弁論の要領と口頭弁論調書

2023-07-13 20:14:51 | 民事手続法

【例題】甲地方裁判所では、Xを原告、Yを被告とする損害賠償請求訴訟が係属しており、既に期日が複数回開廷された。当事者からは複数の主張書面や書証の提出があり、裁判官や当事者は期日で種々の発言をしている。

 

[調書の意義]

・手続の経過を明らかにするため、裁判所(=手続の主宰者)とは別の機関である裁判所書記官が口頭弁論に関与し、そのための証明文書である「調書」を作成する(民訴法160条3項)。調書の作成に関し、裁判長ですら記載の訂正変更を命じることができるにとどまる(裁判所法60条4項)。□実務講義案(1)90

・一期日一調書の原則(民訴法160条1項):期日毎に調書が作成される必要があり(弁論が行われなかった場合も含む)、当該期日に立会した書記官のみが作成権限を有する。□民訴法講義案143

・現行法では、調書の作成期限は法定されていない。□民訴法講義案143

・調書の様式:調書通達により、基本調書である「口頭弁論調書・準備的口頭弁論調書」「弁論準備手続調書」と、書証を記載する「書証目録」、書証以外の証拠関係を記載する「証人等目録」、尋問の結果を記載する「証人等調書」、それ以外の「調書(←和解調書など)」が定められている。□実務講義案(1)91-2

 

[記載事項の区分]

・民訴規則は、「形式的記載事項(民訴規則66条の見出し)」と「実質的記載事項(民訴規則67条の見出し)」を区別する。後者は、さらに「必要的記載事項としての弁論の要領/任意的記載事項としての攻撃防御方法の予定など」に細分される(たぶん)。

・「形式的/実質的」と似て非なる区分けとして、「口頭弁論の方式/その余の弁論の内容」がある。これは、証拠方法の制約の有無に着目した分類である。

(ア)形式的記載事項(口頭弁論の方式その1):必要的記載として民訴規則66条1項各号が限定列挙しており、全て「口頭弁論の方式(民訴法160条3項本文)」である(たぶん)。

(イ)弁論の要領のうちの判決言渡しなど(口頭弁論の方式その2):必要的記載である「弁論の要領(民訴規則67条1項柱書)」のうち、「判決言渡し(民訴規則67条1項8号)」「書面を作成しないでした裁判(民訴規則67条1項7号)」は、「口頭弁論の方式」でもある。

(ウ)弁論の要領のうちのその他:必要的記載である「弁論の要領(民訴規則67条1項柱書)」のうちには、上記の裁判以外のものがある。民訴規則67条1項各号がその一部を例示列挙している。

(エ)提出期限など:実質的記載事項であるものの、弁論の要領ではなく、任意的に記載されるものとして「当事者による攻撃防御方法の提出の予定」「その他訴訟手続の進行に関する事項」がある(民訴規則67条3項)。

 

[「口頭弁論の方式」の記載と唯一の証拠方法]

・口頭弁論の方式(=形式的記載事項+α):弁論の外部的形式については、調書が唯一の証拠方法となり、それ以外の方法で証明することは許されない(民訴法160条3項)。□実務講義案(1)92

[1]裁判所の構成(民訴規則66条1項2号)

[2]書記官の立会(民訴規則66条1項2号)

[3]弁論の日時と場所(民訴規則66条1項5号)

[4]公開の有無(民訴規則66条1項6号)

[5]当事者等の出欠(民訴規則66条1項4号):なお、弁論準備手続期日では「当事者が申し出た者の傍聴は原則許可、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認めれば不許可でも可」とされるが(民訴法169条2項ただし書)、この傍聴人の氏名は記録されない(たぶん)。

[6]直接主義に関する事項:弁論の更新(民訴法249条2項)、弁論準備手続の結果陳述(民訴法173条)、など。□実務講義案(1)93

[7]書面を作成しないでした裁判(民訴規則67条1項7号8号・実質的記載事項):弁論の分離併合(民訴法152条1項)、弁論の終結(民訴法243条1項)、和解勧告(民訴法89条1項)、証拠に関する裁判(証人某を尋問する、検証する、当事者某の申請する証拠は取り調べない、など)、時機に後れた攻撃防御方法の却下決定(民訴法157条1項)、次回期日の指定命令(民訴法93条1項)、など。もっとも、複雑なものや関係人への送達を要するものは、調書とは別に書面を作成するのが通例。□コンメ396-7

[8]判決言渡しとその方式(民訴規則67条1項8号参照・実質的記載事項) :□実務講義案(1)93

[9]従前の口頭弁論の結果陳述(最三判昭和33年11月4日民集12巻15号3247頁):□民訴法講義案147

・口頭弁論の方式以外の証明:当事者の弁論内容や証人の供述内容など(=実質的記載事項の大半)は、調書以外の方法による証明が許される(民訴法160条3項参照)。もっとも、調書記載どおりの事実の存在が強度に推定される(最二判昭和45年2月6日民集24巻2号81頁参照;「第二審において上告人から提出された準備書面が陳述された旨口頭弁論調書に記載がなく、かつその記載のないことにつき当事者から異議の述べられた形跡のない場合においては、特段の事情のないかぎり、右準備書面は第二審の口頭弁論期日に陳述されなかつたものといわなければならないところ、本件記録によれば、所論の準備書面が陳述された旨の記載は原審口頭弁論調書にないばかりか、その記載のないことにつき当事者から異議の述べられた形跡も認められず、そして右準備書面が陳述されたことを認めることのできる証拠もない。したがつて、所論準備書面は結局原審口頭弁論期日に陳述されなかつたものといわざるをえない。」)。□実務講義案(1)93、民訴講義案147

