決定される(民訴法28条)。□コンメ(1)362-4
・取締役会設置会社では代表取締役が必要的に選定されるところ(会社法362条3項)、その代表取締役は「株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」者として(会社法349条4項)、「訴訟上の代表者」ともなる。
・取締役設置会社以外の会社において、すべての取締役は各自が会社を代表する(会社法349条2項)し、各自が「株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限」を有する(会社法349条4項)。□江頭408-10
[代表取締役による単独代表]
・当該会社において代表取締役が数名存在する場合、誰が訴訟行為をするか(共同代理となるべきか、単独代理で足りるか)も、実体法の規定にしたがう(民訴法37条→28条)。□コンメ(1)326
・会社法は、各代表取締役が単独で会社を代表できることを当然の理としているから(参照;内部的制限が第三者に対向できない旨を定めた会社法349条5項、平成17年改正前商法の共同代表取締役制度)、各代表取締役は、単独で「訴訟上の代表者」となることができる。□単独代表を明示する文献としてアルマ147-8、神田3章6節4.4.(3)[第22版では234]、江頭410参照
・ようやく【例題】(1)の回答。以上の理解からは、P社では、3名の代表者(A・B・C)のいずれもが単独で「訴訟上の代表者」となることができる。民事訴訟実務の慣行として、例えばAのみが記名押印した弁護士L宛ての委任状が裁判所に提出されれば、それをもって「実際に訴訟行為を担当する代表者はAである」と取り扱われている。 □コンメ(1)365-6
・ついで【例題】(2)について。P社が被告とされる場合、まずは原告Gが、A・B・Cのいずれか(または複数)を選んで訴状に「P社の代表者」として記載する。これにP社が応訴する場合、P社は、(訴状記載とは無関係に)担当する代表者(例えばA)を定めれば足りる。具体的には、「Aのみが記名押印した弁護士L宛ての委任状」と「Aが代表者として記載された答弁書」が提出されることになろう。□コンメ(1)365-6
[各論的問題]
・もっとも、「訴訟上の代表者」とされなかった残りの代表取締役(【例題】のBやC)の扱いは、以下のとおり微妙。□コンメ(1)365-6
[1]Aが提起した訴訟を、Bが取り下げることができるか。福岡高判昭和32・10・26高民集10巻9号497頁は肯定。
[2]担当外代表取締役Bを尋問する場合、その立場はどうなるか。最二判昭和27・2・2民集6巻2号279頁は「証人」とする。
[3]担当代表取締役Aが死亡した場合、訴訟手続は中断するか(民訴法124条1項3号によれば法定代理人の死亡は中断事由)。積極消極の両説ある。もっとも、訴訟代理人があれば中断されないので(民訴法124条2項)、この問題が顕在化するのは本人訴訟に限られるか。
吉原和志・黒沼悦郎・前田雅弘・片木晴彦『会社法1〔第5版〕(有斐閣アルマ)』[2005]※ついに改訂されなかった名著・・・
☆秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法1〔第2版追補版〕』[2014]
江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』[2017]
龍田節・前田雅弘『会社法大要〔第2版〕』[2017]
神田秀樹『会社法〔第22版〕』[2020] ※久々に新版を購入したが(すみません)、簡明な記述はやはりすばらしい。