 

[裁判以外の弁論の要領(陳述以外)と提出期限など]

・調書の実質的記載事項は「弁論の要領」(民訴規則67条1項柱書)とプラスアルファである。逐一の記載は不要であり、書記官によって法的に的確に整理した記載が求められる。主に次のものがあり、一部は民訴法67条1項が列挙する。

[1]攻撃防御方法(※)、それに対する答弁、それに対する釈明、証拠申出(※)など:これらは主張書面等で明らかにされていることが本来であるが、あえて調書に記載することがある。□コンメ(3)392

※弁論準備手続調書の記載も口頭弁論調書に準ずるが(民訴規則88条4項)、特に「攻撃防御方法、それに対する相手方の陳述、証拠申出」を記載することが特筆されている(民訴規則88条1項、民訴法161条2項)。□実務講義案(1)196

[2]自白(民訴規則67条1項1号・弁論の要領)

[3-1]審理計画に関する内容(民訴規則67条1項2号・弁論の要領)

[3-2]次回期日までの準備事項、主張書面等の提出期限など(民訴規則67条3項・任意的記載事項)

[4]訴えの取下げ、和解、請求の放棄、請求の認諾(民訴規則67条1項1号・弁論の要領)

[5-1]裁判長が記載を命じた事項(民訴規則67条1項6号・弁論の要領)

[5-2]当事者の請求により裁判長が記載を許した事項(民訴規則67条1項6号・弁論の要領):当事者がある事項の調書記載を求める根拠となり、裁判長は記載の有無を判断することになる。□コンメ(3)396

 

[弁論の要領のうちの証言や陳述(民訴規則67条1項3号)]

・尋問における証人の陳述は「証人調書」、当事者本人の陳述は「本人調書」に記載される。

・明文では、地裁以上でも「証人調書等の作成に代えて、録音テープ等の記録をもって調書の記載に代えることができる(民訴規則68条1項前段)」とされるものの、個人的には経験がない。仮にこのような事態に直面した当事者は、訴訟完結前に陳述の書面化を申し出ることになろう(民訴規則68条2項前段)。

・これに対し、簡裁の審理では、証人等の陳述の結果の記載を省略できることが明文されており(民訴規則170条1項前段)、運用でも調書省略が原則化している。当事者には、録音テープ等への記録申出権(民訴規則170条2項前段)、その録音テープ等の複製申出権(民訴規則170条2項後段)が認められる。

 

[調書と媒体]

・口頭弁論調書には、各種媒体(書面、写真、録音テープ、ビデオテープ、その他裁判所において適当と認めるもの)の引用が認められる(民訴規則69条)。これら媒体は、訴訟記録に添付されることで調書の一部となる(民訴規則69条)。

・上述した「簡裁における尋問調書の省略時」において証言を記録した録音テープは、訴訟記録を構成しない。

・以上2つと似て非なるものとして、「裁判所が録音装置を使用して陳述の一部を録取→相当と認めるときは反訳調書の作成」という手続がある(民訴規則76条)。実務で活用されているかは疑問。

・なお、法廷における写真撮影(速記、録音、録画、放送)は、原則として禁止される(民訴規則77条)。

 

[調書の訂正、更正、異議]

・訂正:当該調書に直接加筆して誤りを改めること。ただし、「絶対的証明力を有する口頭弁論の方式に関する規定の遵守に関する事項」については、仮に異議の申述があっても訂正は許されないと言われる。□実務講義案(1)363

・更正:訂正以外の方法で誤りを改めること。一般の調書については何らの規定がないが、訂正前の調書を前提にした訴訟行為がされた事案で、更正調書を是認した判例がある。なお、和解調書等については、判決の更正に準じた更正決定が認められている(→《判決更正の実務》)。□実務講義案(1)363-4

・異議:当事者等は調書の記載に異議を述べることができ、その事実は調書の必要的記載事項となる(民訴法160条2項)。異議の時的限界について明記はないが、調書完成後の最初の期日までと解されている。当該異議の正当性は、当該期日を主宰した裁判所等が判断する。□実務講義案(1)363

 

裁判所職員総合研修所監修『民事訴訟法講義案〔改訂補訂版〕』[2007]

裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案1〔四訂版〕』[2008]

秋山幹男・伊藤眞・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法3』[2008]

コメント    この記事についてブログを書く
« 「弁論の全趣旨」による事実認定 | トップ | 被告所在不明の送達実務 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

民事手続法」カテゴリの最新記事